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武蔵野物語 26

2008-03-08 21:14:56 | 武蔵野物語
雅子は誠二が居るのに気づくと、入り口近くでその男性と短い会話を交わし、帰してしまった。
「あら、今日はお一人ですか、それともゆりこさんと待ち合わせ?」
「一人で来たのです、たまにはいいかなと思って」
「そうですか、ゆり子さんのお父さんは、きょうは来れないそうですが、お会いした事があるのですか」
「・・まだなんです」
誠二が話したがらないのを察して、それ以上聞いてこなかった。
「女将さんと一緒に来られた方は?」
「ええ、たいした用事ではないので帰しました」
「共同経営者ですか」
「いえ、そんなんじゃないんです」
雅子は、準備があると言って店の奥に引っ込んでしまった。
「頼子姉さん、さっきの紳士について何でもいいから調べておいてくれない、お願いだから」
誠二は五千円札を彼女の手に握らせて、縋るように頼んだ。
「分かったわよ、その代わりいい情報が入ったら、その時はまたよろしくね」
「充分お礼はさせて貰います」
お金は掛かるが、交渉は成立した。

誠二の仕事はインターネット販売の営業なので、自ら表回りをすることはなく、府中営業所に詰めっきりなので、休日に都心へ出向くのは刺激があって楽しみになっている。
3月上旬の土曜日、秋葉原で探しものがあり、改札を出ると、メイドカフェの女の子が券を配っていた。1時間程で買い物が済んだので、湯島天神の梅を見に行くことにした。百草園の様な山の梅もよいが、街の一角に昔の情緒が感じられる場所も捨てがたい。
長く続いた今年の寒さの影響で、梅祭りが終わる頃漸く見頃を迎えようとしている。この日は暖かく、大勢の人々が訪れていた。
昼過ぎになり混んできたので、不忍池方面に向かい、旧岩崎邸を左にみてその先を左に曲がって行くと、無縁坂にたどり着く。こちら側からだと東大まで上り坂になるが、森鴎外の名作 雁 を想いながら歩んだ。