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もう一つの春 21

2006-12-09 09:35:50 | 残雪
春子は寂寥感に襲われていた。
一人で歩いていると、誰もいない高層ビルの迷路に足を踏み入れ、通りをさまよっている自分を空想して、寺井と過ごしたあのような一時はもう戻ってこないのではないか、と内に感ずるものがあった。
都会にいるのが耐えられなくなり、新潟行きの前に思い立って茨城県笠間市を訪ねた。
春子は陶器にもすごく興味をもっていて、すきなマグカップや茶碗を幾つも揃えている。
上野から特急で友部まで行き、そこから水戸線に乗り換えて二つ目が笠間で近い。
土曜の朝8時前に乗ったので、自由席も空いていて楽に座れた。
笠間駅には10時前に着き、自転車を借りる事にした。
やきもの通りは駅から離れており、店も点在しているので、自転車が一番便利だ。
坂を上っていかなければならないが、ゆっくり眺めながら行くには丁度良い。
上りきった左側に共販センターが有る。
こじんまりしているが、作家物や、幾つかの窯元が一通り揃っているので、見ているだけでも楽しくなる。二階には軽食喫茶室も有り、古風な建物が陶芸の里を象徴している。
そこを出て、左側を道なりに下って行くと、また何軒かの窯元がみられるが、普通の民家で、出入り口に器が並べられている感じの店もあり親しみやすい。
通りを過ぎ、道路を越えると工芸の丘に辿り着く。丘の上の建物は広く、地元の物産品から焼物まで幅広く揃えられ充実している。
4~5月の連休に開催される陶炎祭は、この丘を下った芸術の森公園で約200店舗も出店され、一日では見きれない程活況を呈している。
同じ時期につつじ祭りも行なわれている。緑豊かなつつじ山公園に、色とりどりのつつじが映え、都会に多く植えられているものよりも、小さく咲く花が主になっている。各家々の玄関にも飾られ、明るく美しい。
春子は自分と寺井用にマグカップを買ったが、お揃いではなかった。

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