Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

どこかで見た顔

2012-07-14 04:28:14 | その他
JR電車内の広告ポスターをぼーっと眺めていたら、人気アーティストの展覧会案内が天井に近い差込広告欄にディスプレイされていた。
他の俗界広告と比較した場合、画然と異界のオーラを柔らかく放っているポスターで電車が関内駅に到着する寸前にシャッターをきった。奈良美智の展覧会が7月14日から横浜のMM21地区にある大きな美術館で始まるらしい。

奈良美智がそろそろメジャーな活躍を始めた時期の内房線の車内での会話を思いだす。
ちょうど十年くらい前の初夏だろうか?糖尿病を病んでいた今は亡き安原顕さん。
彼は「マリークレール」というお洒落な女性服装雑誌を大胆に改革してオトコにも読ませるという仕掛けを作った鼻も目も利くスーパーエディターで、当時は学研の委託文芸雑誌の仕事が累積赤字を重ねて辞めた直後だったような気がする。

もう一人の車内客はよく一緒に旅をしたメグ・オーナーの寺島靖国さんだった。目的地の舘山へ着くまでには時間もあり、当時台頭してきたジャズシンガーの品評から、吉本ばななの単行本のこと、それに及んで挿絵のカットを描いていた奈良美智までを俎上に今でいうところの「いいね」「わるいね」風品評を交わして、無論、奈良美智の作品に対して安原顕と自分が「いいね」で寺島靖国は「ノーコメント」、当時、躍進中のシンガー綾戸千絵については安原顕が「いいね」に対して寺島さんと自分が「わるいね」などと暇にまかせた好き勝手な品評会を開いていた。

このポスターにはよいコピーが写真をとてもよくサポートしている。朱色のタンクトップ、微かに微笑むこの少女はさしずめ現代版の岸田劉生作「麗子像」みたいなものだろう。もう一人どこかで似ている質感の扁平でファニイな少女を既視した記憶がひっかかっている。

JR関内駅を降りて横浜スタジアムの脇にある公園は夏空の真下だ。公園の舞い上あがる噴水脇の花壇にしきりと水を撒く初老の夏帽子姿の人を見ながら、こういう仕事ができたらいいなと思って通り過ぎる。

その瞬間に少女の顔が浮かんだ。北欧の映画監督、ベルイマンの映画「魔笛」のなかに映像の節目に登場する鼻の稜線が極端に扁平した女の子がいて、この不思議な超越論風な眼差しでオペラを鑑賞する少女と奈良美智のポスター少女が同質の匂いがすることに、はたと気がついた。

夏場に開催中の駒場民芸館でバーナード・リーチ展を見物したら、その次は奈良美智の展示会に行って別などこかで見た人物でも探して、お得意なフェノメノン(現象)から本質への往還感覚に磨きをかけようと思っている。