2021-0615-man3999
万葉短歌3999 都辺に3715
都辺に 立つ日近づく 飽くまでに
相見て行かな 恋ふる日多けむ 大伴家持
3715 万葉短歌3999 ShuI282 2021-0615-man3999
□みやこへに たつひちかづく あくまでに
あひみてゆかな こふるひおほけむ
○大伴家持(おほともの やかもち)=03-0403歌参照。この歌には作者・詠者の「署名がない。・・・家持の詠であることが自明ゆえ、記さなかったのである。」
【編者注】巻17(3890~4031、百四十二首)の第110首。題詞に、「守大伴宿祢家持舘飲宴歌一首 四月廿六日」。
【訓注】都辺(みやこへ=美夜故敝)。恋ふる日(こふるひ=故布流比)。
2021-0614-man3998
万葉短歌3998 我がやどの3714
我がやどの 花橘を 花ごめに
玉にぞ我が貫く 待たば苦しみ 石川水通
3714 万葉短歌3998 ShuI277 2021-0614-man3998
□わがやどの はなたちばなを はなごめに
たまにぞあがぬく またばくるしみ
○石川水通(いしかはの みみち)=「伝未詳。ほかに歌もない」。
【編者注】巻17(3890~4031、百四十二首)の第109首。四月二十六日大伴家持餞宴古歌四首の第4首。さらに題詞に、「石河朝臣水通橘歌一首」。左注に、「右一首伝誦(でんしょうして)主人(あろじ)大伴宿祢池主云尓(しかいふ)」。
【訓注】我がやど(わがやど=和我夜度)。花橘(はなたちばな)。花ごめに(はなごめに=波奈其米尓)[「花もろともに、の意か」]。我が貫く(あがぬく=安我奴久)。
2021-0613-man3997
万葉短歌3997 我れなしと3713
我れなしと なわび我が背子 ほととぎす
鳴かむ五月は 玉を貫かさね
3713 万葉短歌3997 ShuI277 2021-0613-man3997
□あれなしと なわびわがせこ ほととぎす
なかむさつきは たまをぬかさね
○大伴家持(おほともの やかもち)=03-0403歌参照。
【編者注】巻17(3890~4031、百四十二首)の第108首。四月二十六日大伴家持餞宴古歌四首の第3首。左注に、「右一首守大伴宿祢家持和(こたふ)」。
【訓注】我れ(あれ=安礼)。なわび(奈和備)[<寂しがるな>。下記注]。我が背子(わがせこ=和我勢故)。ほととぎす(保登等芸須)。五月(さつき=佐都奇)。
【編者注-なわび】「な」は、上代語・副詞で動詞・連用形に接続して「するな」。『詳説古語辞典』は、「な」の用例にこの3997歌を挙げる。「わ(侘)ぶ」(寂しがる、がっかりする)の活用は、自上二(び・び・ぶ・ぶる・ぶれ・びよ)。
2021-0612-man3996
万葉短歌3996 我が背子が3712
我が背子が 国へましなば ほととぎす
鳴かむ五月は さぶしけむかも 内蔵縄麻呂
3712 万葉短歌3996 ShuI277 2021-0612-man3996
□わがせこが くにへましなば ほととぎす
なかむさつきは さぶしけむかも
○内蔵縄麻呂(くらの つなまろ)=「ほぼ家持の越中守であった時代の介」。原文表記は、「介(すけ)内蔵忌寸(くらの いみき)縄麻呂」。
【編者注】巻17(3890~4031、百四十二首)の第107首。四月二十六日大伴家持餞宴古歌四首の第2首。左注に、「右一首介内蔵忌寸縄麻呂作之」。
【訓注】我が背子(わがせこ=和我勢古)。国へましなば(くにへましなば=久尓敝麻之奈婆)[「<国>は・・・大和の国。<ます>は、・・・<行く>の尊敬語」]。ほととぎす(保等登芸須)。五月(さつき=佐都奇)。介(すけ)[「地方官の次官。守に次ぐ職。掾の上。上国越中の介は従六位上相当」]。
2021-0611-man3995
万葉短歌3995 玉桙の3711
玉桙の 道に出で立ち 別れなば
見ぬ日さまねみ 恋しけむかも 大伴家持
3711 万葉短歌3995 ShuI277 2021-0611-man3995
□たまほこの みちにいでたち わかれなば
みぬひさまねみ こひしけむかも
○大伴家持(おほともの やかもち)=03-0403歌参照。
【編者注】巻17(3890~4031、百四十二首)の第106首。題詞(要旨)に、四月二十六日、大伴池主館(たち)で大伴家持を餞(せん)する宴(うたげ)の歌、并(あはせて)古歌四首(仮に略して四月二十六日大伴家持餞宴古歌四首)。その第1首。左注に、「右一首大伴宿祢家持作之」。脚注に、「一云 不見日久弥 恋之家牟加母」。
【訓注】玉桙(たまほこ=多麻保許)。さまねみ(佐麻祢美)[「一面に行き渡っているさま・・・」。ほかに、01-0082情佐麻祢之(こころさまねし)、04-0653不見日数多(みぬひさまねく)、18-4116(長歌美奴日佐末祢美(みぬひさまねみ)]。恋しけむかも(こひしけむかも=孤悲思家武可母)。
2021-0610-man3994
万葉短歌3994 白波の3710
白波の 寄せ来る玉藻 世の間も
継ぎて見に来む 清き浜びを 大伴池主
3710 万葉短歌3994 ShuI271 2021-0610-man3994
□しらなみの よせくるたまも よのあひだも
つぎてみにこむ きよきはまびを
○大伴池主(おほともの いけぬし)=08-1590歌参照。
【編者注】巻17(3890~4031、百四十二首)の第105首。題詞に、「敬(つつしみて)和(こたふる)遊覧布勢水海賦一首并一絶(いちぜつ)」。3993は長歌。左注に、「右掾(じょう)大伴宿祢池主 四月廿六日追和」。
【訓注】白波(しらなみ=之良奈美)。玉藻(たまも=多麻毛)。世の間(よのあひだ=余能安比太)[<よのあひだ> は集中ここだけ。<よのなか> 45か所は、多く<世間> 対応]。浜び(はまび=波麻備)[「<び>は、あたり、の意」。6-1001清浜備乎(きよきはまびを)。下記注]。一絶(いちぜつ)[「<絶>は五言または七言の四句より成る漢詩をいう。・・・長歌を<賦>と言い成したのに対し、反歌をなす短歌をこういったもの。これは池主の工夫・・・」]。
【編者注-<-び>】「傍・回」。(山・川・岡・浜などの名詞に付いて)ほとり、そのまわりの意を添える(『詳説古語辞典』)。17-3973(長歌)夜麻備尓波(やまびには)、20-4309奈妣久可波備能(なびくかはびの)、17-3946乎加備可良(をかびから)、05-0894(長歌)御津浜備尓(みつのはまびに)、など。
2021-0609-man3992
万葉短歌3992 布勢の海の3709
布勢の海の 沖つ白波 あり通ひ
いや年のはに 見つつ偲はむ 大伴家持
3709 万葉短歌3992 ShuI264 2021-0609-man3992
□ふせのうみの おきつしらなみ ありがよひ
いやとしのはに みつつしのはむ
○大伴家持(おほともの やかもち)=03-0403歌参照。
【編者注】巻17(3890~4031、百四十二首)の第103首。題詞に、「遊覧布勢水海(ふせの みづうみに)賦(ふ)一首并短歌 此海者有射水郡旧江(ふるえの)村也」。3991は長歌。左注に、「右守大伴宿祢家持作之 四月廿四日」。
【訓注】布勢の海(ふせのうみ=布勢能宇美)[「二上山の西北麓、氷見市南部にあった広大な湖。・・・わずかに名残を留めていた十二町潟(じゅうにちょうがた)も、・・・姿を消した」]。あり通ひ(ありがよひ=安利我欲比)[「ずっと通い続けて」。直前長歌の原文表記は <安里我欲比>]。いや年のはに(いやとしのはに=伊夜登偲能波尓)[「永遠に」。直前長歌の原文表記は <伊夜登之能波尓>]。旧江村(ふるえのむら)[「<古江>は氷見市南部にあった村」]。
2021-0608-man3990
万葉短歌3990 我が背子は3708
我が背子は 玉にもがもな 手に巻きて
見つつ行かむを 置きて行かば惜し 大伴家持
3708 万葉短歌3990 ShuI261 2021-0608-man3990
□わがせこは たまにもがもな てにまきて
みつつゆかむを おきていかばをし
○大伴家持(おほともの やかもち)=03-0403歌参照。
【編者注】巻17(3890~4031、百四十二首)の第101首。餞家持宴歌二首の第2首。左注(要旨)に、大伴家持が正税帳(せいせいちゃう)[下記注]を持って京師(みやこ)へ入るときに、いささかに相別るる嘆きを陳(の)ぶ、四月二十日、と。
【訓注】我が背子(わがせこ=和我勢故)。玉(たま=多麻)。行かむ(ゆかむ=由可牟)。行かば(いかば=伊加婆)。
【編者注-正税帳】一般に <しゃうぜいちゃう> 訓。
2021-0607-man3989
万葉短歌3989 奈呉の海の3707
奈呉の海の 沖つ白波 しくしくに
思ほえむかも 立ち別れなば 大伴家持
3707 万葉短歌3989 ShuI261 2021-0607-man3989
□なごのうみの おきつしらなみ しくしくに
おもほえむかも たちわかれなば
○大伴家持(おほともの やかもち)=03-0403歌参照。
【編者注】巻17(3890~4031、百四十二首)の第100首。題詞(要旨)に、秦忌寸の館で大伴家持を餞(せん)する宴の歌二首(仮に、餞家持宴歌二首)、その第1首。次歌左注参照。
【訓注】奈呉の海(なごのうみ=奈呉能宇美)[3956参照]。しくしくに(志苦思苦尓)。立ち別れなば(たちわかれなば=多知和可礼奈婆)[「遠く旅立って別れてしまうこと・・・」]。
2021-0606-man3988
万葉短歌3988 ぬばたまの3706
ぬばたまの 月に向ひて ほととぎす
鳴く音遥けし 里遠みかも 大伴家持
3706 万葉短歌3988 ShuI258 2021-0606-man3988
□ぬばたまの つきにむかひて ほととぎす
なくおとはるけし さととほみかも
○大伴家持(おほともの やかもち)=03-0403歌参照。
【編者注】巻17(3890~4031、百四十二首)の第99首。題詞に、「四月十六日夜裏遥聞霍公鳥喧(ほととぎすの なくを)述懐(おもひを のぶる)歌一首」。左注に、「右大伴宿祢家持作之」。
【訓注】ぬばたまの(奴婆多麻能)。月(都奇)。ほととぎす(保登等芸須)。鳴く音(なくおと=奈久於登)[下記注]。
【依拠本注-おと】「音」は無生物にいうのが習いで、人間にいう場合には評判・噂の意でしか用いない。生物にはかならず「声(こゑ)」という。しかるに例外が二つあって、それが巻五の
うぐひすの 音(おと)聞(き)くなへに 梅(うめ)の花(はな)
我家(わぎへ)の園(その)に 咲(さ)きて散(ち)る見(み)ゆ(841)
と今の家持の歌である。
2021-0605-man3987
万葉短歌3987 玉櫛笥3705
玉櫛笥 二上山に 鳴く鳥の
声の恋しき 時は来にけり 大伴家持
3705 万葉短歌3987 ShuI251 2021-0605-man3987
□たまくしげ ふたがみやまに なくとりの
こゑのこひしき ときはきにけり
○大伴家持(おほともの やかもち)=03-0403歌参照。
【編者注】巻17(3890~4031、百四十二首)の第98首。二上山賦短歌二首の第2首。左注に、「右三月卅日依興作之大伴宿祢家持」。
【訓注】玉櫛笥(多麻久之気)。二上山(ふたがみやま=敷多我美也麻)[「高岡市伏木町の西の山。国府は山に包まれるようにしてある」。<ふたがみやま>訓は、02-0165二上山、以下9か所。<ふたがみ>訓を加えると、集中15か所]。
【原文一部】鳴鳥能 許恵乃孤悲思吉 登岐波伎尓家里/ 鳴く鳥の
声の恋しき 時は来にけり/ なくとりの こゑのこひしき ときはきにけり
2021-0604-man3986
万葉短歌3986 渋谿の3704
渋谿の 崎の荒磯に 寄する波
いやしくしくに いにしへ思ほゆ 大伴家持
3704 万葉短歌3986 ShuI251 2021-0604-man3986
□しぶたにの さきのありそに よするなみ
いやしくしくに いにしへおもほゆ
○大伴家持(おほともの やかもち)=03-0403歌参照。
【編者注】巻17(3890~4031、百四十二首)の第97首。題詞に、「二上山賦(ふたがみやまの ふ)一首 此山者有射水郡(いみづの こほり)也」。3985は長歌。続けて短歌二首(仮に、二上山賦短歌二首)、その第1首。次歌左注参照。
【訓注】渋谿(しぶたに=之夫多尓)[3954、3956注、参照]。
【原文一部】伊夜思久思久尓 伊尓之敝於母保由/いやしくしくに いにしへ思ほゆ/「いよいよしきりに去にし世のことが思われる」
2021-0603-man3984
万葉短歌3984 玉に貫く3703
玉に貫く 花橘を ともしみし
この我が里に 来鳴かずあるらし 大伴家持
3703 万葉短歌3984 ShuI247 2021-0603-man3984
□たまにぬく はなたちばなを ともしみし
このわがさとに きながずあるらし
○大伴家持(おほともの やかもち)=03-0403歌参照。
【編者注】巻17(3890~4031、百四十二首)の第95首。<立夏四月・・・二首>の第2首。左注(要旨)に、霍公鳥は立夏に来鳴く必定、越中は橙橘(たうきつ)希(まれ)、大伴家持いささかにこの歌を裁(つく)る、三月二十九日、と。
【訓注】玉に貫く(たまにぬく=多麻尓奴久)[「薬玉(くすだま)として貫く」]。ともしみし(等毛之美思)[「少ないと思って」]。
2021-0602-man3983
万葉短歌3983 あしひきの3702
あしひきの 山も近きを ほととぎす
月立つまでに 何か来鳴かぬ 大伴家持
3702 万葉短歌3983 ShuI247 2021-0602-man3983
□あしひきの やまもちかきを ほととぎす
つきたつまでに なにかきなかぬ
○大伴家持(おほともの やかもち)=03-0403歌参照。
【編者注】巻17(3890~4031、百四十二首)の第94首。題詞(要旨)に、立夏四月、累日(るいじつ)を経ても霍公鳥(ほととぎす)の喧(な)くを聞かない恨みの歌二首(仮に略して<立夏四月・・・二首>)、その第1首。次歌左注参照。
【訓注】あしひきの(安思比奇能)。ほととぎす(保登等芸須)。立夏(りっか)[「天平19年(747)の立夏は三月二十一日もしくは二十日であったらしい」]。
2021-0601-man3982
万葉短歌3982 春花の3701
春花の うつろふまでに 相見ねば
月日数みつつ 妹待つらむぞ 大伴家持
3701 万葉短歌3982 ShuI238 2021-0601-man3982
□はるはなの うつろふまでに あひみねば
つきひよみつつ いもまつらむぞ
○大伴家持(おほともの やかもち)=03-0403歌参照。
【編者注】巻17(3890~4031、百四十二首)の第93首。「述恋緒歌一首并短歌」の短歌4首の第4首。左注に、「右三月廿日夜裏忽兮起恋情作 大伴宿祢家持」。
【訓注】春花(はるはな)。うつろふまでに(宇都路布麻泥尓)。月日数みつつ(つきひよみつつ=月日余美都追)。妹(いも=伊母)。
【2021年06月01日】2010年11月01開設から 3864日
トータル閲覧数1029223PV トータル訪問数309660UU