カタン。
犬小屋付近で音がした。
ドッグフードを頂戴する、いつものスズメや鳩ではないようだ。
のぞいてみると、小屋の中で何かが小さく動いていた。
まさか、もしや!
友を呼んで確認すると、5日前に失踪したマルちゃんだった。
新たな飼い主が見つからなければ明日には殺処分される、と相談を受けた友人がかわいそうに思い雑種の姉妹成犬を飼い始めたのは数年前でした。
妹は普通の犬らしく馴染んでいったのですが、姉のマルはいつも犬小屋奥にいて覗かない限り姿を見ることはありません。
散歩に連れ出せばハリネズミのように背中を丸め、こそこそ歩いては後ろを振り返りの繰り返し・・・
たまに一緒する私も苦笑のマルちゃんに、付いたあだ名は「チラミー」
実は、散歩コースで学生さんから「かわいい」と声の上がる人気者なんだって。
そんなすごい怖がりのマルが、雷の鳴る雨の夜姿を消したのでした。
初めて聞いた「ワン」の鳴き声、小屋から出てきて門のほうをじっと見ていたその姿。
出て行ったまま帰ってこない妹を探しての一大決心だったのでしょう。
ほとんど感情を見せない風変わり犬だったから、帰ってくる可能性なんてゼロに等しいと思っていました。
それが!
「肉球の皮がむけて出血してる」 「かなりな距離歩いてるみたい」
行き倒れることなく無事に帰ってこれたのは、日頃のマルを知ってるみんなからすれば奇蹟みたいなものです。
妹は事故で死んじゃったから、もう帰って来れないんだよ
せつないなぁ。