憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

―鬼の子(おんのこ)― 9 白蛇抄第14話

2022-09-06 07:07:17 | ―おんの子(鬼の子)―  白蛇抄第14話

「お前の血が人の女子をもとめるようになるんじゃ」

「え?」

「如月童子の外つ国の女子への焦がれが

人との間に光来をうましめたがの。

光来が如月童子と違うことは、

光来の血がかなえを焦がれさせておることじゃ」

「血が?どいいうことじゃ?」

「光来の中には人の血がながれておる。

其の血が人を恋しくさせてしまうのじゃに」

「ううん」

伽羅の言う意味が判ると悪童丸は首を振った。

「なれど、わしはそうならん。わしは・・わかっておるに」

「何が?何をわかっておるという?」

「鬼と人は一緒には成れぬが本当なのじゃろう?

だから父さまは・・ひとりで・・」

「う・・ん」

悪童丸も己が成ってはならない仲で生まれたという事は理解していた。

「だから、父さまはあんなに苦しんでおられた。

わしはそんな苦しい事なぞ、繰り返しとうはない。

わしが父様に、母さまに、してやれる事は

同じ事を繰り返さぬ事ではないか?」

悪童丸のいう事は、そのとおりである。

幼い頭で悟った生き方は、因縁納消ともいえる宗教の奥儀である。

が、因縁と言う物がそんなに簡単に

おのれの思い一つで立ち消えるものでない事が悪童丸には解らない。

判らないほどに己の心一つがどんなに操りにくいものであるか、

ほたえさえしらぬ悪童丸には量れるものではないのである。

「よしんば、おまえのいうとおり、

お前が己の血に負けなんだとしても・・。

あいのこはおまえだけではなかろう?」

「勢・・?」

「そうじゃ。お前が人の子でもあって、人を恋しく想うとするなら、

勢は鬼の子でもある。どうじゃな?」

「あ。あ・・」

何も知らない勢はどうなる?

「鬼恋しさが沸かされるやも知れぬわの?

其の時お前がどうする?

勢が鬼にほたえをあげ、鬼の子をはらみ、かなえと光来の二の舞か?

お前さえ無事ならそれでよいか?」

「いや・・」

つまり。ほたえというは、そういうことであるか

と、悪童丸は頭の隅で考えてもいた。

「もし、その鬼がおまえよりつようて、

勢を想いのままにしたらどうする?」

「そ・・そんなことはさせん」

「だが・・今のお前では己の身さえ護れぬわの?」

「わかった。だから、妖術をおさめろというのじゃな?」

微かに下を向いて、伽羅は笑った。

「賢い子じゃの。お前がほたえに狂うことがあっても、

伽羅は一向に構わんが邪鬼丸のように、死んではほしゅうない。

伽羅はお前を、死なせるために育てたでないにな」

「伽羅」

伽羅の思いに頭を垂れながら悪童丸は不思議な事を言う伽羅だと想った。

命をなくすようなほたえに、

身をまかせても死ななければ良いと言うようにきこえる。

「なんで、かまわぬのじゃ?」

伽羅にたずねてみた。が

「いずれ、わかる。其れが命じゃに・・」

「はあ?」

命をなくしかねないような空恐ろしいほたえが命であると言う?

「いずれ。わかる」

「う・・・ん」

伽羅もまさか、勢が鬼恋しさにほたえる相手が

悪童丸になるとは思ってもいない。

むろん。悪童丸がほたう相手がまた勢になるとも、

露一つ考え付くはずもなかった。

もし、半妖の身の上の二人であるという事に

もっと着目していれば

二人が同じ思いを

同じ身の上を重ねれる相手が、

受け止めれる相手が、

投げ渡せれる相手が

他にいないという事にきがついていたであろう。

特殊すぎる感情をかさねられる相手が実の姉弟であったとしても、

それでも、お互いに他に誰もありえないと、

きがつくべきだったのかもしれない。

そして、実の姉弟という事実を知っているのは悪童丸だけである。

勢はしらない。

知らせられない事実を前に悪童丸が、勢を突き放す事もできず、

事実を話す事もできず、いったいどうすればよい?

こんな懸念さえ伽羅は考え付かなかった。

考え付かぬほど姉弟であるという事実が伽羅には前提すぎたのである。



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