憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

笑う女・・・1

2022-08-19 20:59:56 | 笑う女

恵美子。
年齢は19になろうか。
うすらわらいをうかべるような、
口元と
焦点のあわない瞳は
精神障害者特有のものだろう。

 

俺達は
なにもできない
何の意志表示もしない恵美子の
笑いをうかべたような口元から、
恵美子を
笑子と呼んでいた。

笑子がこの施設に預けられる事に成ったのは
笑子が13になる秋の頃だった。

その春に施設に勤務しだした俺達が笑子の専属になったのは、
笑子の抱える環境と症状によった。

もちろん、所長は新規従業員の経験をつませるためでもあったろう。

笑子は此処にきた当初、
女性介護者の手に委託された。

だが、笑子は女性介護員に対して
異常な程の恐怖しか見せなかった。

直ちに笑子を此処に連れてきた父親に
笑子の今までの環境を聴くことになった。

父親は笑子の反応を伝え聞くと
「やはり・・・」
と、この事態を推測していたことをにおわせた。

思い当たることをすべて話してもらわないと
我々も充分な介護は出来ないのですよ。

所長の言葉に父親は
事実を語り始めた。

笑子・・いや、恵美子の父親が話したことである。

話は恵美子の母親。
つまり、恵美子の父親の妻のことから始まった。
父親と恵美子の母親は
いとこ同士であったという。
ところが、
いとこ同士であるというものの、
二人の年齢はひどく離れていた。

年の離れた夫婦に授かった子供が
恵美子であったのだが、
恵美子の異常がわかると、
妻の態度は急変したという。

だが、それも、むりのないことで、
男は15以上、年下のいとこと
無理やりに結婚したせいだという。

男は無理やり恵美子の母親に肉体関係をしいた。
そして、
ぬきさしならぬ、結果。
恵美子をみごもった。

これにより、男は自分の望どおりに
美しい、いとこを
妻に迎えることができた。

だが、生まれてきた子供は
重度の精神薄弱児であった。

「妻は望まぬ相手との結婚も、
子供への愛情にすりかえていきていこうと、
決意していたのです」

で、あるのに、生まれてきた子供は・・・。

「私という男にしばられ、
そして、恵美子というわが子も、
妻を一生しばりつけるでしょう。
ひとりでは、なにひとつできない恵美子。
其の面倒をみるだけが、
妻の一生になってしまう」

それでも、
まだ、恵美子が、幼いうちは、よかった。
恵美子が十歳をすぎるころになると、
妻のか弱い腕では、
面倒をみきれなくなる、
身体のおもさという発育がともなってきて、

「妻の精神も限界にたっしていたのです」

のぞまぬ男の暴行のせいで、
無理やり、子供をはらまされ、
その子供も、自分をがんじがらめにする。

「それでも、妻は恵美子への罪悪感で
離婚を決意できぬまま、
てにおえない状態をこらえていたのです」

無理をすれば、どこかに抑圧のふきだし口ができる。

「妻は恵美子が初潮をむかえたころから、
どうしようもない、惨めさにとりつかれてしまったのです」

狂ったような、およそ、何の役にも立たない「女」の
経血の始末をする。
その作業は奴隷のように惨めだったことだろう。

「その惨めさから逃れるために、
妻は恵美子につらく、あたることしかできなかったのです」

つまり、虐待があったという。

「私さえ、彼女と無理やり、結婚しなければ・・・」

恵美子の母親の後悔ははれることもなく、
恵美子の存在を切り離す事が出来ないばかりに
異常な精神消化をくりかえすだけになっていった。

そして、
とうとう、恵美子は母親をおそれるようになった。
いう事をきかない。
なつかない。
すなおでない。
面倒をみてやってるのに、ありがたみさえ感じてない。
いろいろな理由が母親の精神をなみだたせ、
恵美子を折檻する。

悪循環でしかない。
男は妻と恵美子の異常な状態に気がつくと
すべてをあきらめたという。

「妻をこのまま、しばりつけておくことは、
彼女の人生をつぶすだけにしかならない」

開放・・・。
離婚という名の開放を妻に与えると
男はひとりでは、
生きていられない自分と
恵美子をかんがえたという。

金にあかせ、介護員をやとって恵美子の世話をまかせていた。
そうするうちに、男はふたたび、年の離れた女性と
恋におちた。

「彼女に妻の二の舞をふませたくない。
私は恵美子を施設にあずけることにきめたのです」

つまり、
恵美子はここにすてられたのだ。
そして、
恵美子が女性介護員をおそれるのは、
恵美子の母親による、虐待のせいだったのだ。



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