以下の話は実話である。
昭和30年代のある夏の日のこと、
千葉県千葉市役所失対事業の職員だった井谷清造(52.仮名)は、
除草と清掃をするために、
千葉公園に向かった。
この日は月曜日であったが、
週明けの千葉公園は、
ゴミだらけだ。
「日曜日の翌朝は、除草どころじゃないですよ。
日曜はどうしても人が出るし、
夕方からは、アベック天国ですからね。
新聞紙やら、ビニール袋やら、
食い散らかしたもの、ジュースやビール缶、
その他妙なものまで出てきますよ。
その掃除で、陽が暮れちゃいますね」
と言いながら、井谷は、女性物の下着まで、
落ちていることもあると付け加えるのだった。
そして、ある日のことだった。
井谷はとんでもないものを発見した。
赤く塗った爪の女の足が、
低木の茂みの中から、
スッとのぞいているのを見つけたのだった。
すでに生色を失っていて、
つっぱっていた。
「それはもう、ビックリしましたよ。
あわてて、茂みを押し開けてみると、
若い女があおむけになって、死んでいたんですよ」
女の顔は小顔で、額が広く、
頤が少し尖っていた。
身長は155センチくらい。
服はピンクのブラウスに、真紅の春物セーター。
下は、濃いグレーのタイトスカートで、
そのスカートはまくられていて、
しかもパンティはずり下ろされていて、
下半身がそっくり露出していた。
驚いた井谷は、
弾けるように潅木の茂みを飛び出て、
最寄りの交番に駆け込んだ。
千葉県警本部捜査一課の取調べが始まった。
被害者は、千葉市吾妻町の
Hデパートに勤務する米原恵津子(21仮名)。
実家は、外房の大原町で漁師をしているが、
恵津子は高校を卒業すると、千葉市に出て、
Hデパートに就職した。
最初は、松波町のアパートに女友達と住んでいた。
ところが半年ばかり前のこと、
女友達の河合澄江は、美容師になるために、
住み込みの内弟子になった。
以来、恵津子は一人暮らしをするようになったのである。
「勤務ぶりはマジメでしたね。
浮いた話は、聞いたことがないですね』
デパートの売り場主任は、そう語る。
同輩の女店員は語る。
「仕事が終わるとまっすぐに帰る方で、
遊びに誘っても、あまり気乗りしないほうでしたね」
アパートの管理人は、言う。
「うちには呼び出し電話があるんですが、
外から掛かったことは一度もないです。
でも男の客がたまに来たこともあるようですが」
男の客?・・・微妙な表現だ。
実は、警察でいろいろ調べてみると、
恵津子は、デパートのほかに、
「まあぶる」というバーで、誰にも内緒で、
アルバイトをしていることがわかった。
捜査本部では、女一人の公園の夜歩きは考えられないので、
痴情が半分、流しの犯行が半分と見ていたが、
まずバーに出入りする客筋を洗ってみた。
ところが、客のアリバイを調べると、
いずれも確かなものがあり、
捜査は最初から難航を思わせた。
そのうち自殺説が出てきた。
暴行は受けているものの、
死因となる外傷も、絞殺のあともない。
しかも解剖所見によると、意外にも、胃の中から、
0.037グラムの青酸が検出され、
これが自殺説につながった。
しかし青酸は劇薬だ。
一般人は簡単に手に入らない。
そこで、入手経路を調べた。
だが、これが、なかなか特定できなかった。
彼女が家を出たのは午後9時。
これはアパート居住者が確認している。
ところが彼女の部屋を見ると、布団がちゃんと敷いてあり、
米も研いであるので、
状況証拠からは、自殺とは、どうしても思えない。
となると、別に男がいて、
偽装心中と見せかけて、
殺害したなどということも考えられる。
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