NPO法人 地域福祉協会

清掃事業  森林事業(植栽・剪定)

鏡花水月 西村由紀江

2015-04-28 | 音楽

鏡花水月 西村由紀江


ショートショート   秘悦

2015-04-28 | 文学

そこは富山県の山奥。

 

私は

無念のうちに死んだ武士とその妻の

鎮魂のために植えられたヤブツバキ。

 

しかしそんな人間の営為など

どうでもよかった。

 

むしろ

近くにツバキとサクラが

愛を育み

艶やかな肌と荒々しい肌を

交わらせ絡み付いた様に

永く嫉妬していた。

 

確かにお互い美形である。

 

色艶も姿形も美の極みであった。

 

ツバキの艶やかな紺碧の葉。

細く淫靡なる木肌の曲線。

鮮烈な一重の紅花。

 

サクラの花の

繊細で淡い桃色。

それに反して剛毅な木肌。

 

もはや

両者とも菩薩の如く雌雄を超越していた。

 

崇高であり聖なる永劫の交わりであった。

 

私は

何百年もの間

そのツバキとサクラの崇高な交わりに嫉妬した。

 

そして

自らの艶やかな肌を擦り合せて

自ら喜悦の極みに上り詰めていた。

 

枝は交差して絡みつき

解きほぐすことはできない。

 

一族の怨恨で

私が異様な巨木なツバキと化したという噂話は

人間の浅はかな伝説であった。

 

すべては

私の壮大なる嫉妬と

秘められた悦びからもたらされた。

 

高橋作(純文学)