カオスの鼻
いくらシャワーを浴びても
あなたのにおいは残っている
生臭さは薄められ
あたしの一部になる
粘っこい汗の奥に
ざらっとした血のにおい
かんかん照りの中へ
あいまいなあなたの帰還
際限のない物足りなさを
何層にもなった言葉と
鼻で笑っている常識で
この部屋の中に押し込める
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南の王さませっかち屋
北の王さまあわて者
真ん中王さま混沌とん
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カオスの口
おばあちゃんはよく食べるね
何に似てるって想像したくないような
ぐちゃっとした食事なのに
あたしは赤ちゃんを産みたくない
歯がなくて、しゃべれなくて、
垂れ流して、しょっちゅう泣く
頭がぐるぐるしてこわい
うつらうつらしていると
おばあちゃんがどんどん大きくなる
声も低く、はっきりしてきて
あたしのつぶやきに重なってくる
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カオスの耳
まあ、なんとでも言ってくれ
これが自分のことじゃなけりゃ
こんなおもしろいことはない
毎朝、吊り革にぶら下がって
ながめていた週刊誌の広告に
振り返ると自分が出ている
叫び声で目が覚める
少しあえぎ始めた女の耳に
息を吹きかけたとたん
全く新しい世界が始まった
いや、新鮮な恥辱にまみれた
おれが生まれた
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南海之帝為儵 北海之帝為忽
中央之帝為渾沌
儵與忽時相與遇於渾沌之地
渾沌待之甚善
儵與忽謀報渾沌之
曰「人皆有七竅以視聽食息
此獨無有 嘗試鑿之」
日鑿一竅 七日而渾沌死
荘子・応帝王篇第七
カオスの目
誰かに迷惑をかけてるわけじゃない
誰かを傷つけてるわけじゃない
あたしを痛めつけているだけ
あたしが苦しんでいるだ . . . 本文を読む