なにか、妙だと感じただけの法祥であったが
白銅は妙ではなく、はっきりとなにかを見抜いているのか
「白銅さん・・良くない・・というのは?」
「みっつ、ある」
「みっつ・・・も?」
「ひとつは、お前が聞いてきたことの裏だ」
法祥はまだ、なにも白銅に告げていない。
女の話がきこえる場所に居なかった白銅である。
ー私を読んだということだろうか?ー
だが、わざわざ読まなくても良い。
じきに、法祥自ら伝える。
取り敢えず、法祥が聞いてきたことと
白銅の言うことが同じことなのか確かめてみた。
「山の木を売るという話ですよね」
「その裏で、榊十郎は、銀を掘る」
名前まで判っているし、
十郎という名前は女の口からは出なかった。
法祥の中に、ふたつのことがいっぺんに入って来ていた。
「銀を掘る?
それは、とんでもないことになりはしませんか?
それに、白銅さん、榊十郎を読んだ?ということですよね」
「おかみの目をぬけるために、伐採で、人が山に入っていると目くらましをして
堀った銀は 伴天連にでも売るのだろう。
ようは、密貿易・・だな。
お上に見つかった日には、ただではすまない」
「なぜ、そんな危ない橋をわたろうとするのですか?
それが、犬神の差配ということなのですか?」
犬神のせいで、榊十郎は、破滅を恐れることも出来なくなってしまう、のか
と、法祥は問う。
「いや、榊十郎を読めるということは
犬神は、榊十郎を差配したり、牛耳っているわけではない。
犬神が差配しきっていたら、榊十郎を読ませぬように出来るだろう。
ところが、読めた。
澄明の言うように、一族の方が犬神を縛っているということになる」
「それでは、なぜ、密貿易などに手をだそうというのです?
榊十郎は、欲に目がくらんで、なにも見えなくなっている?」
「おそらく、口入屋の実入りの良さもそのせいだろう。
一族が犬神をしばっているからこそ、
榊十郎の思い通りになるように、犬神が動く。
これは、舟で話したことであるが
犬神が榊十郎の為に、ただ、動くわけではない。
犬神が動いたら動いたぶん、
榊十郎の生命力や根源力を帳合に取る。
ただ、憑いているだけなら、
それで済むのかもしれないが
自分の思い通りに成るように犬神をつかえば
当然のこと、礼をせねばならなくなる。
礼というのは、相手に足りない物を渡すのが
一番の礼になるだろう?
魚をたるほど持っている漁師に魚をわたしても礼に程遠い。
犬神のほしいものこそ、生命力や根源力なのだ」
「そ・・それでは、それを繰り返せば
榊十郎は、いつか・・狂う・・」
「その通りだ。それが、ふたつめの良くないということだ」
「ひとつは、密貿易
ふたつは、御霊の生気をむさぼられ、狂い始める
みっつめは?」
「みっつめは・・・
榊十郎を見限る犬神になるのではないか、と、いうことだ」
「榊十郎が犬神を縛っているのでしょう?
犬神のほうから、榊十郎を見限るというのは
どういうことなのです?」
「榊十郎には、縅之輔という二十歳をこえた息子がいる。
犬神を縛っているのは、一族であり、
榊十郎だけが縛っているのではないのだ」
それは、つまり、どういうことになるのか・・
法祥は恐ろしい考えしか思いつけなかった。
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