「とんかつ大将」と言っても
とんかつ屋のオヤジではなく
主人公の佐野周二はとんかつが好物の青年医者である。
おんぼろ長屋に
艶歌師の吟月、三井弘次と部屋をシェアして住んでいる訳アリの「ボヘミアン医者」なのです。
(艶歌師=”街頭でヴァイオリンを弾き、演歌を歌って歌の本を売る=のちの流し”(大辞林より)
だそうで、作品中にも即興で歌うシーンがあります。いつ頃から
ヴァイオリンがギターに変わったのでしょうか。
風俗的に興味深いです。
ちなみに
吟月は羽織袴姿で、どこか明治時代の人のような古めかしさがあります。)
三井弘次の
独特のべた~~っとした声と飄々としたユーモアが良い
アクセントになってます。この人出てくると絶対面白いですよね。
****ネタバレ注意報*********
イケメンで手術の腕もいいけど、なよなよした秀才じゃなくて腕っ節も強く
思いやりはあるが言うべきことはぴしっと言い、曲がったことが大嫌いで
長屋の住人から厚い信頼を寄せられている「とんかつ大将」。
大将から恋人を取ってしまう親友役の徳大寺伸が
事業に失敗して、日々うつろに飲んだくれるろくで無しなので
より一層、とんかつ大将が爽やかに見えます。
川島雄三の作品はいつでも登場人物のキャラが飛び切り立っていますが
この作品も「喜劇」というよりも
細やかな人生の機微が散りばめられた
主人公の青春・成長物語、取り巻く人々の群像劇といえるでしょうか?
爽やかな後味が残る
ミントティーみたいな逸品になっております。
佐野を慕う居酒屋の女将角梨枝子(和)が、
気が強いお嬢さん医者の津島恵子(洋)と喧嘩で啖呵を切るところは見もの。
角さんはフランス人形のような美貌に鶴のような首筋、ため息が出るほど色っぽいのに
大将にふられてしまう。タイプは違うけど津島恵子ももちろん綺麗で
和洋の美の競演が見られます。
酔っ払っているのに他人の病院でいきなり手術を始めたり
しかも火事で火の手が迫っているのに手術強行!や、
手術したてのホヤホヤの子供を乱暴に抱きかかえて運んだりとか、
角梨枝子のワルの弟を一瞬で改心させ、出頭させるなど
(直前に大暴れしていたのにもかかわらず)
漫画チックな場面は多々あるにせよ、
佐野の清潔で嫌味の無いキャラと
すべて丸く収まるハッピーエンドで
春先のモヤモヤ気分がすっきりすること請け合い。
ラスト、大阪の大病院のお坊ちゃまらしい大将は
父親の危篤によって長屋を去るんですが
この後、長屋に戻ってくるんでしょうか?
それとも大病院を継ぐことになるんでしょうか??と
ちょっとほろ苦いふくみを持たせて終わります。
音楽はハッピーな歌を書かせたら右に出るものはいない木下忠司。
また大好きな映画が増えた!!そしてとんかつ食べたくなった!
脚本 監督 :川島雄三
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます