遠い日の想い出など蘇らせて静かに歩んで行きました
四歳の私とお隣の女の子がなにすることもなく二人で丸太に腰掛けていたのがぼんやりと思い浮かびます。爺さんにもう家に帰りなさいと言われて別れて家の帰ったような気がします。
80歳になった頃機会があっておばあさんになった女の子にそのことを話すと覚えていてくれて「幼い二人の初恋だったんかな」と笑っていました。
小学校5年になった春、クラスで一番出来る女の子に「さんたろう私一人で林の中の道を歩いて帰るの怖いから送って・・」といわれて1kmほどの田舎道を二人で歩って送ったことがありました。相手の女の子はなんの気もなかったんでしょうけど私はすごく嬉しかったんです。二人が道の両脇に別れてなに話すこともなく女の子家まで林の中の道をおくりました。家につくと女の子は家の後ろの畑からキュウリを採ってきてだまって私にくれました。鮮やかに思い起こす嬉しい想い出です。
小学校6年になると父の仕事で別な学校に転校しました。その頃早生まれで背の低かった私は一番前の席でした。あるときふとうしろの席に目をやると可愛いと思っていた女の子と目があってしまったのです。なぜかドッキリコして顔が赤くなり不思議な想いで胸がいっぱいになりました。それからは遠くからそっと見ることがあっても決してその子に近づくことはありませんでそた。
そして・・・・
そして・・・・
わたしは九十三歳の爺いになりました。恋いなどしたことはないんですか?って、それはいっぱいありますよ。でも失恋は一度もありません。なぜって全部が片思いなんですから失恋などあろうはずがありません。
そうそう私の青春時代は女の人を恋するなんて不良少年のすることと人は思い私もそう思っていたのです。女の人などただ遠くから見てあこがれることの出来る美しく輝く存在だったんですよ。