ヒット大地は男だ。
男である以上、いつかは射精する。
一度も射精しないで、一生を終える男は、
よほど早死にしない限りは、いないだろう。
だから今日は、それについて述べようと思った。
それは、中学二年生のときだった。
中学二年生の晩秋のある日の早朝。
ヒット大地は、布団の中で、夏目漱石の『坊ちゃん』を読んでいた。
ヒット大地、朝型人間だった。
夜は苦手だったので、いつも早く寝ていたんだ。
逆に、朝は早くから起きて、布団の中で本を読んでいたというわけさ。
その日も、腹ばいになって読んでいたが、下半身が何となく気持ち良くなったんだ。
不思議な感覚なので、ヒット大地はしばらく、その快感に身を任せていたんだ。
すると、突然のことだった!
下半身がコトコトと痙攣を起こしたんだよ!
オーイエス!
それは痺れるような快感だった。
オーイエス!
そしてその快感のうねりの途中・・・と言っても、
アッという間に終わったうねりであったが
下半身に、驚くべき変な感覚を感じたんだよな。
そう。何かが、体内から出てきた感覚があったんだよ。
しかし、ションベンとは明らかに違うぞ。
ヒット大地は恐る恐る・・・本当に恐る恐る、パンツの中に手をやった。
そしてビックラこいたぜ!
大量の粘液状のものが、排出されていたんだからな。
オーノー!オーサダハル!
(注:さっきまでは、オーイエス!・・・だったがな!(笑))
・・・そのときのヒット大地の気持ちは、
偉大なる世界の王選手が、ホームラン756号の世界新記録を打ち立てたときよりも、
はるかに驚いたのだった。
決して冗談ではなく、
「俺の命も、これまでか?たった13年で俺は死ぬのか?思えば、短い人生だった」
というような想念が、一瞬、頭を過ぎったんだよ。
だってよぉ、それまでの人生、こんな経験は一度もなかったんだぜ。
ヒット大地のキンタマからよぉ、ションベン以外のものが出てくるなんてよぉ!
やっぱり、オーノー!オーサダハル!756号だ!・・・なんだ!
(ヒット大地って、バカでしょ!)
ヒット大地は思った。
「俺は、とんでもない不治の病に罹ったに相違ない!」
・・・こう確信したんだ。
当然、下着を脱いで、内容物を確かめたさ。
すると、強烈な匂いがした。
そして、やや黄色っぽい白い粘液が発見されたんだ。
しかも予想外に量が多いんだよな。
ブルガリアヨーグルト4匙分くらいはあったろうな。
ところが、待てよ!
ヒット大地、
自分の体調を慮ると、
まったく不調な感覚はないぞ。
手足を動かしてみる。
体調はピンピンしているぞ。
頭を動かしてみる。
やっぱり絶好調だぜ!
このように全身の自己診断を何度も行ったヒット大地。
ところが、幸い、異常な箇所がひとつも発見されないので・・・
とりあえず、ヒット大地は階段を下りて、
内容物を、台所の雑巾で、丁寧に何度も拭き取ったんだ。
パンツは昨夜取り替えたばかり。
朝も取り替えたら、きっと別の理由で、家の者に怪しまれたことだろうな。
初めて蒸気機関車が走ったとき、イギリスの科学者たちは言ったんだ
ー「こんな速いスピードの機械に乗ったら、人間は皆病気になるだろう!」。
初めてテレビが放映されたとき、日本の識者たちは言ったんだ
ー「こんな電気紙芝居なんか見てたら、日本人は皆、畢竟(ひっきょう)、バカになるだろう!」。
初めての体験・・・というのは、いかに正常なことでも、怖いものなんだよね。
俺たちはいつか死ぬでしょう。
死んだ後、
(ああ、死後世界は、結構、すばらしいじゃないか!)
・・・と、きっと思うでしょう!
俺たちはいつか宇宙人に出会うでしょう。
そのとき、
(ああ、宇宙人って、すばらしい人たちじゃないか!)
・・・と、きっと思うことでしょう!
ヒット大地の母も、初めての月経のとき、
すっごく驚いたそうだ・・・
親子って、似た体験をするんだね。