Landscape diary ランスケ・ ダイアリー

ランドスケープ ・ダイアリー。
山の風景、野の風景、街の風景そして心象風景…
視線の先にあるの風景の記憶を綴ります。

冬の聖地へ再び

2013-01-31 | 風景

 

石鎚信仰の最初の聖地は、瓶ヶ森だったという。

瓶ヶ森のなだらかな平原から雲の上に浮かぶ石鎚の嶺を礼拝する。

霊峰石鎚を眺望する最高のビューポイントは、間違いなく瓶ヶ森だろう。

その瓶ヶ森が本来の静けさを取り戻す冬。

それも一面の笹原が雪で埋もれる厳冬期こそ、聖地の名が相応しい。

 

昨年、初めて訪れた厳冬期瓶ヶ森で、魂を震わすような光景と出会った

そして今年も、あれを越えるような神話的風景と出会いたい。

東の川から3日分の食糧と予備食に水、それにテント道具一式とカメラ機材あわせて27kgの冬山装備の荷重を担いで登った。

西の川終点のバス停から東の川方面へ橋を渡ると通行止めの表示。

昨年の大規模な崩落のため、小学校跡地の校庭へ降りるスロープの先に迂回路が出来ている。

川に渡された仮設の橋を渡って対岸へ。

さらにロープが張られた迂回路を辿り、本来の東の川集落への道に至る。

この山間の道にも雪が積もっている。

この先、かなりの積雪に苦しみそうな予感。

12時半。橋を渡って東の川登山口を出発。

 

さぁ、植林帯の急登が続く。

息を弾ませ標高を上げてゆく。

どんどん雪の量が増えてゆく。

同じような風景のなかで、ルートを探ってゆくことが、だんだん困難になってゆく。

特に植林帯を抜けて、自然林に入ると、右を見ても左を見ても同じような雪景色が広がる。

昨年と違うのは、見通しの好い晴天が一日続いたこと。

そして何より、週末に入ったと思われる単独行者の足跡が雪面に、ずっと台ヶ森まで続いたこと。

それでも明るい内に山上へ達することは叶わなかった。

雪が深くなると格段にペースが落ちる。

何度も息を整えながら深雪の斜面を這い上がり、

さらに雪崩の跡が残る斜面を慎重にトラバースしてゆく。

とっぷり日の暮れた午後6時半、幾島小屋脇の風下にテントを設営。

  

 

テント内で氷点下5℃。

昨年は、あまりの寒さに下山しても血尿がしばらく止まらなかった。

今回は充分に防寒対策をした。

背中、お腹、足元にたっぷりカイロを貼り付ける(笑)

なんといっても、これが一番温かい。

これで寝袋に包まれば朝まで寒さ知らず(本当だよ)

もちろん雪面からの冷気対策としてテント内床面の銀マットとエアマットは忘れずにね。

 

翌朝まで、ぐっすり眠った。

目覚めたのが5時半。

テントを淡い光が包んでいる。

満月二日後の月明かりが皓々と雪面を照らす。

目覚めの珈琲と軽い食事を取り身支度して出発。

瓶ヶ森は、ほぼ笹が埋もれるほど雪が積もっている。

こんな場所では、スノーシューがその威力を発揮する。

快適に月明かりの銀世界を女山目指して進む。

樅の木がモンスターのように風雪の樹氷化している。

石鎚方面は一面の雲海だ。

時折、雲の波間から石鎚の嶺が顔を覗かせるが、すぐにまた雲の波が覆う。

期待感が一気に高まる。

女山山上で日の出を迎えるのを止め、この場所で朝日を待つことにする。

樅の樹氷群と雪原を前景として朝焼けの石鎚を迎える。

空が徐々に白み始める。

北東の風が稜線にかかるガスを足早に掻き消してゆく。

東の空の稜線が赤く染まり、

日の出の最初の明かりが、雲の上に浮かぶ石鎚の白き嶺に灯る(ともる)。

ぽっと火が灯るように紅指す雲上の石鎚。

まだ瓶ヶ森の雪原には陽の光は届かず、青白い影の中にある。

そして雲の上に浮かぶ、霊峰だけが茜に浮き上がっている。

ついに出会えた。

神々しいまでの石鎚の神話的風景と。

 

 


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13 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
神話的風景 (いけぴー)
2013-01-31 17:18:45
深い雪に閉ざされた瓶ヶ森からの石鎚山眺望。

朝日に照らされる石鎚山と雲海。青い雪の氷見二千石原。
何人も見ることが出来ない風景あこがれます。
返信する
伝説の風景と出会った幸運 (ランスケ)
2013-01-31 20:13:34
いけぴーさん、さっきまで菅さんと話していました。

あなたが初めての冬期避難小屋泊まりで遭遇した風景は、
厳冬期天狗岳の伝説的風景です。
私が14年間通っても未だ出会えない光景。
それをいきなり(絶句)

あなたは石鎚の神様に祝福されているのかもしれない。
あっ、そういえばループさんも同様だ。

これから性根を入れて石鎚山岳写真に取り組まなければね。

後は写真のテクニックです。
あまりにも惜しい。
おそらく三脚を使ってないのでしょう。
ピントの甘い写真ばかりだ。
そして露出は、もっとアンダーの方が良い。
こんな最高の瞬間に出会っても、それを撮れていない。

私も何度も同様の失敗を繰り返してきました。
でもデシタルは、その都度修正が利きます。
ぜひ、もっと本腰を入れて写真のテクニックを身につけてください。
こんな最高の風景と出会えるのは、もう二度とないかもしれないのですから。
その瞬間を確実にものにする技術が必要です。

ビギナーズ・ラックで終わらさないためにも。
返信する
いつも (いけぴー)
2013-01-31 20:48:11
ご指導ありがとうございます。大事なところであまりにもたくさんの失敗をしております。言われなければわからないほどのド素人です。もっと学習していきたいと思います。
返信する
頑張っていますね! (金澤)
2013-02-01 21:34:50
東の川からの瓶ヶ森入山大変でしたね。うまくチャンスをつかめて良かったですね。私は瓶ヶ森に2泊しましたが石鎚が顔を出さず退散でしたよ! 30日に松山を引き払い千葉に戻る途中で各地で写真を撮っている途中です。もう2、3日放浪すると思います。当分石鎚の写真を撮るチャンスはないと思いますがランスケさん達の傑作を楽しみにしています。
返信する
三浦さんに会いました (ランスケ)
2013-02-01 21:52:29
いけぴーさんに対する返信にあたるコメントは削除しました。

実は今回の瓶ヶ森で三浦さんと会っています。
福島さんや高橋毅さん同様に70歳を越える石鎚山岳写真の先駆者は、
今も現役で厳冬期の瓶ヶ森に通っています。

写真展で福島さんは「もう厳冬期の山へは通えない」ともらしていました。
第一人者である高橋毅さんの姿は、もう久しく石鎚では見かけません。

誰もいない厳冬期の瓶ヶ森で三浦さんと色んな話をしました。
また新たに645デジタルカメラを購入して山岳写真への情熱を燃やし続ける、この人の姿勢には驚かされます。

最近、苛立つを持って苦言をもらしているのは、
これら先駆世代に続く人たちのモチベーションの低さです。
う~ん、余計なお世話か…

今回の厳冬期の瓶ヶ森の雲海に浮かぶ朝焼けの石鎚は、おそらく先駆世代の誰も撮っていないと思います。
私の手元にある写真集には見当たりません。

でも、まだ気持ちの上では物足りません。
今シーズン、もう一度瓶ヶ森に入るつもり。
返信する
風来坊? (ランスケ)
2013-02-01 22:07:36
あっ、コメントが前後しました。
金澤さん、帰郷途中の書き込み、ありがとうございます。

あなたの四国最後の秋から冬の集中力には驚かされました。
えっ?、真っ直ぐ帰らないで、放浪しているの?
やっぱり何処か自由な心意気を持った人だと思っていました(笑)

また気が向いたらコメントを寄せてください。
返信する
これからも山へ (ループ)
2013-02-01 22:36:51
ランスケさんこんばんは。
雲に浮かぶ朝焼けの石鎚
静かで荘厳な感じが伝わります。またイメージに近づくため山行されるんですね。お気をつけて!
先日イケピーさんとの石鎚で、私は天狗と星空、月を期待し向かいました。目的を達した翌朝あの光景に出くわしたわけですが、絵画のように鮮やかな橙、柔らかな雲海、荒波のようなガス、胸を締め付けられる感動でした。
私はこれからも好きなテント泊、縦走で山に登ります。カメラは持参したり、しなかったりで半端な山好きですが、これからもみなさんとの出会い、ゾクゾクする景色を楽しみにしています(^-^)/
返信する
マイペースで楽しんで (ランスケ)
2013-02-01 23:36:47
そうですね。ループさんのような山行スタイルが一番楽しいのでしょう。

それにしても、いけぴーさん同様、初めての冬期避難小屋泊で、あの伝説的風景に出会うなんて…
気温差の高い秋には、まだ出会う確率が高い風景ですが、
西高東低の気圧配置が優勢な冬に遭遇する確率は、ほとんど宝くじ並み。
一度、こんな風景を見てしまうと、後戻りできなくなってしまいますよ(笑)

マイペースで四国の山を楽しんでください。
またお会いしましょう。
返信する
はじめて (鬼城)
2013-02-04 08:43:38
こんな瓶が森からの石鎚、初めて見ました。
神々しいと言おうか、言葉にできない風景ですね。
今年は良いことがあると思いますよ。
確率は機会が多いほど高くなると言いますから・・・
私の説得では何にもなりませんが・・・(笑い)
返信する
昔日の瓶ヶ森 (ランスケ)
2013-02-04 14:15:05
高橋毅さんは写真集の中で、厳冬期の瓶ヶ森へ入山するのに15時間を要したと書いています。

昔は、積雪量もずっと多く、装備も現在のように軽量化されていないので、それは困難な行程だったと思います。
但し当時は幾島小屋が冬期避難小屋として開放されていたようです。

先日、ロープウェイで乗り合わせた元山ヤのスキーヤーは、冬の瓶ヶ森は小屋を掘り起こすのが大変だったと笑っていました。
鬼城さんやkyoichさんの記憶の中にある昔日の瓶ヶ森の姿ですね(笑)

石鎚から観ると、冬の雲海は日の出の時間、瓶ヶ森を雲の下に隠してしまうことが多いように思えます。

林道閉めの11月末に撮られた霧氷を纏う朝焼けの石鎚の姿は、よく見られます。
でも、なぜか一面の笹原が雪に埋もれた厳冬期、雲海の上に浮かぶ茜色の石鎚の写真は未だ見た記憶がありません。

確かに仰る通り今シーズンは、「霧氷を纏う墓場尾根の夕映え」と今回の「厳冬期瓶ヶ森の雲海に浮かぶ朝焼けの石鎚」という
おそらく誰も撮影していない厳冬期石鎚の風景を撮れました。
でも私の頭の中にあるイメージとは、まだかけ離れています。
こんなものじゃない。
すべての条件が整った時の石鎚は、もっと身震いするほど劇的な風景を見せてくれるはず。

それにしても一気に週末の温かい気温と雨で雪が解けてしまいました。
やっと笹が隠れるほど雪が積もったと喜んでいたのに、これでは元の黙阿弥です。
もう今シーズンの瓶ヶ森はダメかもしれません?
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