2019-0930-man3375
万葉短歌3375 武蔵野の3120
武蔵野の をぐきが雉 立ち別れ
去にし宵より 背ろに逢はなふよ 〇
3120 万葉短歌3375 ShuG316 2019-0930-man3375
□むざしのの をぐきがきぎし たちわかれ いにしよひより せろにあはなふよ 〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第23首。女。
【訓注】武蔵野(むざしの)。をぐき(乎具奇)[<を>は接頭語。<くき>は未詳。山洞(やまほら)を示す「岫〔くき〕」(05-0815序)の意かとも思われるが、・・・]。雉(きぎし)[「雉(きじ)」の古名]。逢はなふよ(あはなふよ=安波奈布与)[「ずっと逢っていない」「<なふ>は東国特有の打消の助動詞」]。
2019-0929-man3374
万葉短歌3374 武蔵野に3119
武蔵野に 占部かた焼き まさでにも
告らぬ君が名 占に出にけり 〇
3119 万葉短歌3374 ShuG312 2019-0929-man3374
□むざしのに うらへかたやき まさでにも
のらぬきみがな うらにでにけり
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第22首。女。
【訓注】武蔵野(むざしの)[武蔵国の野。14-3362武蔵祢能(むざしねの)]。占部(うらへ=宇良敝)[占い師]。かた焼き(かたやき=可多也伎)[下記注]。まさでにも(麻左弖尓毛)[「占いの結果が確かであること、その予測が的中することをいう副詞」]。
【依拠本注-かた焼き】(要旨)従来説は、職業占い師による鹿肩の焼出形象、とするが、依拠本注は、私的占いによるそれ、とする。
2019-0928-man3373
万葉短歌3373 多摩川に3118
多摩川に さらす手作り さらさらに
なにぞこの子の ここだ愛しき 〇
3118 万葉短歌3373 ShuG312 2019-0928-man3373
□たまがはに さらすてづくり さらさらに
なにぞこのこの ここだかなしき
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第21首。男。
【訓注】多摩川(たまがは=多麻河)[「東京都西多摩郡雲取山の奥に発して東京湾に注ぐ川」]。さらさらに(佐良左良尓)[さらにさらに。10-2270今更尓 何物可将念(いまさらさらに なにをかおもはむ)]。ここだ(己許太)[「こんなにも甚だしく」]。
2019-0927-man3372
万葉短歌3372 相模道の3117
相模道の 余綾の浜の 真砂なす
子らは愛しく 思はるるかも 〇
3117 万葉短歌3372 ShuG302 2019-0927-man3372
□さがむぢの よろぎのはまの まなごなす
こらはかなしく おもはるるかも
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第20首。男。左注に、「右十二首相模国歌」。
【訓注】余綾の浜(よろぎのはま=余呂伎能波麻)[「神奈川県中郡大磯町あたりから小田原市国府津にかけての海浜」]。
2019-0926-man3371
万葉短歌3371 足柄の3116
足柄の 御坂畏み 曇り夜の
我が下ばへを こちでつるかも 〇
3116 万葉短歌3371 ShuG302 2019-0926-man3371
□あしがらの みさかかしこみ くもりよの
あがしたばへを こちでつるかも
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第19首。男。
【訓注】足柄(あしがら=安思我良)。御坂(みさか=美左可)[下記注]。こちでつる(許知弖都流)[「言葉にはっきり打ち出す意」]。
【依拠本注-足柄の御坂】相模と駿河との境の足柄峠。境の峠には交通を支配する恐ろしい神がいるとされたのでとくに「御坂」という。
【編者注-峠の神への恐れ】06-1022(長歌)恐乃坂尓 幣奉(かしこのさかに ぬさまつり)、09-1800(長歌)東国能 恐耶 神之三坂尓(あづまのくにの かしこきや かみのみさかに)、20-4402知波夜布留 賀美乃美佐賀尓(ちはやぶる かみのみさかに)。
2019-0925-man3370
万葉短歌3370 足柄の3115
足柄の 箱根の嶺ろの にこ草の
花つ妻なれや 紐解かず寝む 〇
3115 万葉短歌3370 ShuG302 2019-0925-man3370
□あしがりの はこねのねろの にこぐさの
はなつつまなれや ひもとかずねむ
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第18首。男。
【訓注】箱根の嶺ろ(はこねのねろ=波故祢能祢)[「箱根の峰」。「ろ」は前出「子ろ」に準じる。下記注]。にこ草(にこぐさ=尓古具佐)[下記注]。花つ妻(はなつつま=波奈都豆麻)[「花のごとく実のない妻」]。
【依拠本注-ろ】ほかに「青嶺ろ」(3511)、「伊香保ろ」(3435)、「背ろ」(3375)、「家(いは)ろ」(20-4406)、「横山辺(へ)ろ(3531)」など。
【編者注-にこぐさ】湿地に多いやわらかい草。はこねしだ(うらぼし科)ともあまどころ(ゆり科)とも。全て恋情をうたうなかにみえる。初々しくにこやかな女性を比喩。(『万葉集事典』)
2019-0924-man3369
万葉短歌3369 足柄の3114
足柄の 麻万の小菅の 菅枕
あぜかまかさむ 子ろせ手枕 〇
3114 万葉短歌3369 ShuG301 2019-0924-man3369
□あしがりの ままのこすげの すがまくら
あぜかまかさむ ころせたまくら
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第17首。男。
【訓注】麻万(まま)[「<足柄>の小地名。神奈川県南足柄市壗下(まました)あたり・・・」。03-0431(長歌)勝壮鹿乃 真間之手児名之(かつしかの ままのてこなが)]。菅枕(すがまくら)[類語07-1414薦枕(こもまくら)と合わせて各1か所だけ]。あぜかまかさむ(安是加麻可左武)[なぜ枕されるのか]。
2019-0923-man3368
万葉短歌3368 足柄の3113
足柄の 土肥の河内に 出づる湯の
よにもたよらに 子ろが言はなくに 〇
3113 万葉短歌3368 ShuG301 2019-0923-man3368
□あしがりの とひのかふちに いづるゆの
よにもたよらに ころがいはなくに
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第16首。男。
【訓注】足柄(あしがり=阿之我利)[下記注]。土肥の河内(とひのかふち=刀比能可布知)[「神奈川県足柄下郡湯河原町の湯河原谷」。その地区名に、土肥(どい)。静岡県田方郡土肥町(といちょう)は、現伊豆市の一部]。よにもたよらに(余尓母多欲良尓)[「ちっとも・・・ゆらいで安定しない」。14-3392代尓毛多由良尓 和我於毛波奈久尓(よにもたゆらに わがおもはなくに)]。子ろ(ころ=故呂)[3351参照]。
【依拠本注-足柄】「あしがり」は「あしがら」の訛り。両形がおこなわれた。東歌ではアシガラ五、アシガリ五。防人歌では三例すべてアシガラ。
2019-0922-man3367
万葉短歌3367 百つ島3112
百つ島 足柄小舟 歩き多み
目こそ離るらめ 心は思へど 〇
3112 万葉短歌3367 ShuG301 2019-0922-man3367
□ももつしま あしがらをぶね あるきおほみ
めこそかるらめ こころはおもへど
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第15首。女。
【訓注】百つ島(ももつしま=母毛豆思麻)[ここだけの語。特定の地名ではない]。歩き(あるき=安流吉)[下記注]。目こそ離るらめ(めこそかるらめ=目許曽可流良米)[(依拠本要旨)「目」は「海藻(め)」と懸け、採った海藻を海岸収集地の女たちに目を遣る(漁る)男への、「挑み歌」]。
【編者注-歩く】「あるく」用字は、03-0425歎乍 公之阿流久尓(なげきつつ きみがあるくに)、「あるき」は、05-0804(長歌)阿蘇比阿留伎斯 余乃奈迦野(あそびあるきし よのなかや)、14-3367安之我良乎夫祢 安流吉於保美(あしがらをぶね あるきおほみ)。「あゆ-ぶ、-び」訓なし。
2019-0921-man3366
万葉短歌3366 ま愛しみ3111
ま愛しみ さ寝に我は行く 鎌倉の
水無瀬川に 潮満つなむか 〇
3111 万葉短歌3366 ShuG301 2019-0921-man3366
□まかなしみ さねにわはゆく かまくらの
みなのせがはに しほみつなむか
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第14首。
【訓注】ま愛しみ(まかなしみ=麻可奈思美)。さ寝に我は行く(さねにわはゆく=佐祢尓和波由久)。鎌倉(かまくら=可麻久良)。水無瀬川(みなのせがは=美奈能瀬河)[「鎌倉市御輿ヶ岳に発し、由比ヶ浜で相模湾にそそぐ稲瀬川という」]。
2019-0920-man3365
万葉短歌3365 鎌倉の3110
鎌倉の 見越の崎の 岩崩えの
君が悔ゆべき 心は持たじ 〇
3110 万葉短歌3365 ShuG301 2019-0920-man3365
□かまくらの みごしのさきの いはくえの
きみがくゆべき こころはもたじ
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第13首。
【訓注】鎌倉(かまくら=可麻久良)[神奈川県鎌倉市]。見越の崎(みごしのさき=美胡之能佐吉)[鎌倉市稲村ケ崎(いなむらがさき)?小動(こゆるぎ)崎(岬、鼻)?]。崩え(くえ=久叡)[「崩れるの意・・・<悔ゆ>を起こす」]。
2019-0919-man3364
万葉短歌3364 足柄の3109
足柄の 箱根の山に 粟蒔きて
実とはなれるを 粟無くもあやし 〇
3109 万葉短歌3364 ShuG301 2019-0919-man3364
□あしがらの はこねのやまに あはまきて
みとはなれるを あはなくもあやし
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第12首。男。左注(読下し)に、「或本の歌の末句には<延(は)ふ葛(くず)の 引かねば寄り来(こ)ね 下(した)なほなほに」といふ。>
【訓注】箱根の山(はこねのやま=波祜祢乃夜麻)[神奈川県の箱根山]。粟無くも(あはなくも=阿波奈久毛)[「逢はなくも」を懸ける]。
2019-0918-man3363
万葉短歌3363 我が背子を3108
我が背子を 大和へ遣りて 待つしだす
足柄山の 杉の木の間か 〇
3108 万葉短歌3363 ShuG296 2019-0918-man3363
□わがせこを やまとへやりて まつしだす
あしがらやまの すぎのこのまか
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第11首。女。
【訓注】待つしだす(まつしだす=麻都之太須)[「<待つ時(しだ)し>の訛りか(・・・)」。待つ(松)、杉(過ぎ)と懸ける]。
2019-0917-man3362
万葉短歌3362 相模嶺の3107
相模嶺の 小峰見退くし 忘れ来る
妹が名呼びて 我を音し泣くな 〇
3107 万葉短歌3362 ShuG296 2019-0917-man3362
□さがむねの をみねみそくし わすれくる
いもがなよびて あをねしなくな
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第10首。男。左注に或本歌(読下し)、「武蔵嶺の 小峰見隠し 忘れ行く 君が名懸けて 我を音し泣くる」。
【訓注】相模嶺(さがむね=相模祢)[神奈川県の丹沢山地。「記歌謡55に<相模>を称して<佐賀牟>」。「相模国(さがみのくに)」は、ほぼ神奈川県]。見退く(みそく=見所久思)[「見捨てる」]。我(あ=吾)。音(ね=祢)。泣くな(なくな=奈久奈)。〔以下或本歌〕武蔵嶺(むざしね=武蔵祢)[埼玉県の秩父山系。武蔵国(むざしのくに)は、東京都・埼玉県・(一部)神奈川県]。我(あ=安)。泣くる(なくる=奈久流)。
2019-0916-man3361
万葉短歌3361 足柄の3106
足柄の をてもこのもに さすわなの
かなるましづみ 子ろ我れ紐解く 〇
3106 万葉短歌3361 ShuG296 2019-0916-man3361
□あしがらの をてもこのもに さすわなの
かなるましづみ ころあれひもとく
〇=出典未詳。
【編者注】相聞(3353-3428、76首)の第9首。男。
【訓注】足柄(あしがら=安思我良)[相模国(神奈川県)の足柄山。03-0391鳥総立 足柄山尓(とぶさたて あしがらやまに)、07-1175足柄乃 筥根飛超(あしがらの はこねとびこえ)、など]。をてもこのも(乎弖毛許乃母)[「彼面此面(ヲチオモコノオモ)・・・山の斜面の向こう側こちら側」。さすわな(佐須和奈)[「張り設けてある罠・・・<さす>は仕掛ける」]。かなるましづみ(可奈流麻之豆美)[「か鳴る間静み」。20-4430可奈流麻之都美 伊埿弖登阿我久流(かなるましづみ いでてとあがくる)]。子ろ我れ(ころあれ=許呂安礼)[前出3354参照]。