智恵子抄「あなたはだんだんきれいになる」高村光太郎

をんなが付属品を棄てると
どうしてこんなにきれいになるのか。
年で洗はれたあなたのからだは
無辺際を飛ぶ天の金属。
見えも外聞もてんで歯のたたない
中身ばかりの清冽（せいれつ）な生きものが
生きて動いてさつさつと意慾する。
をんながをんなを取りもどすのは
かうした世紀の修業によるのか。
あなたが黙つて立つてゐると
まことに神の造りしものだ。
時時内心おどろくほど
あなたはだんだんきれいになる。

パピルス 阪森郁代「草の上（へ）の祝福」

日（にち）にちの汚れを拭ふいちまいの空といふ布胸に広げる

空に心が洗われるということがある。作者の歌には数々の工夫や仕掛けが施されているが、この歌にもある。それは、布を胸に広げただけで終わっていることだ。つまり、空という布で心を拭う行為は読者の想像の中で完結する。しかも、布はイエスのイメージも引き出す。