誠二は、暫く就職活動をしないことにした。
少しだが退職金も入り、元々サラリーマン生活はあまり興味がなく、今後どうやって暮らしていくか、考える時間ができ、かえって嬉しかった。
妻敦子の親は、土地をかなり持っていた資産家で、敦子が勝手に山梨の家に行ってから、誠二は一度も仕送りをしていないが、あちらもあてにしていない様だ。
誠二の両親はとっくに亡くなっているが、その時の生命保険金はまだ残している。
小さな店を一件出す位の資金はあるが、妻には話していない。
誠二は久し振りに、銀座の画廊に個展を見にいった。
自分で売れる絵を描くことはまだできないが、学生時代は、あらゆる個展や美術館巡りをしたものだ。
きょう訪れた小島画廊のオーナーとは、美ヶ原高原美術館で偶然知りあった。
誠二は車で行ったのだが、小島は松本からバスを利用してきた。
ところが急用ができ、タクシーを呼んで貰おうとしていたところを、近くで聞いていた誠二が、松本まで送りましょう、と申し出た。
誠二は松本の温泉に一泊する予定だったので、帰り道ですから、と話したところ、小島はとても喜んで、松本に着くまで絵画の話題が尽きず、降りる時、ぜひ一度遊びに来て下さい、と名刺を置いていった。
それ以来、気が向く度立ち寄っているが、いつも近くのコーヒー自慢の店に誘われる。
その日も顔を合わせた途端、いこう、の一言でコーヒーを飲みに出た。
「いや、助かったよ、きのう付き合いで飲みすぎちゃって、きょうのお客さんは君が一番目だから」
「この近くで飲んだのですか?」
「そうだよ」
「高いんでしょうね」
「いや、知り合いの店だから、それよりこの間の件、考えてくれた?」
誠二が失業しているのを聞いて、仕事を手伝ってくれないか、と誘われている。
もう人に使われる仕事はしたくなかったので、はぐらかしていたが、相手は熱心だ。
少しだが退職金も入り、元々サラリーマン生活はあまり興味がなく、今後どうやって暮らしていくか、考える時間ができ、かえって嬉しかった。
妻敦子の親は、土地をかなり持っていた資産家で、敦子が勝手に山梨の家に行ってから、誠二は一度も仕送りをしていないが、あちらもあてにしていない様だ。
誠二の両親はとっくに亡くなっているが、その時の生命保険金はまだ残している。
小さな店を一件出す位の資金はあるが、妻には話していない。
誠二は久し振りに、銀座の画廊に個展を見にいった。
自分で売れる絵を描くことはまだできないが、学生時代は、あらゆる個展や美術館巡りをしたものだ。
きょう訪れた小島画廊のオーナーとは、美ヶ原高原美術館で偶然知りあった。
誠二は車で行ったのだが、小島は松本からバスを利用してきた。
ところが急用ができ、タクシーを呼んで貰おうとしていたところを、近くで聞いていた誠二が、松本まで送りましょう、と申し出た。
誠二は松本の温泉に一泊する予定だったので、帰り道ですから、と話したところ、小島はとても喜んで、松本に着くまで絵画の話題が尽きず、降りる時、ぜひ一度遊びに来て下さい、と名刺を置いていった。
それ以来、気が向く度立ち寄っているが、いつも近くのコーヒー自慢の店に誘われる。
その日も顔を合わせた途端、いこう、の一言でコーヒーを飲みに出た。
「いや、助かったよ、きのう付き合いで飲みすぎちゃって、きょうのお客さんは君が一番目だから」
「この近くで飲んだのですか?」
「そうだよ」
「高いんでしょうね」
「いや、知り合いの店だから、それよりこの間の件、考えてくれた?」
誠二が失業しているのを聞いて、仕事を手伝ってくれないか、と誘われている。
もう人に使われる仕事はしたくなかったので、はぐらかしていたが、相手は熱心だ。