2011年2月1日(火)
振り込め詐欺がまだまだ盛んなようだ。
この前読んだ、「下流の宴」でも、主人公が、振り込め詐欺のニュースに、
「息子の電話の声がぼそぼそしていて、詐欺と見分ける自信がない」
と、言っていたなあ。
そこで、2年前に、ウィステ家にかかってきた詐欺電話についてのエッセイを・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「声」
夕食を済ませテレビの前で一息ついていた時、電話が鳴った。携帯の電話番号がパネルに表示されている。
誰だろう。子供たちなら番号を登録してあるから、名前が表示される筈だがと電話をとると、若い男の声が、
「携帯、トイレに落としちゃったんだよ。で、番号が変わったから、ちょっとそこに書き取って」
と、いきなり指示を始めた。
え、何なの? と、頭が働かず、聞き返すと、同じ声が、
「だから、携帯、トイレに落としちゃったんだよ。それで番号が新しくなったんだよ」
と、繰り返すが、どうもその声がか細い。
息子たちは、電話してくると、
「俺だけど」
と、話し始める。声で長男か二男か分かるが、今日は、「俺」とも言わない。なにより、声がか細いのが
気に入らない。息子たちの声は、野太い。電話の声は、「違う」と私の直感が囁く。ざわついた胸を押さえて、私が、
「誰? 誰なの?」
と、問い返すと、相手は、
「分からない? 風邪ひいちゃったんだよ」
と、答えるが、風邪をひいたら、息子たちはガラガラ声になる。怪しい。
「分からない、分からないわよ。誰なの?」
と、押し戻すと、
「ジナだよ」と、小さな声がした。小さすぎる。おまけに、ポチがわんわん吼えるし、
「聞こえない! 聞こえない!」
と、私が声を張り上げると、突然、電話は切れた。
これが、あの「振り込め詐欺」なんだろうか。いつもは私が電話で話し始めると、
「自分も」
とばかり吼え出して迷惑なポチだけれど、今日は電話に対決した仲間という気持ちになって、足元のポチに、
「いやな電話だったよね」
と、話しかけた。
だが、あの電話の声が、「ジナ」と言ったのが、ひっかかる。
二男は「ジナ」と名乗ったりしないから、怪しいのは分かってはいるけれど……。
それでも、二男は今、どうしているのだろうか?
私は、二男と話をしなくてはと、二男の携帯に電話をかけてみた。
だが、通じない。
折り返しの電話を待っているうちに、不安が増してくる。
私は、カモリストに載せられているんだろうか。
二、三日したら、「お金を振り込んで」という電話がかかって来るのだろうか。
振り込んだりしないけれど、電話ででも、またあの声と接するのはいやだ。
そこにまた電話が鳴った。今度はパネルに二男の名前が表示されているので、安心して受話器を取った。
「もしもし」
と言うと、
「あ、俺だけれど、電話くれた?」
と、いつもの力強い二男の声だ。私は、「うん、した」と答えると、吼え始めたポチに、
「ポチ、うるさい!」
と一喝し、受話器を持って台所へ移った。二男の声に、私の頭の中に染み付きそうだった、
「都会の薄暗い小部屋から声の細い男が次々に獲物に向かって声をかけている図」
が振り払え、私は、含み笑いをしながら、
「ねえ、あなた、トイレに携帯を落とした?」
と、聞いた。二男は、「はあ?」と、呆れたようなリアクションだ。事情を話し、
「これって、やっぱり振り込め詐欺だよね」
と、言うと、二男は、
「そうだな。俺は携帯の番号を変えたなら、電話では連絡しないよ。メールで連絡するよ」
と、言った。実際的な二男の答えに、安心感が広がる。そんな二男の携帯からは、電車の音が聞こえている。
仕事帰りの乗り換えの途中で電話をくれたのだろう。私は、
「じゃ、気をつけてね。またね」
と、電話を切った。
やっと、詐欺の電話で運び込まれた黒い靄がかった気分が晴れた。私は、受話器を戻してから、
ポチのおやつ袋に手を伸ばし、
「ポチ、特別におやつをあげようか?」
と、声をかけると、気配を察したポチは、わんわんと吼えながら駆け寄ってきた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そうそう、今日もポチの病院へ。咳がだいぶ少なくなってきたよ。(^^)
振り込め詐欺がまだまだ盛んなようだ。
この前読んだ、「下流の宴」でも、主人公が、振り込め詐欺のニュースに、
「息子の電話の声がぼそぼそしていて、詐欺と見分ける自信がない」
と、言っていたなあ。
そこで、2年前に、ウィステ家にかかってきた詐欺電話についてのエッセイを・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「声」
夕食を済ませテレビの前で一息ついていた時、電話が鳴った。携帯の電話番号がパネルに表示されている。
誰だろう。子供たちなら番号を登録してあるから、名前が表示される筈だがと電話をとると、若い男の声が、
「携帯、トイレに落としちゃったんだよ。で、番号が変わったから、ちょっとそこに書き取って」
と、いきなり指示を始めた。
え、何なの? と、頭が働かず、聞き返すと、同じ声が、
「だから、携帯、トイレに落としちゃったんだよ。それで番号が新しくなったんだよ」
と、繰り返すが、どうもその声がか細い。
息子たちは、電話してくると、
「俺だけど」
と、話し始める。声で長男か二男か分かるが、今日は、「俺」とも言わない。なにより、声がか細いのが
気に入らない。息子たちの声は、野太い。電話の声は、「違う」と私の直感が囁く。ざわついた胸を押さえて、私が、
「誰? 誰なの?」
と、問い返すと、相手は、
「分からない? 風邪ひいちゃったんだよ」
と、答えるが、風邪をひいたら、息子たちはガラガラ声になる。怪しい。
「分からない、分からないわよ。誰なの?」
と、押し戻すと、
「ジナだよ」と、小さな声がした。小さすぎる。おまけに、ポチがわんわん吼えるし、
「聞こえない! 聞こえない!」
と、私が声を張り上げると、突然、電話は切れた。
これが、あの「振り込め詐欺」なんだろうか。いつもは私が電話で話し始めると、
「自分も」
とばかり吼え出して迷惑なポチだけれど、今日は電話に対決した仲間という気持ちになって、足元のポチに、
「いやな電話だったよね」
と、話しかけた。
だが、あの電話の声が、「ジナ」と言ったのが、ひっかかる。
二男は「ジナ」と名乗ったりしないから、怪しいのは分かってはいるけれど……。
それでも、二男は今、どうしているのだろうか?
私は、二男と話をしなくてはと、二男の携帯に電話をかけてみた。
だが、通じない。
折り返しの電話を待っているうちに、不安が増してくる。
私は、カモリストに載せられているんだろうか。
二、三日したら、「お金を振り込んで」という電話がかかって来るのだろうか。
振り込んだりしないけれど、電話ででも、またあの声と接するのはいやだ。
そこにまた電話が鳴った。今度はパネルに二男の名前が表示されているので、安心して受話器を取った。
「もしもし」
と言うと、
「あ、俺だけれど、電話くれた?」
と、いつもの力強い二男の声だ。私は、「うん、した」と答えると、吼え始めたポチに、
「ポチ、うるさい!」
と一喝し、受話器を持って台所へ移った。二男の声に、私の頭の中に染み付きそうだった、
「都会の薄暗い小部屋から声の細い男が次々に獲物に向かって声をかけている図」
が振り払え、私は、含み笑いをしながら、
「ねえ、あなた、トイレに携帯を落とした?」
と、聞いた。二男は、「はあ?」と、呆れたようなリアクションだ。事情を話し、
「これって、やっぱり振り込め詐欺だよね」
と、言うと、二男は、
「そうだな。俺は携帯の番号を変えたなら、電話では連絡しないよ。メールで連絡するよ」
と、言った。実際的な二男の答えに、安心感が広がる。そんな二男の携帯からは、電車の音が聞こえている。
仕事帰りの乗り換えの途中で電話をくれたのだろう。私は、
「じゃ、気をつけてね。またね」
と、電話を切った。
やっと、詐欺の電話で運び込まれた黒い靄がかった気分が晴れた。私は、受話器を戻してから、
ポチのおやつ袋に手を伸ばし、
「ポチ、特別におやつをあげようか?」
と、声をかけると、気配を察したポチは、わんわんと吼えながら駆け寄ってきた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そうそう、今日もポチの病院へ。咳がだいぶ少なくなってきたよ。(^^)