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武蔵野物語 28

2008-03-22 18:01:31 | 武蔵野物語
ゆりこの勤めている会社の営業所が、業務拡張に伴い国立駅の近くにも新設されたので、転勤願いを提出したところすぐに受理され、今月から通いはじめている。
都心に行く機会は少なくなってしまうが、自宅から近いのは何よりも楽でいい。
化粧品を主に、医薬品や健康食品等を扱っているが、通販部門のメールによる問い合わせや注文がとても増えており、営業事務の仕事よりも、問い合わせの返事や商品の手配で忙しい毎日を送っている。
比較的新しい会社なので、ゆりこは女性社員の中でも年上の方だ。
ここの所長は40代半ばの、やり手営業マンだったそうで、ゆりこが来た日から目を掛けてくれて、重要な仕事を次々に持ってきた。
そんないつもの昼前、一人で居ると打ち合わせを兼ねて食事に誘われた。
「もう慣れましたか?」
「そうですね、大体流れが分かってきました」
「前の営業所の所長に、あなたの事を聞いておきました、頼りにしていますよ」
「人数が少ないので、どこまでやればよいのか、少し迷っています」
「そうだね、この地区はこれから伸ばしていかなければならないから、そういう面では負担が大きいかもしれないけれど、あなたには女性社員の中心になってもらいたい、と期待しているのです」
「年だけはお姉さんなんですけれど」
「仕事は文句なし、ですよ、若い人達を引っ張っていって下さい」
「私に出来ることでしたら、頑張ります」
あまり頼りにされるのも困るな、とゆりこは戸惑った。誠二の近くに居たい、というのも大きな理由の一つなのだから。
学生の街国立、南に向かって広く真っ直ぐに延びた通りの両側にある桜の古木も、いまにも咲き出しそうな芽が赤みを帯びて待ち構えている。
この日は早出をしたので、食事の後も30分多く昼休みをくれて、反対側の北口の静かな住宅街を道なりに一人で行くと、もくれん科の花が見頃になっている。
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