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ビブリオ菌は、温かい汽水や海水など、世界中のいたるところに存在する。生の牡蠣など、ビブリオ菌に汚染された海産物を食べたり、ビブリオ菌で汚染された水に皮膚の傷やひび割れをさらしたりすることで感染し、人食いバクテリアと俗に呼ばれている症状を引き起こす。
米国疾病管理予防センター(CDC)によると、ビブリオ菌による感染報告数は、1997年に386件だったのが、2016年には1,256件と、3倍以上に増えている。
専門家は、気候変動がビブリオ菌感染の増加を促進し、今までは寒すぎた場所でもビブリオ菌が増殖できるようになり、気温と海面の上昇が私たちの健康に及ぼす見えない脅威を明示している、と指摘している。
CDCのデータによると、今年の夏、大西洋岸、メキシコ湾岸の州、太平洋岸北西部で、感染例が数多く報告されている。テキサスやフロリダでは、死亡例も出ている。
サウスカロライナ大学アーノルド公衆衛生大学院環境衛生学部で臨床教授、学部長を務めるジェフ・スコット氏によると、気候変動と沿岸部の都市化により、水を媒介とする細菌が発生して感染が増加している。
「栄養素の流入が増え、水中のさまざまなもののレベルが上がり、それに加えて、水面が上昇、温度や塩分濃度も変化します。これらすべてが、ビブリオ菌にとってまたとない環境になります」と、スコット教授はBuzzFeed Newsに話した。
CDCの推定では、毎年、ビブリオ菌による感染症は80,000例、死亡例は100件にのぼり、その多くは温度が上がる5月から10月の間に発生している。
人体に病気を引き起こすビブリオ菌は約12種あり、その中でもアメリカで一般的なものは、腸炎ビブリオ、ビブリオ・バルニフィカス、ビブリオ・アルギノリチカスだ。
ビブリオ菌は、下痢、腹部痙攣、吐き気、嘔吐、発熱、寒気などを伴う胃腸炎、生死に関わる血流感染症である敗血症など、さまざまな病気を引き起こす。
ビブリオ・バルニフィカスは、創傷感染を引き起こすことで知られているが、壊死性筋膜炎の原因ともなるため、人食いバクテリア症とも呼ばれており、手足の切断や死に至ることもある。
ビブリオ菌が原因で病気になることは誰にでもあり得るが、糖尿病、肝疾患、癌などの持病を持っている人が罹患しやすく、重篤な合併症も起こしやすい。
CDC腸疾患部門の疫学者、エリン・ストークス氏は、CDCのデータによるとビブリオ菌感染の数は何年もの間増加しており、増加原因の究明はまだだが沿岸海域の水温上昇が一因らしい、と話している。
というのも、ビブリオ菌は15度以上の水温で急増するとされているが、以前よりもさらに北の海域で水温が15度を超えることが頻繁に起きているためだ。
「ビブリオ菌による感染が今まで報告されなかったところでも発生しています」と、ノースカロライナ大学で海洋科学の教授を務めているレイチェル・ノーブル氏はBuzzFeed Newsに話した。
「ノルウェー、フィンランド、バルト海など、極北の地域の話です」
ビブリオ菌は15度未満の水中でも生育できる、とノーブル氏は話す。同氏の研究室では、20年にわたりビブリオ菌の調査をしている。15度以上になるとビブリオ菌が増殖し、人体の健康を脅かし始める。
これまで、アメリカにおける海産物によるビブリオ菌感染は、メキシコ湾で採れる貝によるものが多かった。水温がいつも温かいからだ。ところが過去20年を見てみると、いくつかの大発生は、太平洋側北西部、
アラスカ、一部の
北東部で採られた貝類と関連づけられている。
「感染例の数が増えている要因として、地理的な範囲が広がっていることが挙げられます。そのため、ビブリオ菌と接触する人の数が増えているからです」とスコット教授は話している。
感染例の殆ど(約52,000件)は、ビブリオ菌に汚染されたものを食べたことによるが、皮膚感染の例も、これまではビブリオ菌が蔓延していなかった地域でも発生している。
6月に米国内科学会誌の「アナルズ・オブ・インターナル・メディシン」に掲載された報告によると、ニュージャージー州にあるクーパー・ユニバーシティ・ホスピタルの医師らは、デラウェア湾における重度の皮膚感染例の急増を、気候変動と関連づけている。
2017年~2018年において、同病院では、ビブリオ・バルニフィカスに感染した患者5名を診ているが、そのうちの1名が死亡した。それ以前の8年間では、同病院では、ビブリオ菌による創傷感染は、1例しか報告されていない。
「これほど北側で、ビブリオ菌による創傷感染の例が増えており、驚いています」と同報告書の著者のひとりであるキャサリン・ドルトル氏は語った。
ローワン大学クーパー・メディカル・スクールで感染病を専門とする内科医であり、助教授を務めるドクトル氏は、南にあるチェサピーク湾ではよくみられたが、デラウェアとニュージャージーに挟まれたデラウェア湾での症例は珍しかった、と話している。
デラウェア湾における海面温度の上昇が、感染数の急増の一因に違いないと報告書では結論づけている。米国海洋大気庁のデータによると、5名の患者が感染した2017年と2018年の夏におけるデラウェア湾の河口(ルイス市)2か所における水温が、華氏75度(24℃)近くを推移していることが示されている。
ブドウ球菌感染のような他の細菌感染ではまれだが、ビブリオ・バルニフィカス感染はとても速く進行し、命にかかわることがある。CDCによると、感染した5人に1人近くが亡くなり、場合によっては発症から1日か2日で亡くなる、とのことだ。
「急速に進行する重篤な感染症の患者さんがいる場合、特に医療従事者の方々には、ビブリオ・バルニフィカスを原因のひとつとして考えて欲しいです」とドクトル氏は話す。
人食いバクテリア症を引き起こす細菌は、他にもある。CDCによると、レンサ球菌咽喉炎を発症する細菌が、一番多い感染原因だと、公衆衛生当局者は考えているとのことだ。
「泳ぎに行って、感染して、真っ赤になったり、腫れたりしてきたら、すぐに医師に診てもらった方がいいでしょう」とスコット教授は話している。
創傷感染の場合、早期における抗生剤治療か、必要であれば手術が感染の拡大を防ぐうえで最善だ。細菌に接触するリスク、細菌が発見される地理的な範囲は拡大すると考えられてはいるものの、健康な人であれば罹患する確率は低い、と専門家は強調している。
「水に入るのを怖がったり、貝類を食べるのを怖がったりしては欲しくないのですが、リスク要因を抱えている人に関しては、気をつける必要があり、食べ物に気をつけたり、活動に配慮したりする必要があると思います」とドクトル氏は話す。
また、開放創がある人は、汽水や海水に入るのを避けるべき、とも同氏は付け加えた。
すべてのビブリオ種が、人を病気にするわけではないが、近年では有害な変種が現れてきているようだ。
デジタル処理で着色したビブリオ・バルニフィカスの顕微鏡画像。
「さらに危険なビブリオ菌の発生には、気候変動が一役買っている可能性があり、これは病原性のビブリオ菌が増えていることを意味します」とノーブル氏は話す。
海洋温度の上昇に加えて、海面の上昇も、沿岸の川へ海水を流入させ、河口におけるビブリオ菌の発生の要因となっている。
昨年発表された研究では、スコット教授らは、サウスカロライナ州のウィンヨー湾にて、塩分濃度の増加によるビブリオ菌の急増を予測し、ビブリオ菌への曝露リスクが200%以上増加していることが分かっている。
「海面上昇と感染地域の拡大により、世界の他の地域でも曝露リスクが増加するのであれば、ビブリオ菌感染例は今後さらに増えることを意味します」とスコット教授は話した。
ビブリオ菌の発現要因のひとつである水温の上昇のほかに、沿岸地域における都市化も菌の増加に貢献している。沿岸部の土地にアスファルトやコンクリートが注がれ、雨水を吸い込むようになり、雨水の流出により、さらに養分が川、河口、海へと注ぎ、ビブリオ菌が繁殖する藻の増殖へと繋がる。
「栄養素で藻が生え、増殖し、ビブリオ菌が急増する環境になるのです」とノーブル氏は話す。
この問題は、気候変動で激しさを増しているもうひとつの自然現象、ハリケーンの発生でさらに事態が悪化している。ハリケーンによる洪水には、有害な化学物質や、ビブリオ菌などの微生物病原体が含まれていることが多い。略