少女はノートに物語の続きを書いていました
少年は覗き込んで
何を書くの?と、聞きました
少女はサッとノートを隠して
「だめよ!これはまだ見せられないのよ。」
と、キッとした顔で言いました
「誰に見せるって言うんだい?君のことを書くことだけで評価して、君がだめになれば代わりなんていくらでもいる、という世界だぜ」
少女は悲しそうな顔をして言いました
「だからあんたは何にもわかってないのよ。人を見て書くんじゃないのよ。自分の心の投影なのよ。人の目や人の心の動きに呼応しようなんて想うと不安が生まれるのよ。あたしは何にも考えてないの。ただ、書くことに夢中なのよ」
少年はちょっと彼女に先に大人になられそうな気がして、面白くありません。
大人の世界で大人を相手に色々見聞を深めていく彼女を見ていると
ハラハラしたりやけに悔しくなったりするものなのでした。
「確かに私の代わりなんてたくさんいるのよ。私はね、書くことでしか認めてはもらえないかもしれない。けれどもそれで十分だと思うのよ。別に個人的に唯一無二な存在なんて、そんな稀有な事を求めてなんかいないわ。私は自分の人生を生き切ることしか、やり切ることしか考えちゃいないのよ。他には何にもないの。」
「大切な存在って言ってももらえないのに何故書く?」
「あたしがあたしにとって大切な大切な存在だからよ。その事に気付いたの。人を物差しにするのじゃなくて、自分軸に目覚めたのよ。だから自分も大切。人も大切に想えるようになったの」
そんなものか。と、少年は想いました。
少年は
自分に注目して欲しい
大切に思ってほしいって
やっぱり望んでいるのですもの。
彼女の言っている言葉は随分と優等生に聞こえるのでした。
ふたりともそれっきり黙り込んでいました。
窓からさす陽の光が
手元を明るくしていました。