アランの何気ない告白はレフイスの中に留まっていた。
アランの言うとおり
レフイスは自分を巡る外の世界の事さえテイオに語りかけていた。
レフイスにとってどうなんだろう。
と、考える事を忘れていた。
アランは自分の告白を足下の元に断られてもよかったのかもしれない。
態々アランに具体的な例えを出されたその内容が
レフイスを考え込ませていた。
確かにレフイスは自分にとってアランがどうであるかを考え様とはしていない。
自分にとってどうであるか考えた末
アランの思いを丁寧に断ったって構わない。
だけど、レフイスは自分の外界の事として
どう対処して行こうかとは考えていなかった。
心のどこかでテイオにない現実の存在感をみせつけられ
うちひしがられていただけにすぎなかった。
それはレフイスのテイオへの思いが恋でありたかったせいなのだろうか?
恋をするならテイオとでありたかったという事だったのだろうか?
その思いをなくしたくない為だけに
逆に自分がテイオを縛り付けているのにすぎない?
ドアを叩く音にレフイスは慌ててベッドから起き上がった。
ドアを少し開くとそこにアランがたっていた。
「あ?」
「すこし、いいかな?」
夜遅い個室への来訪は相手が女性であるならば
一層遠慮すべきことであろう。
勿論、アランにだって判っていることではある。
が・・
「ん。すこしだけ、なら」
レフイスの了承はアランが
ここにきたわけの半分以上を解決させていたが・・・
「あれから、まともに口をきいてくれない気がして、気になってたんだ」
アランはレフイスの部屋に入りながら
こんなに遅くに尋ねて来たわけを話していた。
「ウン・・。そうだね。さけてたか・・な」
「やっぱ?」
この間のウオッチャ―の時に
アランがレフイスに言った事はやはりレフイスを苦しめていた。
「だって、今まで生きてた半分以上の年月のなかに
テイオはいるんだもの。恋じゃなくっても取り去る事はできないよ」
アランの顔色がかすかに変わった気がした。
「ききたくないんだろうし、俺もいわなくてもいいって思うよ。
でもな、それはやっぱ、恋だったんだ」
「そうかな?」
『ああ。だから、忘れられる』
アランは小さな声でつぶやいた。
「え?きこえないよ」
「いや。なんでもない」
恋が作った空洞なら恋で埋められる。
いや、恋でしか埋められない。
でも、それをレフイスが求めて行くようになる為には
テイオへの恋であったと認める事が第一歩かもしれない。
それでもレフイスの空洞を埋められる相手が自分になるとは限らない。
けれどアランは哀しい恋の相手を恋だと認めようともせず
テイオにしがみついて生きてるレフイス自身をまず救い出したかった。
「なあ、アンタのテイオはこんなに温かくないだろ」
アランはレフイスを捉まえるとそっとだきよせた。
「あ!」
レフイスは小さく驚いた声を上げたけど
アランの胸の中から逃げようとはしなかった。
「ん?」
アランはそうだろ?って尋ねた。
アランの言う事はレフイスの頬にじかに伝わって来る様だった。
アランがレフイスの顔をしっかり包むと
更にアランの胸にピッタリと押さえる様に包みこんだ。
アランの体温の暖かさがひどく暖かく
レフイスの耳にはアランの心臓の音がとくんとくんと聞こえて来ていた。
それは愛しい者を抱き寄せる事の出来た
アランの生きてる喜びの声のようにも思えた。
安心しきって心ごと預ける事を許したくなるほど
アランの心臓の音も体温も暖かった。
「あ、ありがとう・・・」
レフイスはアランの体をむこうに押し遣った。
「又、気をわるくさせてしまったのかな?」
アランがレフイスを覗き込んだ。
さっきまでアランの胸の中に擁く事を許してくれた少女は
哀しい顔をしていた。
「あの・・」
レフイスが出そうとした言葉を止めたのが判った。
「いってみろよ」
「あの・・」
「はなしてくれよ」
「うん・・・」
レフイスが話し出した事はやはりテイオの事だった。
「生きてたら、テイオもこうだったのかなって、
こんなふうにだきしめてくれたのかな?って・・・」
レフイス。大事なのはそんなことじゃない。
アンタがテイオに抱締められたかったかどうかなんだ。
アランは口元に上がって来た言葉をかみ殺した。
そして、
「そうだったと思うよ。でも・・・」
レフイスはアランの言葉の続きに頷くと、自分で一言
「でも、テイオはいない・・・」
と、瞳を伏せた。
最新の画像[もっと見る]
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます