風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

あまだれ

2010年04月26日 | 詩集「雨の子ども」
22


雨が降るといつも
あまだれが落ちるのをじっと見ている
私はそんな子どもだった


樋の下でふくらんで
まっすぐ地面に落ちてくる
あまだれ1ぴき死んだ
あまだれ2ひき死んだ
あまだれがいっぱい死んだ


あまだれは落ちる瞬間が美しい
小さくふくらんで息をとめる
言葉にならない挨拶のようだった


おじいさんもさいなら
おばあさんもさいなら
おじいさんは雨あがりのあまだれ
おばあさんはどしゃぶり
たまごやき焼いたよってに
はよ帰っといで


茶がゆに冷やめし
ちりめんじゃこに茄子の古漬け
うすぐらい土間の足ぶみの石うす
あまだれはどこへ帰る


おじさんも死んだ
おばさんも死んだ
みんな簡単な挨拶をして
いつのまにか
あまだれになった


ちいさなあまだれ
輝いたら消える


(2004)


ふたり

2010年04月26日 | 詩集「雨の子ども」
Bunraku


雨っこ、あがったっぺ。
んだ、んだ、あがったっぺ。


いっぺえ、お日さまがあっぺ
やだな、あんれはあじさいだっぺ。


あちゃ、おれぁ長雨にぼけたっぺか、りふれっしゅすっぺ。 ぺ。ぺ。ぺ。
つのっこも伸ばしたら気持ちえっぺ。 ぺ。ぺ。


おめのつのっこ、やっこそだな。色もええっぺ。 ぺ。ぺ。ぺ。
あよ、やんだ、やっぺ。 ぺ。ぺ。


さきっちょ、ちょっくらキスさせっぺ。 ぺ。ぺ。ぺ。
やだ、こそぼったい、やんぺ。 ぺ。ぺ。


ほんだらほら、こんだらいがっぺ。 ぺ。ぺ。ぺ。
ごじゃっぺ、ぐじゃっぺ。 ぺ。ぺ。


雨っこ降るめえに結婚すっぺ。 ぺ。ぺ。ぺ。
いやん、やだん、やだっぺ。 ぺ。ぺ。


あっぱとっぱすんなって、やっぺ。 ぺ。ぺ。ぺ。
ああん、あやん、やんぺ。 ぺ。ぺ。


ぺ。ぺ。ぺ。 ぺ。ぺ。ぺ。 ぺ。ぺ。ぺ。
ぺ。ぺ。 ぺ。ぺ。 ぺ。ぺ。


ぺ。ぺ。ぺ。 ぺ。ぺ。ぺ。
ぺ。ぺ。 ぺ。ぺ。
ぺ。ぺ。ぺ。
ぺ。ぺ。


ぺ。


(2004)


雨の子ども

2010年04月26日 | 詩集「雨の子ども」
Ham


雨が降っている
雨が降ると私はいそがしい
家の中が子どもでいっぱいになる
まるで空から降ってくるように
子どもがどこからか現れる
つぎからつぎから
家のすきまから入ってくる
窓もドアも閉めてあるのに
すきまはそんなに沢山あったかしら
いつのまにか家の中は子どもだらけになって
私のひざの上にも
腕や手の上にも
肩から首をつたって頭の上まで
そして、とうとう
私のまゆ毛にまでしがみついている
ああ、たすけてくれ
私はもう子どもは嫌いだ


さらにさらに
雨は天井からも降りはじめている
私のまわりは子どもだらけで
もはや傘をさすこともできない


……………


やがて雨があがると
子どもたちはいっせいにいなくなる
私はひとりぼっちになって
することもなく
青空に向かって傘をひらく


(2004)


雨の音

2010年04月26日 | 詩集「雨の子ども」
Kobito


ぴぃろん ぴぃろん
そんな音だ
内耳のどんづまりから聞こえてくる
窓からぼんやり顔をだして
いつか聞いた
雨の音


ぴぃろん ぴぃろん
おまはんのおとんはどこ行きやった
おまはんのおかんはどこ行きやった
壁が崩れたあんとき
おまはんは炒り豆をこぼいたやろが
豆と金魚とどっちがだいじや


金魚のおもちゃを手にもって
私は父の背中におぶわれている
山の影がだんだん黒くなって
崩れてきそうな1日の終り
線路のさきまで汽車は来ない


母は花柄の着物を着て
父の背中はパンの匂いがした
私は眠ったふりばかりして
どこかのいい国をさがしていた


ぴぃろん ぴぃろん
どこの家だかわからない
誰かが気よわに笛を吹きながら
土の匂いのする裏庭から
私をつれ戻しにやってくる


(2004)


あおぞら

2010年04月26日 | 詩集「雨の子ども」
Aozora


ひさしぶりの晴れた朝に
せんたく物を干すあなたが好きだ
空に向かって2本の細い腕がのびる
ぴっとひろげられた白いハンカチ
青い空に旗のように並ぶ


あなたの空と僕の空はつながっている
青い空の向こう岸にあなたがいて
こちらの岸に僕がいる


あなたの白い四肢が躍動する
さまざまな色彩と模様が空をうめてゆく
大きなシャツに小さなシャツ
長いくつした短いくつした
どらえもんやキティちゃんやアンパンマン
あなたの家族が勢ぞろいする
みんな両手をいっぱいにひろげて
なんという賑わいだろう
なんという祝祭だろう


空がだんだん小さくなる


空がだんだん小さくなって
もう朝を満たすものはないのか
いつのまにか
あなたはいない
あとに残されたちっぽけな空と
僕はひとり


ひらひらとハンカチがいちまい
青空の外へ飛んでゆく


(2004)