階段
階段の上に子供がいる
それはぼくだ
ぼくは階段をのぼる
すると
子供はもういない
階段の下にも子供がいる
それもぼくだ
ぼくは階段をおりる
するとふたたび
子供はいない
かつて誰かを
階段の途中で待っていた
ぼくと誰か
そのときは
ふたりとも子供だった
その日
父が生まれ
母が生まれた
*
でんわばんごう
住むところを
いくども変わったので
電話番号も
いくども変わった
電話番号をたずねられると
一瞬のとまどいがある
3でもないし9でもない
古い番号と新しい番号
ふたつの番号を
そのように生きてきた自分を
そのように探している自分がいる
どこかでベルがなっている
もしもし
もしもし
もういちど
おかけなおしください
*
鞦韆(ぶらんこ)
古い家の梁に
ロープを掛けただけの
特製ぶらんこ
ゆらゆら揺れているのが好きだった
目をつむると
ぶらんこの旅がはじまる
ゆらゆら揺れて
家ごと遠いところまで運ばれていく
ときどき背中から
静止しようとする母の声がきこえる
そんなにゆらゆらしたら
家が潰れてしまうと
いまも庭の椿は揺れているだろうか
古いぶらんこは揺れているだろうか
いまは母がひとり
その家に住んでいる
おまえのせいで
家がゆらゆら揺れているよ
わたしはもう
畳の上を歩くこともおぼつかないと
*
彼岸
まいにち
足ぶみの臼で玄米をつき
大きな木のへらで茶がゆをかき混ぜる
ときには鯰をさばき
誰かのために卵やきを残して
それからまたゆっくりと
山の裾を両手でならしていった
小さな山が
ひとつずつ増えていく
新しい山はひとの形をしている
お腹のようにやわらかい
そこ踏んだらあかん
おばあさんにしかられた
そこにはおじいさんが眠っとるんやさかい
土の中で骨だけになっていく
やがて骨は骨でなくなって
石の標だけが残るころ
いつものように裾をからげ
おばあさんもまた
最後の骨のひととなるため
小さな山を越えていった
階段の上に子供がいる
それはぼくだ
ぼくは階段をのぼる
すると
子供はもういない
階段の下にも子供がいる
それもぼくだ
ぼくは階段をおりる
するとふたたび
子供はいない
かつて誰かを
階段の途中で待っていた
ぼくと誰か
そのときは
ふたりとも子供だった
その日
父が生まれ
母が生まれた
*
でんわばんごう
住むところを
いくども変わったので
電話番号も
いくども変わった
電話番号をたずねられると
一瞬のとまどいがある
3でもないし9でもない
古い番号と新しい番号
ふたつの番号を
そのように生きてきた自分を
そのように探している自分がいる
どこかでベルがなっている
もしもし
もしもし
もういちど
おかけなおしください
*
鞦韆(ぶらんこ)
古い家の梁に
ロープを掛けただけの
特製ぶらんこ
ゆらゆら揺れているのが好きだった
目をつむると
ぶらんこの旅がはじまる
ゆらゆら揺れて
家ごと遠いところまで運ばれていく
ときどき背中から
静止しようとする母の声がきこえる
そんなにゆらゆらしたら
家が潰れてしまうと
いまも庭の椿は揺れているだろうか
古いぶらんこは揺れているだろうか
いまは母がひとり
その家に住んでいる
おまえのせいで
家がゆらゆら揺れているよ
わたしはもう
畳の上を歩くこともおぼつかないと
*
彼岸
まいにち
足ぶみの臼で玄米をつき
大きな木のへらで茶がゆをかき混ぜる
ときには鯰をさばき
誰かのために卵やきを残して
それからまたゆっくりと
山の裾を両手でならしていった
小さな山が
ひとつずつ増えていく
新しい山はひとの形をしている
お腹のようにやわらかい
そこ踏んだらあかん
おばあさんにしかられた
そこにはおじいさんが眠っとるんやさかい
土の中で骨だけになっていく
やがて骨は骨でなくなって
石の標だけが残るころ
いつものように裾をからげ
おばあさんもまた
最後の骨のひととなるため
小さな山を越えていった