憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

風薫る丘の麓で・・9

2022-12-19 10:41:25 | 風薫る丘の麓で

看護師の言葉が頭の中にくっきり、うかびあがってきていた。

「知らない方が良いこともある」
僕はその言葉にうちのめされるまいと思った。

僕は一つの謎をといて、新たな謎をてにいれてしまったわけだ。

母さんがでていった理由、それが解明されて、
本当の父親がだれであるか、謎になった。

それも、解いてはいけない封印がかかっている。

僕は父さんが叔父だとしっても不思議とショックはなかった。
今の母さんが本当の母親でなくても、やっぱり、僕には母親であるように
父さんは父さんだった。

それに、もしかしたら、たとえば、全然血のつながりの養子だっったってことだってありえたかもしれないと、考えたら、
父さんとは血のつながりがある。
母さんが伯母で父さんが父さんだったのが、
母さんが母さんで父さんが叔父だっただけで、
同じボックスのなかで、位置がいれかわっただけで、
やっぱり、ボックスは同じ座標軸にある。
そんな気がしたんだろう。

「冴子はもう、家にも戻らず・・・。戻れずというのが本当かな。
父さんも冴子をかばったせいもあって、実家や親戚とも縁遠くなってたし・・」
親戚や、祖父母とは数えるほどしかあったことの無いのは、遠い土地にすんでいるせいばかりでもなかったということだった。
「故郷を離れて大学入って、就職して、早いうちに家を購入してしまったことも、おじいさんの癇にさわっていたんだろう。その家に冴子をかくまったんだから、父さんにも腹を立ててる」
父さんはすこし、いい迷った。
「それに・・うん・・親戚とかね・・お前にいらぬことをいいやしないかってね。それを考えたら、付き合いをさけてたしね・・」
うん。と、うなずいた僕の瞳から涙がおちていた。
かあさんは孤立無援で父さんだけが唯一の味方だったんだ。
それだけでも、僕にとって、そここそが、本当の父親の姿に思えた。

そうやって、僕を護ってくれた人を父親とよばずして、
どこでどうなったか判らないような本当の父親をさがすような馬鹿にはなるまい。
そして、僕はそれも、また、父さんの奥さんである母さんにも言えることだと思った。

「父さん、母さんには、申し訳ないけど、母さんには父さんも弟や妹がいる。・・・やっぱり僕は母さんがひとりぼっちだと思うと・・」

「判った」
父さんは椅子の横においた鞄をもちあげると、中を改めだした。
そして、一冊の通帳を僕に渡した。

「なに?」
「冴子がな・・ずっと送ってきた金だ。服の一つ、おやつの少しでもかってやりたかたんだろう。それを使わずずっと、おいといたんだ」
一・十・百・千・・・7884321・・えん?
今月も送金された金額がはいっていた。30000・・・。ページをひらいていくと、毎月30000ずつ、ボーナス時期だろう、5万とか7万とか・・。
はしたがあるのは利息がはいったせいだろう・・。
たいした給料なんかもらってないだろうに・・。
「ずっと?・・・」
あたりまえのことをききながら、当たり前だと思う。

(3万×12ヶ月×16年?)プラス(ボーナス?)
800万ちかい金がいっぺんにできるわけがない。

「それを頭金にして、家でもかって、冴子と一緒にくらしてもらえないか、いつか、そう話そうと思っていた」

僕は・・。
母さんからすてられたわけでもなく、みすてられたわけでもなく、
母さんは・・・いつも僕のことを想っていてくれたんだ・・。

「父さん、僕は、看護師か、救急救命士になりたいんだ。
だから、その・・この町の学校にいって、資格をとろうって、想う。
それで、母さんが良いといってくれるなら、専門学校にはいったら、母さんと一緒にくらして、母さんのところから、学校へ通いたいって・・」

とうさんはうんうんとうなづいてくれていた。

「それまで、もうしばらく、一緒にくらさせてください」
僕のお願いに父さんが指先で自分の涙をふいていた。

「退院したら、冴子にあいにいこうな」
父さんは、いいながら、名刺をひっぱりだすと裏に
母さんの携帯番号をかいてくれた。

病院内は携帯禁止で僕もすっかり携帯からとおざかっていたけど、
退院したら、母さんと連絡がとれるようになる。

父さんの渡してくれた名刺を僕はすぐに見た。
父さんがそらでおぼえている番号がきになった。

 

090・1152・0904

090、いいこに、おくれし・・

いいこに、おくらし・・。

良い子にお暮らし・・・・。

父さんもそうおぼえたのかもしれない。

偶然なのか、わざと番号をとったのか、わからないけど、

それよりも、まだ、聞かなきゃ成らないことはあった。

「かあさん・・どこにすんでるのかな?」

父さんはやっぱり、少し困った顔になる。

「お前が・・事故をおこした・・・丘の麓に
アパートをかりて・・すんでる」

僕は・・・。

僕は・・・・。

堪え切れず泣いた。

あの丘はいつも、僕を包み込んでくれていた。

あの場所にいくと、不思議と心が安らいだ。

「かあ・・さんは、僕をみてたかもしれないってこと?」

うんとうなづいていた。

「冴子が救急車をよんだんだよ」

ぽたぽた、涙が落ちてくるのは
きっと、僕と母さんがきっちし、つながっていたんだってこと・・。

だから、あの場所にいきたくてたまらなかったんだ。

泣いてる僕の頭を父さんがなでてくれた。

「まだ、先のことだけど、冴子をたのむな。
母さんには、父さんからはなしておく。
冴子にもな・・」

父さんは時計をながめて、椅子から立ち上がった。

僕は大きなきがかりがなくなって、
ほっとしてた。

「父さん、ご免ね。僕はそれでも父さんと母さんの子供だとおもっていいんだよね」

「あたりまえだろ」

父さんが病室からでていくのを見送ると、
ふいに、病室の壁から、ミュウが遊ぶ椅子がぬけでてきた。
仔猫のミュウがかけてきて、椅子にとびのると
ミュウはもう、いつものおばあさん猫になっていた。

僕の憧憬がもう憧憬じゃなくなったんだと
ミュウが教えてくれていた。



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