憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

竈の神 白蛇抄第18話 まとめ2

2022-11-28 01:04:13 | 竈の神  白蛇抄第18話

白銅と法祥は、京にむかう。

おそらく、舟で大津ちかくまでいくだろう。

旅支度も手慣れたもので、ささと、整えると

銭をくれと、白銅が手を差し出す。

戸袋にあるといいおくと

澄明もまた、家を出た。

行き先はすでに決まっている。

九十九善嬉 白虎を祀る善嬉を尋ねる。

銀狼を手繰る事は出来ないと考えてはいたが

法祥に答えているうちに

見えてきたことがある。

それを、まず、善嬉に尋ね合わせる。

長浜の中心に家を構えたが、良かったと思う。

四神を尋ぬるに、便利である。

端から端まで、歩かなくてよかった。

頭の中で、善嬉に尋ね合わせることをさらえなおしながら

半刻もあるくと、

善嬉の屋敷が見えた。

さっするものがあったとみえ

善嬉が、表でつったって、待っていた。

「女子の足は、亀のようじゃ」

待ちくたびれていたと、ひとくさり、文句をいわれ

家にはいれと促された。

まずは、白虎に礼をする。

祭壇の向こうに白虎の掛け軸がある。

見事な白虎である。

当然、善嬉が描いたものである。

父、白河正眼も、同じく 鳳凰を描いたが

いまひとつ、生気に欠けていた。

「善嬉は・・・・」

言葉が出てこない。画才がありますねは

逆に善嬉をこけにする言葉になる。

「見事です。そこに居るかのようです」

「居るよ」

と、善嬉は答え

「おまえも、そろそろ、鳳凰を描かねばなるまい」

と、謎をかける。

長浜城城主 主膳においては

四方の守りは、

澄明・白銅・善嬉・不知火

と、なっているが

守家では

澄明の父 正眼 鳳凰 

白銅の父 雅  青龍

善嬉  白虎 

不知火  玄武

と、なっている。

澄明(ひのえ)と 白銅 の婚により

守家の在者と長浜城主の認めとが、変わってしまっている。

こののち、澄明が守家の在者になるだろう。

白銅もまた、同じ。

後を継ぐ者がうまれ、各々の守をまかせるとしても

澄明が鳳凰の儀を、伝えおく必要が有る。

「正眼ももう五十になるかの?

後を継ぐ者に守家をまかせるにしても

その子が二十。正眼は七十。

まさか、そこから、正眼に、鳳凰の儀を教えさす

は、なかろう。

守家に差し出すには差し出せるようにしておくのが筋であろう」

確かにその通りでは有る。

「善嬉こそ、白虎の、守家。後をどうするつもりです」

澄明の問に、なにおか答えると思った善嬉が

ひどく狼狽えた。

「そ・・そのことは、良い。

それよりも、澄明、なにか、仔細があるのだろう」

澄明が善嬉を尋ね来たことを言う。

これ以上、善嬉を、問い詰めると

善嬉も答えに窮する心情があるのだろうと

澄明も、「何か、仔細」を、話すことにした。

「この前の銀狼、いえ、いづなの件は解決したのですが

どうやら、新しい銀狼が、でてきたらしいのです」

首領格がいなくなれば、

次の者が台頭してくるのは、自明のことよ、と、善嬉が頷く。

「その銀狼の出現に気づけずにいたところに

法祥と竈の神が、銀狼が出てきたと伝えに来たのです」

法祥は、心中の片割れだった伊予と木乃伊の関藤兵馬に八十姫と重臣孝輔をさらえて、成仏させている。

あの水枯れの騒ぎのあと、八十姫らの塚には、なんの存念もなくなり

善嬉は、おおかたの察しと少しの読みで、法祥の存在は把握していた。

ーだが、竈の神とは・・・ー

それで、浮かぶことはひとまず、置いておき

もう少し、澄明の話を黙って聞くことにした。

「法祥は、都で犬神に憑かれた男をみた、と、伝えに来ました」

それも、法祥自体が、憑かれた通り越しがあるゆえに関わるのだろう、と

善嬉も考え付く。

ーが、やはり 竈の神とは・・・ー

仔細が判らぬでは、考えもつけぬと、善嬉は、まだ、黙っている。

「法祥には、因がある。それは、考え付くのですが

なぜ、竈の神が・・・

天帝・・八代神ですが、そこに、人々の行状を伝える役を担っている

と、巷では言われているのです。

それで、私の銀狼に対する行状を閻魔帳に書き記すということかと思ったのですが、

腑に落ちない。と、思っていたら

竈の神の言い分からは、

銀狼から、一族を救い出せという、八代神の差配があると思えるのです。」

善嬉の顔つきが少し変わった。

と、見えたとき、やっと、口を開いた。

「残念ながら、八代神までは、よめぬぞ」

「判っております。あのようなものを読んだら

善嬉があぶない」

「いや、それは覚悟の上としても、読める相手ではない、と、いうことだ」

八代神の時空の幅も、差配する世界も広すぎる。

「はい。そういうことでなく、

法祥に因があるのに

八代神と竈の神に、なんの因が、あるのだろうかと」

情けでは、なかなか動けぬ惟神の「掟」がある。

それを、情けで変えてしまっては

条理と自然の摂理が狂ってしまう。

ーいったい、なぜ?  なんの因があるというのか?ー

惑いながらやってきたのは、善嬉なら何か知っているかもしれないと思ったからだ・・

が・・・・・

「善嬉?」

呆けた顔の善嬉が澄明の目に留まった。

「あ、いや、おまえ、知らなんだか・・」

なにを知らぬか、これから聞くしかないが

やはり、善嬉は、なにおか、知っている。

澄明は再び、膝をただした。

「竈の神は、八代神の娘婿だという。

ある時、竈の神は、八代神の怒りにふれて、

地上に落とされた。

なにをしでかしたのか判らぬが、

それから、竈の神となり、

人間の行状を八代神に伝えるように成った。

と、いうことだ」

それが、なぜ、銀狼との因になるというのか?

「銀狼が、なぜ、ある一族のみに、憑いているのか、

それは、手繰れぬ。

だが、銀狼からすれば伴侶といっても良い相手を

結果的に、堕としてしまう。

これは、竈の神もまた、同じではないか?

八代神の娘 竈の神の妻もまた、共に 堕ちてしまっておろう」

善嬉は、もうひとつ、澄明に伝えた。

「いづなが銀狼であった時も、同じであろう。

山の神の娘が、沖の白石に姿を変えてしまったのも

たつ子を、堕としたということであろう?」

それは、つまり

「竈の神が、銀狼の所業を止めることが出来れば

堕ちた 八代神の娘を 引き上げられるということですか?」

銀狼をとめたら、八代神の娘を引き上げられる?

そんなことが、できるのだろうか?と、澄明は思う。

「おまえが、それをいうのはおかしかろう?

おまえ、鼎を救うた折、禁術をつこうたではないか」

鼎が餓鬼に堕ちた。餓鬼からを鼎を救うために、

澄明は、禁術である同化の術で

鼎におきたいっさいを、餓鬼に堕ちる事になった山童の凌辱を

魂の時の流れをさかのぼり、澄明が一身一魂で、引き受けた。

鼎は記憶も、魂に刻まれた出来事も、その身に起きたことも

無垢のものになり、餓鬼の姿から、元の鼎に戻っている。

「そ・・それでは、

同化の術ににたような何らかの方法で

銀狼の所業を変転できれば

八代神の娘も、引き上げられる?」

澄明の問いに、善嬉は、首をかしげるしかなかった。

「あくまでも、そうかもしれない、と、しか言えない。

ただ、こうやって、

お前の話を知ってみると、もうひとつ考え付くことがある」

「それは、いったい?」

「竈の神の、そも 元の神の名は

建御雷神 である、と、いう話もある」

「建御雷神と・・・」

「おそらく、太古、人々は 

雷などで起きた火を、頂戴したのだろう。

その火を起こしてくれた建御雷神を

我が住処の火の置き所、竈に祀ったのではなかろうか」

「火の護り神ということですね」

「そこで、もうひとつ思うことがある」

善嬉は、あくまでも、仮ことであると付け足した。

 

*******資料として*****

建御雷之男神、武甕槌神、建布都神、豊布都神、建雷命 等

名義は「甕(ミカ)」、「津(ヅ)」、「霊(チ)」、つまり「カメの神霊」とする説、「建」は「勇猛な」、「御」は「神秘的な」、「雷」は「厳つ霊(雷)」の意で、名義は「勇猛な、神秘的な雷の男」とする説がある。また雷神説に賛同しつつも、「甕」から卜占の神の性格を持つとする説がある

甕(かめ)  底部からゆるやかに湾曲もしくは屈曲して立ち上がり、わずかに肩部を有するか、そのまま開いた状態で口縁部に至る器形で、一般的に貯蔵などに使用されるため、必ずしも人間が一人で運搬できるとは限らないような、また運搬することを目的としない大形の器を含めて呼称する。須恵器の甕には、口径あるいは腹径の2/3未満のものが含まれているなど、肩部から頸部への湾曲状態によっては壺と区別の困難な製品もある。しかし、概ね長谷部の定義どおり、甕は、大量の液体などを保管、貯蔵したり、藍甕にみられるように多量の液体を必要とする作業に用いられる腹部に対する口径の比が大きい容器で土器・陶磁器であるもののことをいう。

日本では、弥生時代中期に北九州、山口県地方を中心に埋葬のために居たいを納める容器として甕が使用され、甕棺として知られる。

このためか、竈の神の出自話には、竈に身を投げて焼死した男 それを竈の神として

哀悼した、という話も多くある。

 

「建御雷神という、雷神から

やはり、いづなを考えてしまうのだが・・・

考えてみると、奇妙だと思える」

なにが、奇妙だというのだろう。

善嬉がしゃべりだすのをじっと待つ澄明に成る。

「奇妙だと思うのは、

いづなが 銀狼に転生していながら、

なぜ、元々の一族に、憑かなかったか、と、いうことだ」

「それは、雷神の呪詛が・・あったせい・・あ?」

澄明がなにおかに気付く。

「だろう?雷神の呪詛があったとて

元々の一族に憑く、この定めが覆されるのは

なにゆえだろう?」

「それは、いづなが、神格で

神相手に憑くしかなかったとするなら・・・」

「銀狼も、犬神という、神格でありながら、

人間に憑く」

つまり、それは、

前世の時にかもしれない、なにかの呪詛を受け

人間、その一族にしか「憑けなくなっている」と、取れる。

仮にそうであれば

いづなだった銀狼は、雷神という神の呪詛をうけた。

銀狼格になった、今の、銀狼は、元通り

ある一族に憑りついていると思える。

すなわち、

「いづなだった銀狼は、雷神という神の呪詛をうけた。」

これをそのまま、当てはめれば

「もともとの銀狼は ある一族という人間の呪詛を受けた」

銀狼が人間を差配しているのでなく

人間の方が 銀狼を呪縛している?

ある一族の呪詛により、一族に憑くしかなくなっている、と、いうことか?

澄明に浮かぶことがある。

楠と妖狐・・・

*沼の神  参照*

人間 次三郎と結ばれ子まで成した楠だったが、

妖狐 九尾狐により、明かされた。

妖狐が転生し、やっと見つけた次三郎は

楠と夫婦になっていた。

楠が人間と結ばれる定めをもっていたのでなく

次三郎が 異種婚を結ぶ定めをもっており

楠は、次三郎の因縁に引きずり込まれてしまった。

と、言うことになる。

 

銀狼も 楠と同じ、引きずり込まれた側かもしれないと

善嬉は言いたいのだろう。

「もしも、そうならば・・・

善嬉・・銀狼を手繰れますか?」

善嬉は、再び、首を振った。

「なぜか、判らない。いづなの銀狼の時は読めた。

だが、こやつは、読めぬ」

そこに、竈の神や建御雷神と、何らかのかかわりがあるせいかもしれない。

竈の神は、澄明たちが、いづな(銀狼)を救い出したこと

銀狼(いづな)がたつ子に憑りついたまましておかなかったことを

「人間はさかしい」

と、責めた。

銀狼が、一族に憑りつかずに済むようにしていたのは

竈の神あるいは、建御雷神の差配だったのかもしれない。

ーそれならば、いづなという雷獣を使うことができるー

 

銀狼と一族

そして、

竈の神と八代神

いったい、なにがあったと、いうのだろう。

都に赴いた、白銅と法祥

なにか、解き明かす鉤を掴んでくれればと

澄明は祈りつつ

善嬉との話をつたうべく、式神を飛ばした。

 

白銅と法祥である。

長浜の浜で舟を一艘借り受けた。

長浜の青龍を護る陰陽師、白銅であれば

と、舟こそ貸してくれたが、

いつ帰れるか判らないと告げたため

漕ぎ手を断られた。

漁師に任せたほうが、よほど早いのだが、

無理をいえぬと

二人で交代しながら、魯を漕ぐことにした。

のは、良いのだが・・・

白銅は、竹生島に草なぎの剣を探し求めたときに

ほぼ、一人で漕いだ。

不知火は、

「慣れておけ」と、そしらぬ顔だったが、

今、まさに、今、にして思えば、「慣れた」ものになっていた。

が、法祥。

「漕いだことはありません」

と、白銅を頼りにする様子に白銅が呆れた。

さては、不知火もこんな思いだったかと得心するが、

もっと、得心する。

いつ、役にたつか判らぬから、覚えておけ

体に覚えさせれば、

不意の時に役立つ・・・

だから、

まめができた。肩が痛い。と

泣き言をいう法祥は、ずっと、長浜から

「慣れておけ」と白銅に言われ続け魯を漕いでいる。

そろそろ、沖の白石・・

雷神が砕け散らし、残骸も残っていないかもしれない。

と、目をこらせば

かすかに、沖の白石だったものが、水面につきでていた。

ー見事に砕いてしまったものだー

感心してみていたが

沖の白石になかなかちかづかない。

どうやら

法祥の腕も限界に近付いてきた様だった。

そろそろ、魯を代わってやろうと声をかけようとしたその時、

「や?」

澄明が飛ばした式神が、舟板の上に額づいた。

式神に待てと制し

「法祥、もうじきに沖の白石が見えるだろう。

とりあえず、そこまで船を寄せて、もやっておけ。

澄明から使いじゃ。

話を聞いたら、魯を代わろう」

こころえたもので、式神は、白銅の許しをじっと待っている。

「聞かせてもらおうか」

の、白銅の言葉で式神は澄明からの伝え事を話し始めた。

 

気になるのは法祥である。

澄明からの使いは式神だろうと察しはつくが

姿は見えず、声も聞こえず、気配も判らない。

なにを伝えられたのか気になるが、

まずは、沖の白石なるものに、舟を寄せるしかない。

白銅の事だから、必要であれば話してくれるだろうし

法祥とて、必要の無い事を聞きただすこともない。

痛み出した腕にもう一仕事、勢を出せ、と

魯を漕ぎ続けると

ーえ?あれだろうか?ー

と、思う沖の白石なるものが、見えてきた。

かすかに、水上にとがった白い石が見える。

おせじにもー沖の白石ーなどという名前で呼べるものではない。

だが、もやいをかけるのちょうど良い、でっぱりである。

白石まで、もう一息と、腕をなだめ、己をはげまし

ようように、たどり着くと、もやいをかけた。

舟板にへたりと座り込みながら

白銅をみていた。

 

やがて、聞き終えた白銅が

「その石は、銀狼から逃れたたつ子が白石に身を換えた。

そのたつ子を救い出すために、銀狼が白石に成り代わり

さらに、雷神がいづなを救い出すため

銀狼ごと、白石を打ち砕いた。

そのため、そのようなみすぼらしい白石になってしまったのだ」

白石がこのように小さいのは判ったが

たつ子だの 銀狼だの いづなだの 雷神だの がどういうことで

どうなっているのか

さっぱり要領得ない法祥である。

判るのは、銀狼 すなわち、犬神という存在だけで

都の口入屋の男に憑いている犬神とは、違う物らしい、ということだけだった。

 

白石からもやいを解くと、

いよいよ、白銅が舟をこぎ進めていく。

座り込んだまま、白銅の魯さばきを見つめる法祥になる。

「手慣れたものですね」

「いや、わしは、これで二度めじゃ」

勘が良いのか、一度めでよほど漕いだか

二度めとは思えぬ魯さばきと思う。

自分と比べるからそうであって

漁師と比べれば 違うのかもしれない。

「必死だったからの」

必死で漕がねばならなかったという故は

尋ねないことにして、法祥なりに思うことがある。

ー私は、必死ではないなー

都でみた男に犬神が憑いている。

哀れと思うが、自分ではどうにもできぬ。

白銅と澄明ならなんとかできるかもしれないと

安気に伝えておくことにしたが

その気持ちの後ろこそ、必死ではない。

見てしまった以上、素知らぬ顔は疚しい。

その疚しさに負けて長浜まで出かけて行ったが

自分が関わることはないと高をくくっていた。

直ぐに、二人が解決するだろうとも思っていた。

「どうも、おまえは、憑き物に縁があるようだが

なぜ、銀狼がみえたのだろうな?」

白銅の問いが、よく判らない法祥である。

陰陽師に読めぬものが見えたのが、

不可思議であるのだろうか?

「だいたい、今までのおまえは、死人の憑き物ばかり関わっていただろう?

こたびは、犬神と言えど 神だ。

人の亡霊というのとは違う」

白銅の判らないということは、判ったが

考えてみれば、なぜ、犬神がみえたのだろう。

「澄明さんが、因があると言っていたのは、

人の亡霊に憑かれる、いう事ですよね」

それで、憑かれる者 憑く者に関わってしまうということになる。

白銅が言うのは

憑かれる者は、人であるが

憑くものが、神であるのに、関わるのが妙だというのだろう。

「それは・・・もしかして・・」

法祥が言いまどう。

魯を漕ぐ手を休めず、白銅は法祥と話をしている。

「坊主が惑うて、どうする」

言えば良いだけであるが

口にするのは、おこがましくある。

「腹にとめておくと、次にでてくるものが、みえぬぞ」

なにがでてくるかは判らぬが、ひとつの思いで

次の考えに、蓋をされてしまう。

「今、思うておることなど、全てから見れば

ほんの一角でしかない。

おまえは、もっと、自分を知りとうないか?」

まだまだ、自分ひとつ、わかっておらぬものが、

犬神を見るなど、まさに妙な事である。

白銅の言葉に、おこがましいと思いながら

そうであってほしいと思ってもいると気が付く。

そのおこがましい思いをどけてしまわなければ

見えてこないのだろう、と、話し始めた。

「霊が見えるものは、霊と同じ域にいると聞きます。

神が見えるということは、もしかして

神と同じ域にいるかもしれない、と、考えました」

「なるほどの・・」

法祥の言葉の裏を察すると、

白銅の考えを言うに忍びなくも有り

言っておかねば、幸せな法祥のままになる。

「神と同じ域というてもな

よこしまな心の神と同じ域であってはならぬ」

言い放ったあと、じっと法祥をみる。

白銅が言い辛かっただけのことはある。

法祥の顔色が暗く沈んだ。

が、先の「どけるべき思い」という言葉を

法祥は解していた。

「犬神に関わる因になる邪(よこしま)な思いがある。

そういうことですね」

思いもよらぬ己の負をしらされるのは、辛いことだが

知ってしまえば

どういう負であるのか、気にかかる。

ましてや、それゆえに犬神との因ができるのだから

なおさら、気にかかる。

「私は いったいどういう邪な心をもっているのでしょう?」

尋ねられた白銅は、かすかに首を振ると

「自分で考えてみないか」

と、答えた。

 

 



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