憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

―理周 ― 9 白蛇抄第12話

2022-09-04 12:41:34 | ―理周 ―   白蛇抄第12話

息をのんだのは艘謁である。
堂に姿を見せぬ晃鞍。
嫌な予感がした。
理周を女子としてみているのは、自分だけではない。
直感が理周の元へ走らせた。
扉を開けた艘謁の目に飛び込んできたのは、男と女の絡みだった。
晃鞍?
理周を抱いているのは晃鞍である事は既に判っている。
艘謁が思った事は、理周を抱く者がだれか?ではない。
理周が男として受け入れる相手が晃鞍なのかということである。
男はすぐさまに女の顔を見詰め一瞬のうちに判断を下す。
理周の悲しい諦念がその顔に浮かび上がっていた。
「晃鞍」
静かに呼ばれるまで晃鞍は
理周の住まいへの侵入者に気が付きもしなかった。
ゆっくりと、振り向いた晃鞍のまなざしには思いつめた物があった。
「晃鞍・・」
じっと、まなざしを艘謁にむける。
「これが、本心です」
だから、親と言えど、邪魔立てをするな。
獲物を手中に納めた蜘蛛は獲物を抱えても、にげまどうだろう。
ここで無理に理周を引き離せば蜘蛛は諦めるだろうが、
どこに行ってしまうやら。
理周を思う前に艘謁はやはり父である。
「晃鞍、あしきにはせぬ。理周と少しはなしをさせてくれぬか?」
男と女でしかない有様を露呈させている最中の二人を
認めるしかないだろう。
だが、
「薬師丸のところへは、やらぬ」
「わかっておる。理周はもう・・やれぬ」
艘謁の目にも理周の破瓜の血がおびただしかった。
哀れな娘は男の陵辱にたえきったまま、瞳を塞いでいた。
「ならば」
理周をくれ。
わが妻にせよ。
既に成りえた身体だけの事でなく、形をも晃鞍はのぞんだ。
切ない恋情がいたい。
若ければ己もこの姿であったろうと、思うと
艘謁は晃鞍は責める気にはならなかった。
「だから。理周と話させてくれぬか?」
若い牡はしばらく考えを手繰っていたが
「かならずや」
父が力添えをしてくれる。
それを信じると、理周の身体を離れた。
むこうに行けと言う父の目をうけると晃鞍は衣服を直し、外に歩み出た。
理周を我が物にした自信が晃鞍をうなづかせた。

晃鞍がそとにでると、艘謁は言葉を捜し黙り込んだ。
己の理周への心より先に息子が与えた始末をどうあやまればいい?
惑う艘謁が言葉を選ぶより先に理周がいった。
「判っておりました」
理周は微かに頷いた。
「貴方が私の居をここに移したときから
貴方こそが私を女としてみているのだと」
「理周?」
「私をここにおいてくださり育ててくださった貴方にかえすことは
せめて・・」
女として嘱望したい理周を堪えていた艘謁の男に返す事はひとつ。
「ば、ばかな」
うろたえる艘謁の手は己の心に反して理周の胸元に手を伸ばしていた。
「ぬぐうてください」
陵辱を与えた晃鞍を。
陵辱を与えさせた理周を。
男の痛みを知らされた悲しい理周を。
「わしは・・」
「よいのです」
愛と呼ぶには遠すぎるかもしれない。
父を知らない理周は痛みにもがく自分を慰めたがる艘謁の心に
父を求めたのかもしれない。
「ば・・ばかな」
「わかっております。貴方が一等最初に私の中の女を恐れた・・」
「理・・理周?」
父親のふりに徹せられる相手に理周が幸せを求めるなら、
艘謁は己を騙しきれたかもしれなかった。
「な・・なんで・・晃鞍なぞに」
一番、理周を取られたくない相手は晃鞍だった。
親と子。似て、非なる男がいる。
己に似た男で有らばこそ、赦せない。
「理周・・」
拭うてやる。
陵辱の痛みでしかないと言い切った晃鞍だからこそ、
ぬぐうてやる。
晃鞍を拭いきれるのは、この艘謁だという理周であらばこそ、
ぬぐうてやる。
「おそろしかったか?」
「はい」
理周のほほを伝う涙をぬぐってやると、艘謁は着物をはだけた。
己の一物は確かに理周の女を求めている。
けして、この心に順じてはならないと戒めたものは既に力をうせていた。
男はけして、欲望だけで動く者ではない。
が、悲しい女に愛を教える術はやはり・・。
「あ・・」
艘謁の与えた痛みに理周が声をもらした。
「理周・・こらえぬでよい」
いつも、いつも、何もかもにこらえた理周だ。
「悲しいというがよい。つらいというがよい。痛いといえばいい」
理周は首を振った。
「あまえるがよい。泣けばよい」
辛い痛みに耐える理周が、これを最後にでてゆく。
艘謁には判った。
艘謁にすがる女になれるなら理周は思い切り泣き叫び、
晃鞍の耳にも届くように、自分の女が艘謁に埋められる事を
あらわしてみせただろう。
だが、理周は堪えた。
堪えて艘謁を受け止めた。
「わしは理周を・・女にしてやれぬ」
だのに、艘謁の男に応える理周がいる。
抱かれているのはわしだ。
ぬぐわれているのはわしだ。
九つの理周に既に女を見た艘謁である。
十三の歳の初潮になし崩してはいけない理周の女を知った。
十八。わが手に抱いた理周はけして、自分の物にならない。
これは。晃鞍も同じなのだ。
だれをなぐさめるでなく、艘謁はただ、ただ、理周を抱いた。
返す手が別れに成る。
永遠の諦めを知らせる理周は自分が女である事を如実に語って見せた。
還せる術が諦めである。
けして、男は欲望だけで女子を抱く者でない。
同じ事を親と子はして見せた。
一方は理周をとらえるため。
一方は別れを惜しむため。
だが、けして、男は欲望だけで女子を抱かぬ。
いとしい。
この思いで何もかもを拭うてやりたかった。
最後の理周は悲しいほど綺麗だった。



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