「そんな課長がいる本社だったら、行かない方がいい」
「私だって嫌よ、いまの職場のが近くていいし」
「でも、しつこい男がいるんだろう」
「平気よ、アパートで一緒に暮らしてる人が居るって、周りにそれとなく話してあるから」
「そう」
「だから、まだ一緒に居てくれるでしょう?」
「それは構わないけど」
「何か都合の悪い事があるの?」
「それはないよ」
「よかった」
「このお店の向こう側に、手児奈霊堂があるんだよ」
「手児奈霊堂って」
「昔、とても美しい娘がいて、井戸に水を汲みに来る度、村の若者達が競って求愛するが、娘は一人を選ぶことができず、悩んだ末入水してしまう、と万葉集にもでているんだよ」
「万葉集に」
「かおりさんも、どこでも注目されるから、現代の手児奈だね」
「私は違いますよ、そんなにもてないから」
この頃平井7丁目付近で、婦女暴行事件が多発していた。
若いOLばかりが狙われ、警察は同一人物の犯行とみて、近所の聞き込みを強化していた。
未遂に終わった被害者から事情聴衆をしたが、30代から40代のスーツ姿の男としか分からなかった。
サツキやバラが咲き揃った土曜の朝、二人は遅い朝食を取っていると、玄関をノックする音が聞こえた。
かおりが返事をすると、警察の者ですという声が聞こえてきた。
ドアを開けると刑事らしい男が二人立っていて、年配の方が話しかけてきた。
「朝からお邪魔してすいません、実は近頃、この辺りで若い女性が狙われる事件が続発しまして、何か不審な事とか、ひとから聞いた話でも結構ですから、情報収集にご協力下さい」
かおりは特にありませんと答えると、刑事は連絡先を渡して帰っていった。
「近くに犯人が潜んでいそうだな、帰り道は気をつけなければね」
「そうね、でも修さんがいるから」
それが問題だ、と寺井は説教したくなった。
「私だって嫌よ、いまの職場のが近くていいし」
「でも、しつこい男がいるんだろう」
「平気よ、アパートで一緒に暮らしてる人が居るって、周りにそれとなく話してあるから」
「そう」
「だから、まだ一緒に居てくれるでしょう?」
「それは構わないけど」
「何か都合の悪い事があるの?」
「それはないよ」
「よかった」
「このお店の向こう側に、手児奈霊堂があるんだよ」
「手児奈霊堂って」
「昔、とても美しい娘がいて、井戸に水を汲みに来る度、村の若者達が競って求愛するが、娘は一人を選ぶことができず、悩んだ末入水してしまう、と万葉集にもでているんだよ」
「万葉集に」
「かおりさんも、どこでも注目されるから、現代の手児奈だね」
「私は違いますよ、そんなにもてないから」
この頃平井7丁目付近で、婦女暴行事件が多発していた。
若いOLばかりが狙われ、警察は同一人物の犯行とみて、近所の聞き込みを強化していた。
未遂に終わった被害者から事情聴衆をしたが、30代から40代のスーツ姿の男としか分からなかった。
サツキやバラが咲き揃った土曜の朝、二人は遅い朝食を取っていると、玄関をノックする音が聞こえた。
かおりが返事をすると、警察の者ですという声が聞こえてきた。
ドアを開けると刑事らしい男が二人立っていて、年配の方が話しかけてきた。
「朝からお邪魔してすいません、実は近頃、この辺りで若い女性が狙われる事件が続発しまして、何か不審な事とか、ひとから聞いた話でも結構ですから、情報収集にご協力下さい」
かおりは特にありませんと答えると、刑事は連絡先を渡して帰っていった。
「近くに犯人が潜んでいそうだな、帰り道は気をつけなければね」
「そうね、でも修さんがいるから」
それが問題だ、と寺井は説教したくなった。