「たった今終わった第3局。素人なら1秒で3一歩ってたところだけど」
「4一飛としたら同飛車の一手だと思ったんじゃないか」
「結局さ。永瀬王座は実力は藤井7冠と拮抗してるんだけど
飛車を好き過ぎるところが弱点だよねぇ。今日は飛車を斬った場面はあったは
あったけれども。2局目も確か飛車を好き過ぎて負けたんじゃないかな」
「キミは、飛車を取られたくないと(飛車を)逃げ回ったり、相手の飛車を
取ろうと(飛車を)追いかけまわしたり、そういう情けない将棋は
大嫌いだと公言していただろ」
「そういう棋士はA級棋士ににはっても主役、すなわち
名人になったためしがない」
「佐藤天彦九段は名人になったけど。聞き手が安食女流の
なんかの棋譜解説の、その時の豊島九段によると
『佐藤天彦さんは飛車を大事にする』と
毒舌っぽい言い方で言ってたんだけど」
「佐藤九段は例外。とにかくオレは飛車という駒が偉そうで嫌いだから。
嫌いで嫌いでタマランチ会長なんだよ。
序盤でぶった切りたくなるぐらいなのにさあ。俺が思いつく『飛車好き棋士』
だけでも
森内九段、屋敷九段、星野六段、本田女流、大昔なら大野源一九段。
そして現在の『飛車好き棋士』筆頭格に永瀬王座と。
結局、スターにはなれても、スーパースターにはなれないでしょ。
彼らのライバルと称される棋士が主役になってしまう」
「森内九段は名人になったぞ」
(無視される)
しばし沈黙...
「でもさ、序盤で飛車をぶった斬るから、キミは勝てないんじゃないか」
「いやいや。序盤で飛車を斬るといえば
木村名人は、横歩取り戦法の変化で
序盤で飛車を斬ったけれども、コチラは角と金と歩が二つの持ち駒で
相手は歩切れ。コチラの陣地には飛車を打ち込む場所がなくて
これで駒損だけど十分やれるという大局観だったぞ」
「お~。今考えると、ずいぶん新しい、今の若手棋士に通じる感覚を持ってい
たんだ。コンピューターがなかった時代に。
木村名人は偉大だ!」
「あとさあ。昨年かおととしの女流王将戦挑戦者決定戦準決勝で、
本田女流が二枚替えをしていたら圧倒的優勢を保てたのに
飛車を逃げちゃったものだから、鈴木環奈女流に逆転を食らったのが
悔しいんだよ」
「今度、私の地元で『大声コンテスト大会』があるので
『飛車という駒は偉そうできらいだ~』って叫んだら?」
「ウン、そうする」
「マジかよ」