図書室を出た途端、エドガーの腕にアランが腕をからませてきた。
「お見事・・・。それで、彼をどうする気さ?」
アランの腕を振りほどくことは簡単なことだったが、エドガーはそれをしなかった。
「君の獲物じゃない」
エドガーの返事にアランは声を殺して笑った。
「エドガー?語るに落ちたというのは、そういうことをいうんだよ」
笑いをエドガーの腕におしつけているアランにエドガーはいくぶんか、冷ややかだった。
「君が想ってることをいっただけさ」
アランの瞳がエドガーを捉えるために、アランはエドガーの前に立ちはだかった。
「そのとおりじゃないか?」
まっすぐエドガーの瞳を見つめてくるアランにエドガーは歩みを止めた。
エドガーになにか、言われる前に、アランは喋り始めた。
「そうじゃないか?
マチアスもそうだろ?」
何故、マチアスも獲物だと言うのか?エドガーの無言のままの疑問を読み取るとアランは続けた。
「ロビンを追いやったキリアンへの復讐。キリアンを同じ目にあわせたかっただけ。マチアスは君の復讐の生け贄だった。だから、獲物」
百歩譲って、アランのいう通りだとして、
「じゃあ・・・ジャニスは?」
尋ねたエドガーをアランは鼻で笑った。
「へえぇ、ジャニスっていう名前なんだ。僕はてっきり、ロビンという名前かと想っていた」
小さな平手打ちが飛び、アランが頬をおさえた。
「図星を指されたからって・・今度は暴力沙汰かい?
君はわがまますぎるよ。何でも自分の思い通りにならなきゃ、きがすまない。
ロビンを想う君が残されたものの悲しみが判らない筈ないじゃないか。
キリアンだって、充分、苦しんでいたんだ。
だのに、また、同じ事を繰り返す気なのか?」
アランの言葉にうなだれるかと想ったエドガーがアランの首筋をつかんだ。
「君が残されるものの気持ちをわかる人間なら、僕と一緒にこなかったんじゃないか?」
身体の弱かった母親がアランが消え去って、どんなに悲しんだか。
エドガーはそれを言う。
「だったら、だったら、僕を誘わなきゃ良かったんだ。
僕をヴァンパイヤにしなきゃよかったんだ」
エドガーの瞳に深い悲しみが浮かんだ。
「そのとおりだね」
「そうだよ」
「だけど、もう、とりかえしがつかない。君はヴァンパイヤとして、存在している。それが嫌なら、銀の銃で自殺でもするしかない」
「エドガー。僕がいうのは、そんなことじゃない。もう、誰かを仲間にひきいれるのは、やめるんだ」
アランの言葉にエドガーはくっと上をむいた。
それは、涙を堪えてるようにも
なにかを決心しているようにも、
アランの声など聞こうとしてないようにもみえた。
「エドガー?」
「アラン。いこう。もう、授業がはじまる」
一言言い残すとエドガーが教室に向かった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます