出かけられなくて読書出来る時間が出来たので、後れ馳せながらこちらを読みました。
昨年秋に出版されたもので、渡邉晋氏がベガルタ仙台の監督として在籍された間の2015年から2019年までのことを中心に書かれています。
その後、渡邉さんは2021シーズンからレノファ山口の監督に就任することが発表されました。
タイトルがまた教科書的な戦術本に聴こえます。しかし、実際はそういうものではなく、渡邉さんが仙台の指揮を執る上で欠かせない戦術の基本となった「立ち位置で相手を困らせる」「スペースを支配する」、それらをチームに落とし込むための具体的な試行錯誤が細かく書かれています。
それだけでなく、理想と現実の間での葛藤やマネジメント論など「そこまでさらけ出していいの?」というような内容となっており、非常に読みやすいと思います。
いわゆる「ポジショナルプレー」を初めから意識していたわけではなく、「立ち位置で相手を困らせる」サッカーを志向したら「あっ、これポジショナルプレーじゃん」となったみたいな流れですね。
私が一番ぐっとくるのは「再現性」が語られるときです。いつ出るかわからない選手の創造性やスーパープレーに頼るのではなく、チームとして再現性あるサッカーをしたいと。その手段というか、基礎がポジショナルプレーであると。
途中何度も「サッカーに正解はない」的な断りを入れてらっしゃいますが、終盤は育成年代のことにも触れて、多くの人にこれを基礎として本質としてほしいというのが文章にも表れているように私は感じました。
私も共感します。ポジショナルプレーがトレンドだからとかそういうことではなく、実際勉強していくと、立ち位置で相手を困らせるというのは個人戦術として身につけておけば絶対に有利だろうと思うからです。渡邉さんはあくまでボールを握り相手を押し込んで戦うことをメインに考えてらっしゃるようですが、長谷部茂利監督のアビスパ福岡のようにボールを奪って速く攻めるトランジションサッカーを見ていても、その感覚を持っていることは重要であると感じます。
V·ファーレン長崎のアカデミー、特にU-18のサッカーを見ていても、その流れは顕著です。
育成年代で身につけられれば、どこに行ってもある程度力を発揮出来るのではと思ってしまうのですが、どうだろ?そんなに甘くはないのかな。でもスーパープレーヤーは生まれるもので、そうそう育てられるわけではないなら、こちらのほうがいい気がするのですが。
それはさておきまして、他サポーターから見て、私はレノファ山口を羨ましく思います。
なぜかというと、この本の中で渡邉監督が今までやってきたことを詳細に書いているだけでなく、内容によっては「私は次もこれをやると思います」とオープンに明かしていて、これからどんなサッカーをするかをサポーターもある程度共有出来るのではという期待があるからです。
それって、楽しくないですか?
一般的に、時としてクラブとファン·サポーターとの一体感が語られますが、現場とサポーターがやりたいサッカーを共有することほど一体感が高まる手段はない気がします。というのは言い過ぎかなぁ…?
少なくとも私は勝ち負けだけでなく、自分が応援するチームがどんなサッカーを志向し、実際試合でそれがどの程度出来ていたのかを知りたいです。選手の気持ちや献身はそのために使われてほしいと思っています。そして、そこに感動したい。
上手くいかないことも、もちろんあるかもしれませんが、上手くいかないときでも立ち返れるものがあるとか、理由が説明出来るということは、次に進む上でも、見る側としての精神衛生的にも(笑)、重要だと思うので、やっぱり欲しいなと考えてしまいます。
だから、私はこの本を読んでの一番の感想が、そういう意味でレノファが羨ましいと思った次第です。
いえ、まあ皆が皆読むわけではないでしょうし、読んでも同じ理解になるわけではないというのはわかっています。ただ、「隣の芝は青い」じゃないですが、いつかそういう世界線に生きてみたいという理想の話でした。
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