『九州へ』 第一章 2節
エコノミー症候群になるかと思った。だいたい最初から最後まで乗ってたのはオレだけじゃないのか?お尻が痛いわ喫煙車両のせいか喉が痛いわ何が500系だ!やっぱり飛行機だな!。6時間近く機能してなかった全身に博多の夜の空気を吸い込んだ。改札を抜けまず父に連絡した。
「遅いじゃないか!今どこだ?」
親爺はもう酔っていた。お通夜は終わってしまったとのこと。父の指示通り地下鉄で藤崎まで行くことにした。地下鉄の入り口はすぐ見つかった。蟻の巣如く巡りめぐる東京の地下鉄とは異なり中州川端を中心に南は福岡空港、東は貝塚、西に姪浜とYの字にのびている。鳴り響くベルにあわてて階段を駆け下りた。なんだよ両方いるよ!どっちだ!どっち! さっきの路線図の記憶をもとに、姪の浜行きに飛び乗った。
「すいません!藤崎行きますか?」
若いOL風の女性に聞いた。
「はい…行きます…」
「ありがとう・・」
別に田舎者じゃないんだよ、・・精一杯無言のゼスチャーを送った。
車内路線図を眺めると八つ目で藤崎だ。見ると一つ一つ駅名に因んだロゴがある。中州川端だと中州の文字に川をデホォルメ、藤崎は藤の花、洒落てるな、自治体と広告代理店なかなか考えてる。しかし東京だと駅多すぎるもんな・大江戸線くらいこのアイディア使っても面白かったのに。慎太郎さん、財政赤字でもホテル税導入案がんばってほしいよ。
官庁も担当する私は、TCVB(東京コンベンション・ビジターズビューロー)の残してきた仕事を思い出した。15分足らずで藤崎についた。どうやらバスステーションがあるらしい。降りる人が多い訳だ。もう一度父に電話した。
「今、着いた」
「そうか、天国社だ!タクシーでワンメーターだ」
天国社?いいのか葬儀屋がそんな名前付けて…。何度聞き直しても酔った親爺は、天国社と言っている。タクシーに乗ってそう告げると
「どこの天国社ですか」と、運転手までが言う。
おいおい天国社チェーンかよ。感に任せて一番近い天国!と社を付けずに答えた。大通りに面してその天国はあった。すでに十時近かった。
一階は電気が消えていた。正面に階段、二階の方で誰か話す声が聞こえる。
「Sちゃん?」
気配に気づいたのだろう、四十男にSちゃんとは気恥ずかしいが、この環境では仕方がない。懐かしさがこみ上げてくる。見るとそれぞれ記憶より年を重ねた親戚一同の顔が出迎えてくれた。
「遅かったじゃないか!飛行機じゃなかったのか?」
「立派になったねー」
「おい、まずはおばあちゃんにお線香あげなさい」
父に促されその部屋に入った。
棺の中のおばあちゃんは綺麗だった。薄く紅を引いてもらい、ただ普通に眠ってるみたいだ。正面の写真に向かって手を合わせた。(生きている間にお会い出来なくてごめんなさい。自分は、今三人の子供達に囲まれてにぎやかな生活を送っています。会社の方は、今年の四月から営業課長に昇進しました。若い頃はいろいろ心配掛けましたが、なんとかがんばってます。やすらかにお眠りください。そして天国で見守っていてください。)
そっと目を開けると、おばあちゃんは確かに微笑んでいる様に見えた。
控え室に入り、まず目に入ったのは沢山のビール瓶と焼酎の一升瓶が転がっていることだった。ここは九州なんだと改めて感じる。父の兄弟は6人、長男は横浜に住んでいるA男おじさん、次男父の下は四人姉妹である。長女のT子おばさんのご主人O村さん、三女R子おばさんのご主人のS井さん、そして幼い頃いっしょに遊んでくれた四女K子N子おばさん(そう呼んでいた)のご主人N淵さん、いいちこの犯人はこの五人だろう。T家はおじいちゃんを筆頭に酒豪だが、類は類なのかよくも集まったものだ。この人達の前では、自分は赤子だろう。
「S君のお父さんはね、さっきあそこで、躓いてひっくり返ったンダヨ」
おいおいまたか?今年9月に自転車でひっくり返って硬膜下血種とかで手術したばかりなのに…。あきれて親爺を見ると、今まさに奇跡の生還を果たしたかのように、目の前でその話を始めている。反省してないのか、学習能力がなくなったのか。聞いてくれることをいいことに壊れたレコードになっている。到着が遅かったな。今更この酒豪の集まりに追いつくのは無理だ。どうやらこの御仁達はここで朝までなんだろう。一杯目のビールを飲み干すと、いとこのYに合図した。
つづく
エコノミー症候群になるかと思った。だいたい最初から最後まで乗ってたのはオレだけじゃないのか?お尻が痛いわ喫煙車両のせいか喉が痛いわ何が500系だ!やっぱり飛行機だな!。6時間近く機能してなかった全身に博多の夜の空気を吸い込んだ。改札を抜けまず父に連絡した。
「遅いじゃないか!今どこだ?」
親爺はもう酔っていた。お通夜は終わってしまったとのこと。父の指示通り地下鉄で藤崎まで行くことにした。地下鉄の入り口はすぐ見つかった。蟻の巣如く巡りめぐる東京の地下鉄とは異なり中州川端を中心に南は福岡空港、東は貝塚、西に姪浜とYの字にのびている。鳴り響くベルにあわてて階段を駆け下りた。なんだよ両方いるよ!どっちだ!どっち! さっきの路線図の記憶をもとに、姪の浜行きに飛び乗った。
「すいません!藤崎行きますか?」
若いOL風の女性に聞いた。
「はい…行きます…」
「ありがとう・・」
別に田舎者じゃないんだよ、・・精一杯無言のゼスチャーを送った。
車内路線図を眺めると八つ目で藤崎だ。見ると一つ一つ駅名に因んだロゴがある。中州川端だと中州の文字に川をデホォルメ、藤崎は藤の花、洒落てるな、自治体と広告代理店なかなか考えてる。しかし東京だと駅多すぎるもんな・大江戸線くらいこのアイディア使っても面白かったのに。慎太郎さん、財政赤字でもホテル税導入案がんばってほしいよ。
官庁も担当する私は、TCVB(東京コンベンション・ビジターズビューロー)の残してきた仕事を思い出した。15分足らずで藤崎についた。どうやらバスステーションがあるらしい。降りる人が多い訳だ。もう一度父に電話した。
「今、着いた」
「そうか、天国社だ!タクシーでワンメーターだ」
天国社?いいのか葬儀屋がそんな名前付けて…。何度聞き直しても酔った親爺は、天国社と言っている。タクシーに乗ってそう告げると
「どこの天国社ですか」と、運転手までが言う。
おいおい天国社チェーンかよ。感に任せて一番近い天国!と社を付けずに答えた。大通りに面してその天国はあった。すでに十時近かった。
一階は電気が消えていた。正面に階段、二階の方で誰か話す声が聞こえる。
「Sちゃん?」
気配に気づいたのだろう、四十男にSちゃんとは気恥ずかしいが、この環境では仕方がない。懐かしさがこみ上げてくる。見るとそれぞれ記憶より年を重ねた親戚一同の顔が出迎えてくれた。
「遅かったじゃないか!飛行機じゃなかったのか?」
「立派になったねー」
「おい、まずはおばあちゃんにお線香あげなさい」
父に促されその部屋に入った。
棺の中のおばあちゃんは綺麗だった。薄く紅を引いてもらい、ただ普通に眠ってるみたいだ。正面の写真に向かって手を合わせた。(生きている間にお会い出来なくてごめんなさい。自分は、今三人の子供達に囲まれてにぎやかな生活を送っています。会社の方は、今年の四月から営業課長に昇進しました。若い頃はいろいろ心配掛けましたが、なんとかがんばってます。やすらかにお眠りください。そして天国で見守っていてください。)
そっと目を開けると、おばあちゃんは確かに微笑んでいる様に見えた。
控え室に入り、まず目に入ったのは沢山のビール瓶と焼酎の一升瓶が転がっていることだった。ここは九州なんだと改めて感じる。父の兄弟は6人、長男は横浜に住んでいるA男おじさん、次男父の下は四人姉妹である。長女のT子おばさんのご主人O村さん、三女R子おばさんのご主人のS井さん、そして幼い頃いっしょに遊んでくれた四女K子N子おばさん(そう呼んでいた)のご主人N淵さん、いいちこの犯人はこの五人だろう。T家はおじいちゃんを筆頭に酒豪だが、類は類なのかよくも集まったものだ。この人達の前では、自分は赤子だろう。
「S君のお父さんはね、さっきあそこで、躓いてひっくり返ったンダヨ」
おいおいまたか?今年9月に自転車でひっくり返って硬膜下血種とかで手術したばかりなのに…。あきれて親爺を見ると、今まさに奇跡の生還を果たしたかのように、目の前でその話を始めている。反省してないのか、学習能力がなくなったのか。聞いてくれることをいいことに壊れたレコードになっている。到着が遅かったな。今更この酒豪の集まりに追いつくのは無理だ。どうやらこの御仁達はここで朝までなんだろう。一杯目のビールを飲み干すと、いとこのYに合図した。
つづく