高橋洋子 魂のルフラン
私は池禅尼。
平忠盛の妻であった。
出家して尼となった。
平氏と源氏の戦
平治の乱で平氏は勝利した。
源氏の頼朝という幼子の処遇をめぐって
棟梁の平清盛は苦悩していた。
「一度私が頼朝に会って見ます」
私は
血の繋がりのない子である清盛に告げた。
頼朝を呼び
人となりを観察するのだ。
「頼朝と申します」
「お入りなされ」
私が鎮座する堂内に
蚊の鳴くような細々とした声を発する源氏の御曹司が現れた。
体躯も面も細い。
が。
そこはかとない気品と尋常ならざる重厚な雰囲気が
既にその幼童に備わっていた。
そして、おなごが放っておかないであろう妖しい可愛さがあった。
私の臍下丹田の下にある命の根源、漆黒の塊に久しく忘れ去っていた灼熱の炎が燃え上がった。
私自身の中心は、わなわなと微細な律動を始め、ねっとりとした汗が流れ落ちた。
彼はこれから少年から青年となって弓馬の道を修め、逞しく成長していくだろう。
一瞬。
多くのおなごにその艶やかな唇を奪われ、半開きの唇から嬌声をあげて悶える彼の姿を妄想した。
私は清盛に謁見した。
「頼朝は、私の死んだ息子に似ておられます。ご慈悲にて命だけは助けて下されませ」
でたらめな助命嘆願であった。
彼は私が秘かに愛玩する小さな仏であった。
高橋作