蛮骨の深手はすぐに知れる。
一番にそれを知った煉骨が嘲る。
「一筋縄じゃあ、いかねえ相手だとわからねえ、蛮骨じゃ、あるまいし」
暗に自分の戦法こそが犬を倒せるという。
自分こそが覇者になれる男と煉骨は蛇骨に誇示する。
「蛇骨・・・こい」
皆の前で、蛇骨だけを選ぶ。
蛇骨と共に蛮骨の仇を討とうなぞという煉骨のわけではない。
「・・・」
断る。そういおうとした蛇骨の腕を煉骨がつかんだ。
酷くこわばった煉骨の手から、伝わってくるものが何であるか悟った蛇骨は煉骨が求めてくる事も悟った。
「断る」
「なに?」
蛇骨の腕を掴んだ煉骨の手の奥がふるえている。
蛇骨が煉骨の恣意を感じ取りながら、断ったせいで怒りにふるえているわけでない。
―この男も、恐ろしいのだー
蛮骨に深手を負わす犬の実力をまのあたりにして、煉骨の底がおびえている。
言い知れぬ恐怖感を蛇骨で埋め合わせようとしたか、確実にやってくる死を畏れ、生きている事を蛇骨で確認したがったか。
いずれにせよ、この男も震えている。
そう、この男も。「も」だ。
蛇骨は蛮骨を想う。
何故、気がつかなかったかと。
蛮骨が深手を負いながら、何故、あの場所に居たか。
死を見せ付ける戦いの末、蛮骨の中に生じたものはやはり恐怖だったに違いない。
今、目の前の煉骨がそうであるように、脅えを知った蛮骨も蛇骨で「畏れ」をうめてしまいたがった。
蛮骨にとって、蛇骨を感じれる場所、その唯一の場所にかがみこむ事で畏れを緩和したかった。
―蛮骨は・・・俺を待っていたんだー
だから。
煉骨の手を思い切り振りほどく。
ぎょっとした、煉骨が心もとない童子のさまよいをみせる。
「おふくろの乳の代わりに、女をまさぐることもできないからとて、女の代わりはごめんだぜ」
そう。俺は戦う前から震えてるガキの気分を紛らわしてやる酔狂な男にゃあなれねえ。
蛇骨の反骨が本物であるときずいた煉骨は振り払われた手をそのまま、睡骨にのばした。
「なんだったら、おまえでもかまわねえんだぜ」
誰にも拭えるわけのない恐怖に囚われた男は、必死の触手をのばす。足掻きまわる往生際の悪さは既に煉骨の中にたぎった物のせいでしかない。
―けれど、蛮骨はあがきもしないー
拭えるはずもない恐怖を抱かえ、あの場所で、この蛇骨との融合を懐かしんだ。ただ、それだけ。
そして、最初のあの時蛮骨が既に猛るものを有していた事が悲しい。
―あんたは、あの時にもう、恐怖とむかいあっていたんだー
『何が、「お前の勝手」だ?』
なんで、なんで、蛇骨に拭ってくれといわない。
拭える筈なくとも、何で、一時をこの蛇骨に委ねてくれない?
『蛮骨兄貴・・・もう・・だめだ。あんたが・・恋しい』
最新の画像[もっと見る]
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます