まいにち階段の数をかぞえる
それが母の日課だった
増えたり減ったりするのでとても疲れる
と母はぼやく
階段のある家には住みたくないといった
階段がなくなったら
ぼくの駅がなくなってしまう
階段の途中にぼくの駅はあった
痩せて背の高いひとが手をふっている
ぼくの帰りを待っている父だった
腕を横に伸ばしそれから斜めに下ろす
かたんと音がしてぼくの列車が通過する
階段を上り階段を下りる
一段一段に駅の名前が付いていた
妹はいつも
階段の途中で寝そべっている
そこにはきれいな花が咲いているのだという
ぼくには見えないけれど
いい匂いがするときがある
階段を上るとき窓が動く
階段を下りるとき景色が動く
景色が動くと階段も動きはじめる
脇見をしてはいけないと先生に注意される
だがぼくの列車は走りつづける
階段の途中で父を降ろした
父を降ろした駅は無人駅になった
忘れないように花をいっぱい植えたと妹がいう
花を踏んではいけないと
しばしば妹と言い合いになって
ぼくたちは階段の途中で泣いてしまう
母は階段をかぞえなくなった
階段はもう無くなったのだという
ぼくの階段はなくならないし駅もある
見通しが良くなって静かになった
無人駅の待合室のようにすこしさみしい
階段の途中にすわったまま
窓の景色が動くのを待っている
階段が動くのをいつまでも待っている
(2009)