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朝、テン場を出て、女山山頂に着いたのは、すでに日の出の時刻だった。
テン場周辺の樅や岳樺は雨に濡れ、着氷の痕跡もなかった。
山頂手前まで登ってくると、コメツツジに、うっすら霧氷がつき始めていた。
北風がびゅーびゅー吹き抜ける。
時折、空が抜けて、ぽっかり頭上に青空が覗く。
でも、それ以外は、真っ白な茫洋としたガスが世界を覆っていた。
山頂には、もう一人いた。
高知の虫ヤさんTさんだ。
カメムシを専門にする、もうすでに図鑑を2冊出しているプロの昆虫写真家。
「北斜面は、びっしり霧氷がついてるよ」
なるほど、吹き上がるガスに、どんどん霧氷が発達しているように見える。
Tさんは虫ヤさんだが、風景も撮るようだ。
高知の写真家は個性派ぞろい。
「他人(ひと)と同じものを撮らない」という明確な姿勢が潔い。
どうも、それに比べて、誰かが撮った風景を擬える傾向が風景写真には多い。
私も、偉そうなことは云えない。
石鎚山岳写真の伝説的風景を、とにかく抑えておきたいという願望がある。
Tさんから高橋宣之さんの近況や鳥ヤの和田剛さんや前田博史さんの興味深いお話も聞けた。
凍えるような寒風吹き荒ぶ山上の時間も、楽しく過ごせた。
いくら待っても、ガスが晴れない。
すでに陽は高く昇り、気温の上昇と共に、ポロポロと樹々についた霧氷が散ってゆく。
諦めて、尾根伝いを男山へ移動することにした。
尾根の途中から山を覆っていたガスが切れ始めた。
すーっと拓けた視界の先に、氷見二千石原のなだらかな笹原をなめるような巨大な雲の塊が移動してゆく。
うねうねと蠢く圧倒的な雲の高さ。
ミニチュアスケールの街を這い進む巨大な生き物の姿を傍観しているような気分。
この高さでは石鎚の嶺は、間違いなく雲の下。
そして、その巨大な雲の上には、目も覚めるような青空と刷毛で掃いたような巻雲があった。
次第に雲の高さが下がり、
石鎚の嶺が姿を現す頃には、あの巨大生物のような雲の塊は、跡形もなく消えてしまった。
その後には、爽やかな秋空と、すっくと聳える石鎚の嶺。
もう一日、ここで過ごすことにした。
テン場に戻り昼食後、持参した文庫本を読んでいると、うつら、うつら…
天幕越しに射す陽射しが心地よくて、ぽかぽか日溜まりで夢見心地。
朝の冷気で固まっていた身体が、ゆるゆる温もりに融けてゆく…
「あぁ、これは日溜まり猫さんの気分。極楽…」
残念、夕方から雲が広がり、夕焼けも月の出も薄雲に霞む。
翌朝の風景を何と表現したらいいのだろう?
夜明け前の気温4℃。
昨日と較べると、ずいぶん暖かい朝だった。
もちろん霧氷なんか見られる条件ではない。
風向きも予報と違って南東からの強い風が吹いていた。
上空は厚い黒雲が覆い、山の端と雲の間が、わずかに空いて曙光が射していた。
日の出の時刻を過ぎると、谷からガスが吹き上げてきた。
次第にそれが、薄紗のような繊細な形状を成してゆく。
花嫁のヴェールのような薄絹を、西黒森の山は纏い始める。
それが花嫁行列のように、ずっと続く。
女山の童女神様、婚礼の朝だったの?
奇遇というか、面白いですね(笑)
高知の写真家は、本当に独自の視野を持った面白い人が多いように思えます。
私も見習わなければ。
霧氷や冠雪の風景は、これからが本番です。
足も完治したので、今年もお届けしますよ。
お楽しみに。
今日は、台風接近前に野辺に咲く野菊を一日中、追い掛けていました。
秋の草叢に群れ咲く野菊の佇まいが大好きです。
世間は狭いのですね
瓶ケ森の羽衣は薄くたなびいたけれど
キーンと冷え込んだ後に見られる輝く霧氷の方を見せて欲しかったな。
山へ行かず田・里山を徘徊しているとみられない景色なのでランスケさんのブログ頼みですよ。
http://www.petaldance.jp/
ローアングルの長回しだなと思っていると、
「あっ」息を呑む美しい映像。
後半の冬の海辺のシーンは、あまりに美し過ぎて茫然。
菅野よう子の音楽も静物画のような映像とベストマッチ。
ブルーグレイを基調とした抑えた色味と簡素なセリフ回し。
女優たちも、皆んな美しい。
こんなロードムービーを撮ってみたい。
(あの海岸の捻じれた樹は、もちろんタルコフスキー)
竹灯篭の温かい灯りのイヴェントにしても、
お金をかけないで地方の街おこしのアイディア企画、楽しそうです。
でも、何処も右にならえの「ゆるキャラ」と「B級グルメ」では私と同じボキャ貧ですよね(笑)
misaさんに続いて鬼城さんからもフォローして頂いて恐縮です(汗)
プロの物書きではないので、イメージを紡ぐ言葉の引出しが底をついたのか?
それとも老化で記憶の引出しが、ガタついて上手く引き出せないのか?
まぁ、背伸びせず気長に言葉が浮かぶのを待つことにします。
どうも最近、ボキャ貧で言葉が浮かびません。
風景から喚起される溢れるイメージの放逸。
この感覚が最近、乏しいんですよね。
そのもどかしさが悪い形で出たのが、今回のエンディングの風景描写だと思います。
まぁ、駄目な時はしょうがない…気長に待つことにます。
出発前にもらったメールで、久しぶりにmisaさんとお会い出来るかな?って思っていました。
どうも日にちが違っていたみたい。
私の勘違いでしたね(笑)
山からのショートメールの交換でも書いたように、
カメラ機材が次々と不具合を起こしてゆきました。
不運というのは不思議と連鎖するように重なるものです。
かなり気持ちが凹みました。
まぁ、でも山でハードに使う道具の故障は必然です。
仕様がない。諦めましょう。
はい、林道閉め前の瓶ヶ森です。
またお会いしましょう。
アクシデントにもめげずもう一泊して正解でしたね
昨日でしたか、NHKのnewsで紅葉に霧氷(多分石鎚)ちらり見ました
朝夕の冷え込みに今期は期待大
暫くはお互い瓶通いですね
相変わらずの説明不足です(汗)
それは秋の深まる山の夜を通して読んでいた恒川光太郎の文庫新刊、
「竜が最後に帰る場所」にあります。
特に、その中でも「夜行の冬」は秀逸だった。
しんしんと凍える雪の夜、夜を通して歩く奇妙な集団を描きます。
恒川光太郎は「夜市」「草祭」「雷の季節の終わり」と圧倒的な異界の風景と琴線を震わす郷愁の場所へと誘います。
今回も「夜行の冬」は、物語で描かれた異界の風景と、天幕越しの深い闇が手に取るように共振していました。
(夜通し鳴く梟の声も絶妙の効果音)
そして翌朝の、昏く不可思議な気象現象との出会い。
まるで狐の嫁入りのような異彩を放つ美しい光景でした。
これを以前から聞いていた瓶ヶ森の童女伝説に絡めました。
はは…説明しないと、あまりに唐突ですね(苦笑)
御容赦を。