ゼミナールの参考例
作成者:興津正信(天津商業大学)
作成日:2011年12月28日
Ⅰ 基本の形態(あくまでも参考です)
a) 1冊の課題図書ないし数冊の図書から共通したテキストを設定し、各章ごとに担当者を決めて、発表・討論を行う。
→基礎学習、興味を促す、研究への橋渡しに適している。
b) ゼミとしての共通テーマを決めて、それに対してゼミ生一人一人アプローチを設定し、発表・討論を行う。
→研究の初歩的訓練に適する。
c) ゼミ生一人ずつが自分の関心ごとに合わせて、テーマを設定して、発表・討論を行う。
→基礎研究の仕上げ、本格的な研究活動への橋渡しに適する。
※ bとcは、いわば課題追求型で多く見られるゼミ形態である。
※ 専門志向のゼミであれば、aの段階で、基本文献などを利用することが手始めに行われることが多い。
Ⅱ 参考例
実際に「発表・討論」、「少数人数」ということであれば、形式的にはそれで十分にゼミナールとなります。そのため、そのゼミの内容、進め方、目標などは、教員の研究指導力や学生の状況(関心ごとは何かということも含めて)によって、千差万別であります。ここでは、まず類型を提示し、そのあと、より具体的な事例を挙げておきたいと思います。
あくまでも参考ですので、いろいろと掛け合わせたり、加減したりなど、まさに各ゼミのオリジナルティを発揮していただければと思います。
1.ゼミ生1人1テーマ(1研究領域)のゼミ
条件:①三年生第2学期 ②第1学期にレジュメおよびレポートの一連の作業を経験済み(2サイクル以上)
③卒論をも視野に入れている。
内容:①ゼミ生自らテーマ(研究領域)を決める。
②資料集めからアプローチの決定まで、基本的にはゼミ生の主導による。
③リサーチペーパー作成が目指せる。
④レベル・段階としては、この形式は高度なゼミナールになり、研究ゼミとしての色合いが濃いです。ただ指導教員の研究力とゼミ生の関心ごとによっては、以下のゼミナールの形式に移行できるし、そのことも立派なゼミとして成立できると思います。
2.ゼミ共通テーマのゼミ(アプローチの規定あり)
条件:①三年生第2学期 ②第1学期にレジュメ及びレポートの一連の作業を経験済み(1サイクル)
③卒論への視野は特に無し。
内容:①ゼミで、共通したテーマを一つ決める。
②そのテーマを調査するために、アプローチの分担を教員が指定する。
③リサーチペーパーあるいはポスターセッション作成が目指せる。
3.ゼミ共通テーマのゼミ(アプローチ自由)
条件:①三年生第2学期 ②第1学期にレジュメ及びレポートの一連の作業を経験済み(1サイクル)
③卒論への視野は特に無し。
内容:①ゼミで、共通したテーマを一つ決める。
②そのテーマを調査するために、ゼミ生自らアプローチを考え、設定する。
③リサーチペーパーあるいはポスターセッション作成が目指せる。
4.読書会型ゼミナール(文献指定あり)
条件:①二年生 ②まずは読書をしましょうという気持ちがあればOK
内容:①ゼミで1~3冊、読むべき図書を指定する。
②各章ごとに担当者を決める。担当者は担当した部分の要約及び自分の意見をレジュメで用意する。
③指定する文献は、1人で読むには難しいものを選定する方がよい。ゼミの仲間と一緒にその1冊を解読していくことで達成感も味わいやすく、またお互いに解決方法を交流することで新たな智慧が身に付く。
5.読書会型ゼミナール(文献指定無し)
条件:①二年生~三年生 ②教員からの指導は多少必要になるが、基本的にはゼミ生が読む文献を決める。
内容:①1人1~3冊、「読みたい本、読むべき本」を決める。
②場合によっては、1冊読破ではなく、自分の関心がある部分だけをピックアップしても構わない。
③要約と意見をまとめたレジュメを作る。
6.やや高度な読書会型ゼミナール(文献指定あり・さらにもう1文献)
条件:①三年生
内容:①ゼミの共通テキストとして1つ文献を指定する。
②各章ごとに担当者を決める。
③担当者は、担当した章の要約と意見のほかに、その章で取り立てた話題について、さらに別の文献を使って検証をし、その内容を発表する。他のゼミ生も可能な限り、担当者が選定した文献を読む。
④こうすると、共通文献を1冊。さらに各ゼミ生が持ち込んだ文献1冊。もしゼミ生が5人いれば、計6冊読むことになります。
④この方法は、興津が大学3年生(第1学期)の時に経験したゼミナールの形態でした。
※ 4~6までは、成果として文献レビューを作るレベルまで引き上げてみてもよい。
※ ここまで、かなりカタイ書き方でゼミの参考例を書きました。若干類別的な書き方です。以下は、重複する部分もありますが、具体的に考えたものを提示します。
7.教科書活用のゼミナール(川端先生からの事例より)
精読や会話などの教科書には、日本事情に関するコラムが掲載されています。日頃、語彙・文法の解説や練習問題で終わってしまうところを、学生の関心に合わせて、教員とともに改めて調査したり、考察するというゼミナール。
条件:①二年生。場合によっては上記のゼミナールの中でも活用できる。
内容:①教科書の再認識にもつながる。
②身近なところからの問題提起となりやすいので、初歩的な研究活動に適している。
③簡単なレポートも作りやすいので、手応えが与えやすい。
8.フィールドワーク型ゼミナール
日本企業訪問やマーケティング調査など、指導教員の専門分野あるいは学生の関心にあわせたフィールドワークを行う。また留学生と協力しながら、生活習慣などのインタビューをまとめることもよい。
条件:①二年生~三年生
内容:①調査手法を指導できる教員によるゼミナールが望ましい。
②初歩的な進め方としては、調査で見たまま、聞いたままから考え、自分の意見をまとめる。
③三年生以上なら、調査成果の普遍性を検証するために、文献で裏づけを行うと、より研鑽が深まる。
9.記念イベント型ゼミナール
2012年は日中国交正常化40周年。このような「××周年」というような記念イベントを研究する対象とし、そこからテーマを設定し、調べたり、考えたりするゼミナール。
条件:①二年生~三年生。
内容:①ホットな話題になりやすい。
②情報が多くあるので、その整理力が問われる。
③すぐに何か結論が出るわけではないが、臨場感にある発表・討論ができる。
④いくつかの視点・アプローチ・カテゴリーが揃えば、ポスターセッション発表にも適している。
10.××を読もうゼミナール
「読書会型ゼミナール」のことと同じですが、このようなゼミナールは、領域やレベルなどをいろいろと変えることで、多様なゼミナールになると思います。例えば、
① 古典を読もうゼミナール:古語の原書ではなく、現代語訳でもいいし、あるいは中国語版でもよいと思います。古語の語彙・文法に偏ってしまうことを避けるのであれば、中国語版で内容を楽しく吟味できるようにした方がいいでしょう。
② 専門書を読もうゼミナール:それぞれの研究領域には「これは読むべき!」という古典的な基本文献が存在します。一人じゃ難解すぎて大変かもしれませんが、しっかりとその領域を指導できる先生の解説を助けにして、読解していく。三年生でも必要な作業になると思います。
③ 統計データを読もうゼミナール:経済や金融に興味がある学生にはよいです。データの読み方を学習しながら、自分なりの分析を披露しあう。学習が進めば、他の文献も使いながら検証するという研究の手始めにかかることもできます。
11.月間テーマゼミナール
若干単発的になりやすいかもしれないが、月間ごとに1テーマをゼミ内で定めて、
① それについて文献調査あるいはフィールドワーク。
② 大きいテーマを決めて、それを1ヶ月ごとに分割した小テーマを設けるという方法も面白い。
③ レポートあるいはレジュメの練習量が増える。
12.現代版・代表的日本人を決めようゼミナール
意外と日本人の著名人を知らない学生が多いです。そこで、なるべく単なる人気投票的な乗りではなくて、すこしアカデミックな方向性を持ちながら、日本の著名人を数名ピックアップして、その伝記・自伝などを読むことを手がかりに、調べてみるゼミナール。
これは、実際私が大学3年生のときにサークルで実践したゼミナールです。その時は「代表的中国人を選ぼう」というテーマで、調べたことを披露しあいました。
13.外書講読ゼミナール
読書会に近いが、ここで取り上げる図書は、中国語ではダメで、必ず日本語か英語。つまり、中国人学生にとって外国語であることが必須。日常の授業としても成り立つが、少数人数のゼミナールにこれを導入すれば、輪読の順番も多く当たるし、かなり外国語能力の上達には役に立つ。
ただ精読の授業のように語彙・文法の解説に偏りがちなので、そうならないように、指導教員には研究的内容を示唆していくことが求められる。
① 意味・文法などの確認は重点的にやらない。
② 担当者を決め、読解した上で、内容を分析あるいは検証したレジュメを用意して、発表・討論。
作成者:興津正信(天津商業大学)
作成日:2011年12月28日
Ⅰ 基本の形態(あくまでも参考です)
a) 1冊の課題図書ないし数冊の図書から共通したテキストを設定し、各章ごとに担当者を決めて、発表・討論を行う。
→基礎学習、興味を促す、研究への橋渡しに適している。
b) ゼミとしての共通テーマを決めて、それに対してゼミ生一人一人アプローチを設定し、発表・討論を行う。
→研究の初歩的訓練に適する。
c) ゼミ生一人ずつが自分の関心ごとに合わせて、テーマを設定して、発表・討論を行う。
→基礎研究の仕上げ、本格的な研究活動への橋渡しに適する。
※ bとcは、いわば課題追求型で多く見られるゼミ形態である。
※ 専門志向のゼミであれば、aの段階で、基本文献などを利用することが手始めに行われることが多い。
Ⅱ 参考例
実際に「発表・討論」、「少数人数」ということであれば、形式的にはそれで十分にゼミナールとなります。そのため、そのゼミの内容、進め方、目標などは、教員の研究指導力や学生の状況(関心ごとは何かということも含めて)によって、千差万別であります。ここでは、まず類型を提示し、そのあと、より具体的な事例を挙げておきたいと思います。
あくまでも参考ですので、いろいろと掛け合わせたり、加減したりなど、まさに各ゼミのオリジナルティを発揮していただければと思います。
1.ゼミ生1人1テーマ(1研究領域)のゼミ
条件:①三年生第2学期 ②第1学期にレジュメおよびレポートの一連の作業を経験済み(2サイクル以上)
③卒論をも視野に入れている。
内容:①ゼミ生自らテーマ(研究領域)を決める。
②資料集めからアプローチの決定まで、基本的にはゼミ生の主導による。
③リサーチペーパー作成が目指せる。
④レベル・段階としては、この形式は高度なゼミナールになり、研究ゼミとしての色合いが濃いです。ただ指導教員の研究力とゼミ生の関心ごとによっては、以下のゼミナールの形式に移行できるし、そのことも立派なゼミとして成立できると思います。
2.ゼミ共通テーマのゼミ(アプローチの規定あり)
条件:①三年生第2学期 ②第1学期にレジュメ及びレポートの一連の作業を経験済み(1サイクル)
③卒論への視野は特に無し。
内容:①ゼミで、共通したテーマを一つ決める。
②そのテーマを調査するために、アプローチの分担を教員が指定する。
③リサーチペーパーあるいはポスターセッション作成が目指せる。
3.ゼミ共通テーマのゼミ(アプローチ自由)
条件:①三年生第2学期 ②第1学期にレジュメ及びレポートの一連の作業を経験済み(1サイクル)
③卒論への視野は特に無し。
内容:①ゼミで、共通したテーマを一つ決める。
②そのテーマを調査するために、ゼミ生自らアプローチを考え、設定する。
③リサーチペーパーあるいはポスターセッション作成が目指せる。
4.読書会型ゼミナール(文献指定あり)
条件:①二年生 ②まずは読書をしましょうという気持ちがあればOK
内容:①ゼミで1~3冊、読むべき図書を指定する。
②各章ごとに担当者を決める。担当者は担当した部分の要約及び自分の意見をレジュメで用意する。
③指定する文献は、1人で読むには難しいものを選定する方がよい。ゼミの仲間と一緒にその1冊を解読していくことで達成感も味わいやすく、またお互いに解決方法を交流することで新たな智慧が身に付く。
5.読書会型ゼミナール(文献指定無し)
条件:①二年生~三年生 ②教員からの指導は多少必要になるが、基本的にはゼミ生が読む文献を決める。
内容:①1人1~3冊、「読みたい本、読むべき本」を決める。
②場合によっては、1冊読破ではなく、自分の関心がある部分だけをピックアップしても構わない。
③要約と意見をまとめたレジュメを作る。
6.やや高度な読書会型ゼミナール(文献指定あり・さらにもう1文献)
条件:①三年生
内容:①ゼミの共通テキストとして1つ文献を指定する。
②各章ごとに担当者を決める。
③担当者は、担当した章の要約と意見のほかに、その章で取り立てた話題について、さらに別の文献を使って検証をし、その内容を発表する。他のゼミ生も可能な限り、担当者が選定した文献を読む。
④こうすると、共通文献を1冊。さらに各ゼミ生が持ち込んだ文献1冊。もしゼミ生が5人いれば、計6冊読むことになります。
④この方法は、興津が大学3年生(第1学期)の時に経験したゼミナールの形態でした。
※ 4~6までは、成果として文献レビューを作るレベルまで引き上げてみてもよい。
※ ここまで、かなりカタイ書き方でゼミの参考例を書きました。若干類別的な書き方です。以下は、重複する部分もありますが、具体的に考えたものを提示します。
7.教科書活用のゼミナール(川端先生からの事例より)
精読や会話などの教科書には、日本事情に関するコラムが掲載されています。日頃、語彙・文法の解説や練習問題で終わってしまうところを、学生の関心に合わせて、教員とともに改めて調査したり、考察するというゼミナール。
条件:①二年生。場合によっては上記のゼミナールの中でも活用できる。
内容:①教科書の再認識にもつながる。
②身近なところからの問題提起となりやすいので、初歩的な研究活動に適している。
③簡単なレポートも作りやすいので、手応えが与えやすい。
8.フィールドワーク型ゼミナール
日本企業訪問やマーケティング調査など、指導教員の専門分野あるいは学生の関心にあわせたフィールドワークを行う。また留学生と協力しながら、生活習慣などのインタビューをまとめることもよい。
条件:①二年生~三年生
内容:①調査手法を指導できる教員によるゼミナールが望ましい。
②初歩的な進め方としては、調査で見たまま、聞いたままから考え、自分の意見をまとめる。
③三年生以上なら、調査成果の普遍性を検証するために、文献で裏づけを行うと、より研鑽が深まる。
9.記念イベント型ゼミナール
2012年は日中国交正常化40周年。このような「××周年」というような記念イベントを研究する対象とし、そこからテーマを設定し、調べたり、考えたりするゼミナール。
条件:①二年生~三年生。
内容:①ホットな話題になりやすい。
②情報が多くあるので、その整理力が問われる。
③すぐに何か結論が出るわけではないが、臨場感にある発表・討論ができる。
④いくつかの視点・アプローチ・カテゴリーが揃えば、ポスターセッション発表にも適している。
10.××を読もうゼミナール
「読書会型ゼミナール」のことと同じですが、このようなゼミナールは、領域やレベルなどをいろいろと変えることで、多様なゼミナールになると思います。例えば、
① 古典を読もうゼミナール:古語の原書ではなく、現代語訳でもいいし、あるいは中国語版でもよいと思います。古語の語彙・文法に偏ってしまうことを避けるのであれば、中国語版で内容を楽しく吟味できるようにした方がいいでしょう。
② 専門書を読もうゼミナール:それぞれの研究領域には「これは読むべき!」という古典的な基本文献が存在します。一人じゃ難解すぎて大変かもしれませんが、しっかりとその領域を指導できる先生の解説を助けにして、読解していく。三年生でも必要な作業になると思います。
③ 統計データを読もうゼミナール:経済や金融に興味がある学生にはよいです。データの読み方を学習しながら、自分なりの分析を披露しあう。学習が進めば、他の文献も使いながら検証するという研究の手始めにかかることもできます。
11.月間テーマゼミナール
若干単発的になりやすいかもしれないが、月間ごとに1テーマをゼミ内で定めて、
① それについて文献調査あるいはフィールドワーク。
② 大きいテーマを決めて、それを1ヶ月ごとに分割した小テーマを設けるという方法も面白い。
③ レポートあるいはレジュメの練習量が増える。
12.現代版・代表的日本人を決めようゼミナール
意外と日本人の著名人を知らない学生が多いです。そこで、なるべく単なる人気投票的な乗りではなくて、すこしアカデミックな方向性を持ちながら、日本の著名人を数名ピックアップして、その伝記・自伝などを読むことを手がかりに、調べてみるゼミナール。
これは、実際私が大学3年生のときにサークルで実践したゼミナールです。その時は「代表的中国人を選ぼう」というテーマで、調べたことを披露しあいました。
13.外書講読ゼミナール
読書会に近いが、ここで取り上げる図書は、中国語ではダメで、必ず日本語か英語。つまり、中国人学生にとって外国語であることが必須。日常の授業としても成り立つが、少数人数のゼミナールにこれを導入すれば、輪読の順番も多く当たるし、かなり外国語能力の上達には役に立つ。
ただ精読の授業のように語彙・文法の解説に偏りがちなので、そうならないように、指導教員には研究的内容を示唆していくことが求められる。
① 意味・文法などの確認は重点的にやらない。
② 担当者を決め、読解した上で、内容を分析あるいは検証したレジュメを用意して、発表・討論。