草むしりしながら

読書・料理・野菜つくりなど日々の想いをしたためます

ハナコ十五歳

2023-03-15 20:17:49 | 猫自慢

 ハナコ十五歳

 夕方姉が血相を変えてハナコがいないといってきた。ハナコは我が家の飼い猫で、今年で十五になる。長い間外の出入りを自由にしてきたが、三年前猫同士の喧嘩で大怪我をしてから、外に出さないようにしている。

 それでも隙を見ては表に飛び出し、そのたびにチュールをもって追い回す。年のせいか若い頃に比べれば動作が緩慢になったものの、隙を見て外に飛び出す速さは昔のままだ。

 部屋にいるものだと思い込んでいたので、気がつくかなかったのだ。姿が見えなくなってから三時間以上になる。ハナコはこの頃では姉の猫と言っていいくらいに、姉になついている。

 さて、どこに行ったのやら。三時間も姿が見えないなって、何かあったのだろうか。姉が蔵にいないかという。そういえば私は、さっき蔵の中に入っていた。

 慌てて漆喰の重たい戸を引くと、ハナコが中から飛び出して来た。姉は自分向かって一直線に走ってくるハナコを、ヒョイとつかまえすぐに家の中に入れた。

 実は私、過去に二度ほどハナコを蔵に閉じ込めたことがある。その時も今みたいに飛び出してきた。飛び出して走っていく姿は昔とちっとも変わらなかった。

 ハナコ十五歳。まだまだ長生きしてほしい。


取り(鳥)込む

2019-10-15 21:28:05 | 猫自慢
取り(鳥)込む
 
 姉の家は同じ敷地内にある。家が新しいからだろうか、この頃私の飼い猫のハナコは、姉の家に入り浸っている。その朝ハナコは、姉の毛布の上にゲボをしたと言う。ハナコにすれば姉の方が新参者なのだろう。使っているパソコンの上を占領したり、下っ腹に噛みついたりと、姉の家ではやりたい放題ある。

 しかし毛布の上にゲボとは困ったものだ。飼い主として悪いとは思いながらも、ここは黙ってやり過ごすしかない。気まずい雰囲気の中で、二人で朝ドラなどを見ていた。「この妹役の子役、うまいね」などと話題を微妙にそらしながら……。

 そこにトントンと階段を下りる音がして、当のハナコが2階から降りて来た。姉の手前ひとこと言わなければ。ハナコを見ると、何かを咥えている。
 
 「ネズミ」と思った瞬間だった。口の開いたままの私のバックの中に、咥えていた物をポイと放り込んでしまった。普段だったらネズミを見ただけで大騒ぎするのだが、今度ばかりは姉と二人で手を叩いて大笑いをしてしまった。おかげで先程までの気まずい雰囲気も消えてしまった。

 毛布にゲボとバックにネズミ。お互いに恨みっこ無しの痛み分け。それにしてもなんて空気の読める猫だ。しばらくは感心していた。

 しかし毛布にゲボは洗えば済むが、バックにネズミは洗っても済まされない。しかもバックはくたびれてはいるが私のお気に入りのヴィトンだ。捨てるには惜しいし、使うのは気持ちが悪い。

 とんでもないことをしてくれたものだ。家に常備しているネズミ専用の火箸を持って、恐る恐るバックの中を捜したが、ネズミなど入っていなかった。

 おかしい、さっき確かに放り込んだのを見たのに……。辺りを見回す私の目の前を、スズメがさっと飛び立ち、ハナコが後を追いかけて行った。なんだ、鳥だったのか。ネズミでなくてよかった。

 それにしても朝からバックに鳥が入るとは、縁起がいい。取り(鳥)込む。お金がどんどん儲かりそうだ。ありがとうね、ハナコ。その日は朝から気分が良かった。

猫に心配されない程度に

2019-01-31 14:49:17 | 猫自慢
猫に心配されない程度に

冬だからと言って毎日が寒い訳ではない。暖かな日もあれば寒い日もある。それでも一旦コタツの味を覚えると、もう外には出たくなくなる。すうっかりコタツの国の住人になってしまった。

コタツと言っての小さな電気コタツなので、長い間入っていると窮屈で仕方ない。それでも入っているのだから、これはもう根が生えたと言っていい状態なのだろう。あっちに向いたりこっちに向いたり。最後は寝っ転がって、いつの間にかウトウトしてしまう。

 まあこれがコタツの醍醐味だろうが、しかしいつまでもこれでは困る。気分転換にセリでも摘みに行くかと思い立った。「よし」と声をかけコタツから出ようとして足をぐいと動かした。とたんに「ギャオー」を声がして、猫が私の足に爪をたてて噛みついた。

 しまった猫のハナコを蹴ってしまった。「ごめん、ごめん」と謝ったが、ハナコは怒って外に飛び出していった。まあハナコもコタツの国の王様みたいになっていたので、たまには外の空気を吸うのもよかろう。そう思って、私はそのままセリ摘みに出かけた。

 思えば正月からこっち大して外に出てはいなかった。長靴を履き手にはバケツと草とり鎌を持って、近所の杉林に脇や耕作を放棄された田んぼの畦道などを、散歩がてらに歩いて回った。しかしなん気持ちのいいことか。

 散歩も良いものだと思った。カメラや双眼鏡、植物や鳥の図鑑など持って行くと、もっと楽しいかも知れない。しかし散歩は散歩で、シャカリキになって歩くウォーキングではない。一昨年に猪よけの網に引っかかって足を骨折して以来、左の足に爆弾を抱えてしまった。無理はいけない。歩数や時間なども決めずに緩くいこう。 
 
 散歩のことばかり考えていたので、肝心のセリは少ししか摘めていない。せっかく来たのだかと、今度はセリ摘みに勢を出した。少し欲張り過ぎたのか、気がつくと日が西の山に傾き始めていた。
 
 急に寒くなり慌てて家に帰ると、庭先にハナコがいた。「遅い」とでも言いたげに、ひと声鳴いてそっぽを向いてしまった。あれからずっと私を待っていたのだろうか。寒くは無かったのだろうか。セリの入ったバケツとハナコを抱いて家に入った。
 
 耳もとでゴロゴロとハナコの喉を鳴らす音を聞きながら、散歩もいいけど猫に心配をかけないようにしようと思った。
 
 今夜はセリご飯。炊き立ての白いご飯に混ぜ込んだ、セリが食欲をそそる。噛みしめると口の中に春が広がった。
 


いくつになっても

2018-12-29 14:34:47 | 猫自慢
いくつになっても

 猫のハナコがコタツの上に座っている。コタツやテーブルの上にあがると叱られるからだろうか、コチコチになって時々震えている。しかしおかしな座り方だ。もっとゆっくりと座ればいいのに、前後の脚をギュッとくっ付けている。震えているのはバランスが悪いからで、叱られるからではないようだ。
 
 私の視線を感じたようだ。ハナコはコタツの上から降りて、座布団の上に座り直した。後には私のピンク色の眼鏡拭きが残されていた。なんてピンクの好きな猫なのだろう。ピンクならこんな小さな布の上にでも座ってしまうなんて。もちろん今座っている座布団も、ピンクのお昼寝マットが掛けてある。

 子猫だったハナコが我が家にやって来てからか、もう十年以上になる。かなりいい歳なのだろうけど、ピンク好きは変わらない。もっとも私の方もいい齢をしてトレーナーばかり着ているから、猫のことは笑えない。トレーナーは高校生の頃から着ているから、中身の方もその頃と変わらないのだろう。

 新しい年が来ると、また一つ歳を取ってしまう。でも幾つになっても好きな物は好きでいいよね。お年玉を握って、新しいトレーナーとピンクのお昼寝マットを買いに行こう。


猫と蔵にまつわる話2つ

2018-08-21 16:26:06 | 猫自慢
猫と話した朝 
 ハナコは腹から脚に掛けて真っ白で、背中ら長い尻尾に掛けては、少し緑がかった灰色と黒の縞模様のある美しい猫である。時折光の加減で縞模様が銀色に光って見えるのは、飼い主の欲目だろうか。
 そんなハナコがいないと気づいたのは、夕食の支度中だった。いつもは好物の煮干しをねだって、足元にまつわりついてくるのに。心辺りを探したが見つからない。時々はそんなこともあるので、特に心配はしなかった。
 ところが朝になっても帰って来ない。慌てて捜したが見つからない。蔵の前に時折見かける猫がいる。こちらは煮しめのような色をした縞模様だ。
 「ハナ知らん?」思わず声をかけてみたら、漆喰の引き戸の前で「ニャーニャー」と泣き出した。重い戸を引いた途端に、ほこりだらけのハナコが飛び出してきた。抱き上げて頬ずりすると、ゴロゴロと喉を鳴らす音と土ぼこりのにおいがした。
 それにしても猫と話した不思議でハッピーな朝だった。
 
2010.4月新聞投稿
 
猫を怒らせた日
 床下の芋釜の掃除をしているところを、猫のハナコにみられると少し厄介だ。とにかく好奇心旺盛で、私が何か始めるとすぐにやって来て邪魔をする。だから今日は邪魔されないように、蔵の中に閉じ込めている。
 芋釜とはサツマイモの貯蔵庫のことで、大人の背丈ほどの深さで、畳一枚半ほどの広さの穴だ。もみ殻を入れて冬の間芋を貯蔵しておく。毎年サツマイモの収穫前にもみ殻の入れ替えをする。けっこう大変な作業であるが、ここで貯蔵した芋の美味しさに比べれば、たいしたことではない。けれども時間のかかる作業でもある。
 中に芋を入れるころには寒さも増してくる。その頃には猫にこたつを出してやらねば……。猫のことを思い出した時には、もう薄暗くなっていた。大慌てで蔵の戸を開けると飛び出してきたのだが、そのまま走って庭石の上に飛び乗り、そっぽを向いて毛繕いを始めた。
 かなり怒っているようだ。今夜は好物の煮干しを一匹多くやって、ご機嫌を取らなければ。

2012.10月新聞投稿