先日、青森・上野間を往復する高速バスで、ゆっくり宮部みゆき著「模倣犯(上・下)」を読みました。<o:p></o:p>
何と言ってもラスト・シーンが圧巻でした。
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HBSテレビ局の報道特番で、ルポライター前畑滋子が、主犯のピースこと網川浩一と対決する。<o:p></o:p>
滋子が語る。「実は、疑われて死んだ青年は無実だ、彼は殺人者ではないと訴えて、全米の話題を集めた友人こそが、事件の真犯人だったというのです。そして、強力な物証がいくつも発見されて、逃げられなくなった彼は、どうしてこんなことをしたのかと問われて、こう答えます。“だって、面白かったからさ。正義の味方のふりをして、みんなの注目を浴びるのが愉快だったからさ”と」<o:p></o:p>
網川浩一の声が飛ぶ。「デタラメを言うな」<o:p></o:p>
滋子が静かに応じる。「デタラメではありません」 「すべてこの本に書いてあることです。事実なんですよ。10年前、いえ、正確に言うとこちらの事件が起こったのは11年前のことです。アメリカの、メリーランド州でね。すでにこういう事件が起こっている。ですからわたしは、わたしたちが抱えている今度の事件の犯人も、この11年前の事件を知っていて、それが日本では広く知られていないのをいいことに、そっくり真似たんじゃないかと思うのです。サル真似ですよ、サル真似。大がかりな模倣犯です。読んでいて、わたしの方が恥ずかしくなるくらいでした」<o:p></o:p>
これを聞いた網川浩一が堪え切れずに叫ぶ。「僕は自分で考えたんだ!全部自分で考えたんだ!すべてオリジナルなんだ!栗橋だってただの駒だった。あいつは筋書きなんか何も考えられなかった。ただ女どもを殺したいだけだった。高井和明を巻き込む計画だって、全部僕が考えたんだ。僕が筋書きをつくって実行したんだ!手本なんてなかった!サル真似なんかじゃない!僕は模倣犯なんかじゃないぞ!」
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(本文を引用)
犯人である網川浩一・栗橋浩美、栗橋浩美の親友高井和明、ルポライター前畑滋子、殺人事件を思わせるものの第一発見者塚田真一、孫娘を殺された有馬義男などの登場人物の心理描写を実にきめ細かく描いているのが印象的で、素晴らしいと思いました。
第二部のエピグラフは、ジョン・W・キャンベル・ジュニア作「影が行く」(ホラーSF傑作選『影が行く』所収 創元SF文庫 中村 融訳)から引用したものです。「ひとつ疑問なのは、われわれが見たのが、そいつの本来の姿なのかということです」でした。この模倣犯に登場する犯人である網川浩一・栗橋浩美の二人を、この「影が行く」(Who Goes There?)に登場する不定形の悪意ある異星生命体になぞらえたのではないかと思います。
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