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唐木田通り 21

2006-12-12 20:40:13 | 唐木田通り
沢村は一日でも早く由起子に井上の報告をしたかったが、お互い用事ができ、その週の日曜日の午後、新橋で会う約束をした。都心の方が目立たない分気楽だった。
汐留口方面に出て、古い新橋駅からゆりかもめ汐留駅側に移ると急に視界が開け、高層ビル群の中に吸い込まれていく。ショップ、レストラン、ホテル、有名企業等が入り、日本テレビタワーも有る。歴史ある庶民の新橋と、近未来風な新しい汐留がとても対象的だ。
日本テレビのすぐ前に、仙台藩上屋敷跡のプレートが貼ってある。屋敷跡は汐留遺跡発掘調査で発見されたもので、幕末まで舟入場もあり、倉庫、物資の集積場としての役割を担っていたと記されている。
日テレプラザのエスカレーターを昇った所が一階で、右端のカフェレストランに二人は入った。丁度13時になったところで中は空いていた。隣の席に男性が四人座っていたが、テレビ局の関係者らしい仕事の話をしており、二人が座ってまもなく立っていった。
そこから下を覗くと、音楽に合わせて、サッカーボールを落とさない様に蹴っているパフォーマンスが見られた。
「井上玲子と名刺交換をして話もしてきましたよ」
沢村は興奮気味に説明を始めた。
由起子は、その件についてはどうでもよいという気持ちも半分あったが、沢村の誠意を無にはできず、黙って聞いていた。
「僕は違う角度からも考えてみたのですが、由起子さんに話した日にちの、一日遅れで帰ってきた件ですが」
旦那さんの件と言いたかったが、省略した。
「最後の日は、井上と一緒だったのではなく、会社関係の人間と会う為、岐阜に行ったのではないかと」
「会社関係?」
「そうです、あなたとやり直したい、と何度も頼んできた位ですから、井上とずっと一緒だったとは思えず、できるだけ早く清算して、会社の極秘任務にかかりたかったのではないですか」
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