憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

ロビンの瞳・・8(萩尾望都 ポーの一族より)

2022-12-12 13:10:43 | ロビンの瞳(ポーの一族より)

アランの足取りより先を歩いていたエドガーがアランを待った。

「どうしたのさ?」

アランの足取りの重さをエドガーは言う。

「ジャニスを仲間に入れなかったって、言ったね・・」

軽くうなだれて、エドガーはアランの言葉にうなずいた。

「それで・・足取りが悪くなった?って、こと?なんでさ?」

「君は・・・結局・・ジャニスにロビンを重ねようとしていただけ・・ってことになるかな・・」

エドガーを君と呼ぶ時、アランは、胸の中におしかくしたものを開きだそうする。

「なにが、いいたい?」

エドガーの瞳に険悪な光が浮かぶ。

アランはその冷たい光にひるむことなく、言葉を続けていた。

「いい加減にあきらめたら?ロビンは死んだんだ。

ーおにいちゃんたち、また、逢える?-

君はその言葉に呪縛されているんだ。

それは、君がメリーベルを護れなかった・・その・・代償にしかすぎないって・・」

アランの頬へエドガーの平手打ちを覚悟したまま、アランはかすかに、自分の頬を手で覆った。

それは、エドガーのふりあげた手をとめさせるに充分なアランの挙動だった。

ふりあげた手を自分の左手で押さえると、右手は力なくさがった。

「ぶちゃ・・しないよ」

「かまわないよ・・」

エドガーの哀しい傷をつつきまわす当然の代償だとアランは言う。

エドガーの瞳から険悪な光が消えると、アランをみつめる瞳に蒼い雫がうるんでみえた。

「確かにアランのいうとおりさ」

素直にアランの言い分を認めたエドガーだったけど、アランは、まだ、口にふくんでいるものをはきだしはじめていた。

「なんで・・・。キリアンに本当のことをおしえてやらないのさ・・」

「・・・・・」

「マチアスを何故、仲間にひきいれようとしたのか、僕はおぼろげには、わかっているさ。

だけど、マチアスじゃ、因子をおくりこむほどの能力はない。

ましてや、めざめたばかりのマチアスには、到底無理だ。

この僕が、まだ他の人間を仲間にしたてあげられないのと同じようにね。

だから、キリアンが因子を恐れる必要なんかない。

だのに、君は、キリアンの不安を逆手にとって、キリアンを追い詰めている。

キリアンも自己暗示にかかって、神経を病んでるんだろう。

成長が止まっているように見えるけど、成長していないわけじゃない。

なのに、君はなぜ、キリアンをおいつめる?

僕は、それが、いけないとか、そんなことをいってるんじゃないんだ・・。

なんで?

それが、判らないだけ・・」

エドガーは今一度、空を仰いだ。

「結局、君はキリアンの思いの中に住みたかっただけじゃないか・・」

「アラン・・」

「いずれ、死んでしまう人間でも、関わりをもっちゃいけない人間でも、せめて、心の中に刻み付けられたいって、君が望んだんだ」

「・・・・・・」

「本当なら、キリアンこそ、仲間にひきこみたかったんだろう。だけど、それをしたら、キリアンは、間違いなく、銃で頭をぶちぬくさ。僕らを、ヴァンパイアを否定するキリアンにこそ、君は君を認められたかった。慕われたかった。そういうことさ」

「・・・・・・・・」

「ロビンを逝かせた復讐?マチアスを散らせた仕返し?

そうじゃないさ。

護ってやれなかったメリーベルへの哀悼そのまま、同じ形で、君はキリアンを護らない形で扱うことが、君の愛情表現さ・・。

キリアンが、人でないものを否定する。自分がそうであってもね。

君はそこまで、はねつけられたことに、自分の存在価値が希薄になったんだ。

だから、マチアスを仲間にひきいれようとした。

はねつけない。慕ってくれる。

マチアスを殺したのは、エドガー、君でしかないんだ。

キリアンへのゆがんだ反抗でしかない・・」

エドガーの重たい口がやっと、開かれた。

「百歩譲って、僕がキリアンへ異常でゆがんだ関心をもっていたとして、

それが、どうだと言う?」

「別に・・。君がどう思おうと、キリアンは僕たちをおいかけまわすさ。

キリアンが事実をしったところで、やっぱり、それはかわらない。

だけどね・・・」

「だけど・・?なにさ?」

「現実がどんな形にしろ、キリアンの心の中に住んでいるのは、事実だろ?」

エドガーが薄く笑った。

「確かにね。キリアンの因子より、根深いかも・・」

アランは、くすくすとこぼれおちる、エドガーの笑いをききながす。

「現状がどんな形であっても、君はキリアンの心の中に住んでいる・・。それを君はそのままに受け止めている。なぜ、キリアンに対して、そうできるわけ?」

アランの言う意味合いが掴み取れず、エドガーの瞳が宙を切った。

「判りやすく言おう。キリアンにはそうできるのに、何故、ロビン・・には、それができないの?

何故、ロビンの代わりを求めようとするの?

ジャニスを仲間にしなかったのもそうだろう?

彼じゃ、ロビンの代わりにならない。

当たり前のことを、君は追い求め、その結論に打ちのめされる。

いい加減にあきらめなきゃ。

ロビンは君の心の中に住んでいるんだ。

代わりなんか、居るわけがないんだ・・」

言いたいことを言い終えると、アランはエドガーの返事を待たずに足早に駅舎の中にはいりこんでいった。

駅舎に先にはいったアランの横をすりぬけざまにエドガーはつぶやいた。

「だけど、僕らが生きていれば、キリアンも生きていられる。そういうこと」

エドガーの言うとおりだろう。

二人を撃ち抜いてしまえば、キリアンは自分の頭に銃を押し付ける。

よしんば、アランの言うように、因子を恐れる必要がないといったところで、

どこまで、信じるだろう。

マチアスがキリアンを襲ったのを、キリアンは仲間にひきいれようとしたんだと、思いたがってるに違いない。

マチアスが、キリアンを獲物にするとは、信じたくないに決まっている。

そして、何よりも、そうであるのなら、マチアスは「醜悪な魔物」として消滅したことになる。

キリアンはそれを一番望んじゃいない。

心優しき庭の番人、マチアスは、キリアンと共に生きたかったんだと、キリアンは思いたいんだ。

だけど、キリアンが、人で無いものになりたくなかった。

マチアスの心に答えてやれなかったキリアンは、あえて、「因子」を信じた。

せめても、マチアスの心に添うために・・。

ふぅとため息をつくとエドガーはアランに告げた。



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