風の記憶

≪記憶の葉っぱをそよがせる、風の言葉を見つけたい……小さな試みのブログです≫

ミルキーウェイ

2010年04月21日 | 詩集「恋する地球」
Kaze1


ぼくはほとんど水だ
と彼は言いました
手の水をひろげ足の水をのばす
水は水として生きて
水として果てる
そのとき大気の端とつながり
水からいちばん遠い水と出会う
そこで彼は
はじめて彼女の水に触れました
彼女は言う
水から生まれ水を孕むわたし


軟らかくて丸い
始まりはいつも一滴のしずく
さらに大きなものを
ふたりは宇宙と呼びました


(2008)


アイスランド

2010年04月21日 | 詩集「恋する地球」
Iceland


アイスランドのポストマンは
白い氷の地平を越えてやってきます
彼女のところには
世界中からラブレターが届くんだそうです
毎日カバンいっぱいの愛の言葉を
ポストマンは顔を真っ赤にして運びつづけます
まるで恋人のもとに通うみたいでした


ある日
今までなかった川が彼をさえぎりました
川幅はどんどん広がっていきます
しかたなく手紙はぜんぶ
紙ヒコーキにして飛ばしました
いくつかは向こう岸にとどき
いくつかは川におちました
そしてついには
向こう岸も見えなくなりました
ポストマンは泣きながら大声で叫びました
きみのことが好きだよう


かつて白い山は白く輝き
太陽はやさしく傾いていました
いま広い海原をさ迷っているのは
紙ヒコーキではありません
せっせとラブレターを書きつづけている
白熊のポストマンです


(2008)



金魚すくい

2010年04月21日 | 詩集「恋する地球」
Fish


金魚になるのは
おとなになって初めてです
金魚の糞みたいに
いつもお母さんにくっついていたので
彼女は金魚ちゃんと言われていたのです
そんな話をしたら
さっそく金魚ちゃんと呼ばれてしまいました
彼は金魚すくいが苦手だそうです
大きくてげんきな金魚ばかり狙うので
すぐに網を破いてしまうそうです
いつかまた彼に
金魚ちゃんと呼ばれたい
水のなかで薄紙が溶けるとき
彼女はもういちど金魚になるのです


(2008)



七夕

2010年04月21日 | 詩集「恋する地球」
Hoshi


彼女の誕生日は7月7日
七夕の日です
そのせいかどうか
彼女は星がとても好きなのです
星のブローチとか
星の携帯ストラップとか
もしかしたら
三つ星のレストランとかも
でも彼氏は
せっせと星の砂を集めています
空のカレンダーに
365個の星印が並んだら
ふたりはやっと会えるのです


(2008)


ホトトギス

2010年04月21日 | 詩集「恋する地球」
Kumo16


テッペンカケタカ
ホトトギスはそういって鳴くのだと
彼が教えてくれました
テッペンカケタカ
鋭く空を切りさいて飛び去る
そのとき空のどこかが欠けるのでしょう
あれから彼女の
空のてっぺんも欠けてしまったのです
虚しくて
思いは空へ空へと抜けていくのです
テッペンカケタカ
もういちど聞きたいのは
空の声です


(2008)