広東料理(豚の丸焼き撮影会)
広州の夕食は広東名物料理。
食は広東にありという言葉もありますし、豚に丸焼きが出てくるということで、期待に期待を掛けていたのですが、完全に日本人の味覚にあわせた味でした。
豚は尻の尾以外は完全に姿焼き。
毛は見事に抜かれ、手足はきれいに掃除されていた。
目玉は抜かれ、飾りのミニトマトがなんとも情けない。
周りに野菜でできた飾りの花が飾られているのが、かえって豚が哀れな気がする。
『こんなに人間に言いなりの豚が、中国では猪と呼ばれるとは、豚の立つ瀬も無い。』
「豚が来たら、記念さつえいしてくださ~~い。」
とガイド嬢とレストラン従業員は、名手た声色でテープのように話した。
豚が来るまでの数分間、
『そんな残酷なものは苦手だわ~~』
『ぁたくしも~苦手なの~ぉほほほ~。』
とおっしゃっていたご婦人方も、皿を見るなり立ち上がって、豚とともに記念撮影されていた。
にこやかにペアと肩を組んでいらっしゃる前で、飴茶色の豚は静かに横たわっていた。
一通りに撮影が終わると、
「これから切り分けてきます。」
レストラン従業員が皿を持ち去っていった。
暫くして、パッチワークのように表面を切り分けられた飴茶色の豚が登場。
飴茶色は枯れ田畑のようで、前にもまして痛々しい・・・
殿方がまず豚を取る。
みんなは一口食べて、箸をとめてしまう。
ひとりの殿方が、
「まずい、あかんわ・・・豚というものはもっと皮をカリカリに焼かにゃぁ、あかん。」
といつもの講釈が始まる。
確かに正論だとは感じたが、食事中に『まずい』の言葉は禁句である。
殿方はご婦人以上に 特にご注意いただきたいというのが、私の持論である。
もしどうしてまずいと言いたいのであれば、
「私は結構ですので、どうぞ召し上がってくださいね。」
といった言葉に置き換えるほうが紳士的だと感じるのは、私だけであろうか。
豚は確かにロースト時間が短く、脂臭かった。
皮の下の脂質部分が真っ白で、油がこちの中でべたつく。
桂林や佛山、賀州で食べた鴨や鳩などの鳥のローストのように、表面にカリカリ感が無い。
豚の皮はおれんじジャムを混ぜたような甘いたれが塗りたくられて、てかてかとして色合いは美しかった。
少し甘すぎて、しまりの無い味だ。
ところが・・・まずけりゃまずいなりに この味を覚えておこうと行った家族たち。勇み足の家族がなんだか頼もしい・・・
ほとんど残された豚の皮を一枚一枚剥いでは食べていく。
最後は顔の頬一枚。
家族は豚と真正面から格闘し、見事に最後の一枚まで平らげてしまう。
哀れな豚も、これで少しは精神的に救われたかも知れない。
最も、端から豚はローストされ、食事する側のことなどは気にもとめてはいないのだが・・・
『無理しちゃって・・・』
と笑いながらも、
『こういう家族でよかった・・・』
と改めて家族の見事な豚との格闘の一連を見て、彼を見直した瞬間であった。
但しこの行動が災いして、せっかくタクシーに乗って夜の広州『北京路』まで出かけたというのに、何も食べられずにホテルに戻ることになろうとは・・・がっくり。
物事は程々が一番である。
このレストランででてきた覚えているメニューは次の通り。
アルミで包み込んだ甘辛あんかけの魚
黄色い芋と茄子の豚肉幕の甘あんかけ
冬瓜丸ごとのなかに野菜を入れて蒸したようなスープ
野菜のさっと炒め
茄子半分縦長に切ったマーボーナス
(実はこれが一番美味かった)
中華味の濃い目のサフランピラフ
ミニトマトなど
他・・・
といった料理が出てきた。
印象深いのは『黄色い芋と茄子の豚肉幕の甘あんかけ』
向かいのご婦人に、中は何かとたずねられたので、
「さつまいもです。」
と答えた。暫くすると豚の講釈の殿方が、従業員に意味ありげに薄笑いを浮かべて、中は何かを尋ねておられた。
従業員は片言の日本語で茄子と答える。するとその男性はまるで天下を取ったような大きな声で、
「ほうれ!これは茄子や。茄子でんがな!!な、茄子・・・」
とこちらに妙は笑みを向けてくる。
確かに一回目に子どもと私と隣のご婦人が食べた部分は芋だったが、次に食べたところは茄子だった。
ちなみに夫が食べた部分は茄子だったらしい。
部分部分によって芋と茄子が交互に置かれていたらしく、豚をまかれ 色の濃い醤油の甘あんが掛けられていたので、中までは見えない状態だった。
私は自分たち家族の時間を楽しむべく、黙ってお食事を続けた。
この『黄色い芋と茄子の豚肉幕の甘あんかけ』はすごくおいしいというわけではなかったが、家庭料理といった感じがして 嬉しい一品だった。
多分豚の分量を少なくし、ボリューム感を出す知恵として、芋や茄子に豚の薄切りを巻いたのだろうと察しがつく。
そういうと肉がなかなか口にできない人のために、豆乳や果ては抜くの食感に似た腐竹まで考え出す中国である。
なかなかあたたかくてよい料理だと思う。
私はこの料理と茄子半分縦長に切ったマーボーナスも日本に帰って再現してみたが、
「こんな感じだった。」
といって、結構家族が喜んでくれた。
写真は『冬瓜丸ごとのなかに野菜を入れて蒸したようなスープ』
冬瓜の種をくりぬき、野菜スープを入れて蒸したこの料理は、サービスの方が お玉で冬瓜部分を救って入れてくださった。
「冬瓜って海老で炊いたのしか食べたことが無いわ~」
「冬瓜って味がないからキライ~~」
とおっしゃっていた方もいらっしゃったが、わが家では冬瓜やかぶらは好物で、ポピュラーな食べ物の一つ。京のお晩菜でも普通に使われるお野菜の一つだ。
海老としょうがで煮るのは有名だが、海老を豚に変えて煮たり・・・豚や牛肉で炒めても、味がなじんでとても美味しい。一旦味付けして湯で、皮下の材料と濃厚なゼリーで固めて冷やしても美味しい。ほんのりホンダシと昆布で浅漬けして、シーチキンとマヨネーズ和えのサラダも美味い。この中でかなりのお勧めに一品は冬瓜と牛肉炒め。但し冬瓜と海老としょうが以外は全部オリジナルなので、まずくとも 責任は取りかねます。
たまたま入ったこのレストランの全体の味付けは甘め醤油味やあんかけの料理も多く、ダシが薄く、コクは無かった。
みると私たちの入った席は日本人の団体の観光客が多く、大きな店がゆえに日本人にあわせてくださった味付けだったに違いない。
せっかく広州の食事だったのに、こんなことなら外食すればよかったと後悔の念でいっぱいだった。
次に行くならば、広州の場合は個人旅行のほうが楽しめるなとも思うが、いつになることやら・・・・・・
佛山と賀州、桂林の一部で美味いものに遭遇しただけでもよしとするか・・・