時計もない部屋の片隅に突然、薔薇が咲いた。
赤深く濃い薔薇が何故か懐かしく僕を惹きつける。
薔薇の香りは濃く深く僕を巻きつけるが思いだせない、懐かし薔薇のこと。
うぅ、更に香りが僕に巻きついてゆく
「雨あがり小寒い中営業中」
銀河食堂現る。幻だろうか。
寒いだろ?参ナンチャラ食べていきな。それは最初にであった食堂の店主だ。
参鶏湯?
参ナンチャラだ、店主はナンチャラと濁す。
一人前で2枚の胸肉の出汁が決め手だ、ニンマリ笑う。
そしてこうも言う。
懐かしさがあれば無理に思いださなくてもいいのさ。
え?
なに深紅の薔薇だろ。その薔薇はちゃんと知っている、同じく君を懐かしんでいる、それでいいんだ。
ごちそうさま、を言う前にサッと器をさげる店主。
その瞬間、僕はまた雨がふりそうな外を部屋から見ていた。
クコの実が歯茎に挟まっている。
そして部屋の隅に咲いていた赤深い薔薇は散っていた。