洞窟礼拝堂には2階も階下もないそうやが
私は2階で寝ている
階下でこつこつと母の杖の音がしている
小さな昆虫のような音
背中もまがり指もまがり
母はだんだん昆虫に似てゆく
幼児よりも歩くのが下手になって
幼児みたいに泣きながら
きっとまた祈るような声で
いたいいたいと言っている
歩幅も小さくなり
声も小さくなり
いっぱい葉っぱが落ちよる
もうすぐ冬やなあ
などと
ひとりごとを言ったりもしているだろう
私の言葉は母をとがめるので
私はすぐに2階に上がってしまう
母は冬の着物を2階に置いたままだが
もう階段を上がってくることもできない
切支丹には夏も冬もないそうやが
そんな話を母から聞いたのは
ずっとむかし
(2004)