「伽羅。そうは言うが・・わしは誰に妖術をおしえてもらわばよいに?」
「あんずるな。伽羅がしっておる」
「そうか」
伽羅との離別がやってくる。
悪童丸は少し寂しげな顔になった。
「と、いうてもな。お前が十二になってからじゃに」
「まだ、いけぬのかや?」
妖術師は年に拘るものらしい。と、悪童丸は思った。
「いんやあ。鬼のおのこは親の元で一巡りを暮らして守護を得るに」
「ひとめぐり?とはなんぞや」
「子、牛、寅、卯、辰・・の十二とせで一巡りじゃに」
「ああ・・そういうことかや?」
「十二でひとり立ちしようという鬼の意気地に、
親の守護に、よせてやろうというかむはからいじゃと伝え聞いておる。ひととせでもはよう、親元を離れると
その年の守護はのうなるときくに・・」
「ずっとということか?」
「そうじゃに。たとえば、お前が子の歳を抜かしてしもうたら
十二とせごとの子の歳には守護がのうなって、
いらぬ厄災がふりかかるというに」
「ふううん。それで、十二年は親の元におるというのか」
伽羅は悪童丸を覗き込んだ。
もう少し伽羅と一緒におれる方が良いと言う、
心もとない子供心がうかんでいる。
「伽羅は親ではないが、まあ似たような者じゃで、守護はえられよう?」
「うん」
伽羅の思いはありがたい。
伽羅がおらねば悪童丸はとうに死んでおったろう。
其れを救われただけでもありがたいのに、
伽羅は自分をようおもうてくれおる。
「伽羅。わしを拾うてくれたのが、伽羅でよかったとおもうておるに」
「我も、おまえがおってくれて、よかったとおもうておる。
親でもないに、よう、しとうてくれて、伽羅は・・」
伽羅の声が涙につぶれそうになった。
「ああ。腹がすいたろう?今。何ぞつくってやるに。
囲炉裏に粗朶をくべや。伽羅が作るのをようみておきや」
伽羅はもうしばしの悪童丸との暮らしの間に教えられる事は、教えておいてやらねば成らないと思い直していた。
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