初冬めいた天気が続いている。座間へ引越ししたのはよいが、機動力を誇っていた足がまだ不自由でこの痛みが冬場に持ち越ししないことを願っている。移住して以来自宅付近でまともに口をきいた人物はまだ数えるくらいしかいない
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それでも駅南口の坂途中にあるコーヒー豆の挽き売りの小さなお店をしているコーヒーノートの若い主人とは鳥の生態話で話が弾んだ。自分が住んでいる所からそう遠くない場所にせりざわ公園という緑地があって、そこで都市部では滅多にお目にかかれない、カッコウやマヒワを目撃したことがあるという嬉しそうな話しぶりには彼の中心的生き方のコーヒー道と共通する香りがして、こちらもジャズ談義のときのように具体的な描写で精密に応じてやりたい気分になってくる。肝心のコーヒーの味はどうだろう?彼の顔立ちは自分のように髪が無くなってから剃っているいわゆる悪相に転化しかねないスキンヘッドではなく、禅宗などの僧侶めいた禁欲的で清廉な坊主頭だ。何か一途性を感じるものがあるなと思いつつ、丁寧に漉したコーヒーを啜ってみる。やはり直感はあたっていて、コーヒーのフルーティで際立った甘みが他店の一般コーヒーよりもはるかに優っている。爽快なやや薄味の飲み口だ。しかしオーディオ的用語で喩えれば中低音のボディ感が不足した痩せぎすな味である。3ウエイ、4ウエイとエッジを明確にしてよりピュアな音像を求めて腐心しているエンジニア系趣味人の痩せぎすな骨ばかりで血肉のないような音と似た匂いがする。この店でついでに購入したコーヒー牛乳ゼリーは絶品だ。コーヒーで感じた潔癖癖が弱まっていて値段も安い。おまけに甘すぎない。手始めにジャズ友としては一番の至近距離になった町田で歯科医院をしている桜井先生あたりへの手土産に数個買ってみる。次は同じ小田急線沿線の達人宅に佇む英国ジョーダンワッツの昔からその容姿に片思いを寄せている、自分がつけた愛称、美の壷スピーカー、本名フラゴンの音にも接してみたいから、今度の休日にはお供えとして訪れてみようと、山茶花がひっそりと綻び始めた座間の坂道を足を引きずりながら、あれこれ思案している