転載
コスモ石油爆発事故から見えてくるコンビナートの危険
日本共産党千葉県議会議員
小松 実
コスモ石油で何が起こったのか
昨年3月11日の大震災で、コスモ石油千葉製油所のガスタンクが炎上し、爆発を繰り返した映像は、その後、テレビやインターネットで繰り返し流され、多くの国民に衝撃を与えました。当日の京葉臨海コンビナート、市原市五井の現場は、震度5弱。倒壊した「364番タンク」(LPG=液化石油ガス、容量2千キロリットル、1969年建設)は、本震で支柱を支える筋交いが破断、その30分後、震度4の余震によって、尻もちをつくように座屈、倒壊しました。
倒壊したタンクは、周辺に張り巡らされた配管を破断、漏れたガスに何らかの原因で引火し火災が発生します。火炎は、隣接する363番タンクを破壊し、一時は、100メートルもの炎を吹き上げ、タンクの破壊による爆発は、5回に及びました。結局、タンクヤード内の出荷用球形タンク17基すべてが全焼、全損。火災は、10日後の3月21日まで続きました。
幸いなことに人的被害は、事業所内で軽傷3名、隣接の丸善石油化学で重傷1名、軽傷2名の計6名と奇跡的に少なくてすみましたが、近隣118軒の民家のガラスが破損、住民約1000人に8時間にわたって避難勧告が出されました。爆発による飛散物も多く、最大では、10メートル四方、厚さ3センチもの鉄板が飛び、また、幅40センチ・長さ180センチの鉄板が6.2キロメートルもの距離を飛んで、幼稚園の直近に落下しています。たまたま子どもたちのいない時間帯でしたが、大惨事につながりかねない背筋の凍る事態でした。
原因は、安全・人命よりも、効率優先の企業の論理
では、なぜ364番タンクは倒壊したのでしょうか。タンクの定期点検後、LPGを充填する際に、空気が入らないようにするため、タンクには水が張られます。当日、364番タンクは、水で満たされていました。タンクの耐震設計は、LPGが満タンの場合を想定しています。水の比重は、LPGの約2倍。つまり、大地震に見舞われたとき、364番タンクには、耐震設計の約2倍の荷重がかかっていたことになります。
通常、点検後のガスの充填作業は、半日から1日で終わります。ところが、364番タンクは、すでに12日間も満水の状態で放置されていました。そこへ、あの大地震がきたのです。安全管理のあまりにもずさんな実態に唖然とさせられます。
しかし、それだけならあれほどの事故にならなかったかも知れません。配管が破断しても、ガスが漏れた場合、緊急にガスの供給を止める「緊急遮断弁」があるからです。法で設置が義務付けられています。しかし当日、それが作動しませんでした。驚くべきことに、ロックピンを差し込んで、弁を開状態で固定し、作動しないようにしていたというのです。明らかな違法行為です。しかも、これは今回だけのことではありませんでした。2006年以来、なんと合計8回、のべ約3ヶ月間にわたってこの違法行為が繰り返されていました。
今回の違法行為を、会社は、緊急遮断弁に不具合があったからだと説明しました。空気圧で作動する緊急遮断弁の配管に空気漏れがあったというのです。しかし、その不具合はすでに2月7日に発見されていました。つまり、発見から1ヶ月以上も修繕せず、放置していたのです。
出荷作業に支障がでることを嫌って、不具合のある安全装置、緊急遮断弁の機能を止めてしまう。しかも、作業効率を優先して、その不具合の修繕を先送りする。何重にも許されない行為です。
結局、今回のコスモ石油の事故は、ずさんな安全管理ということも含め、人命・安全よりも効率・利益を優先する企業の論理が引き起こしたものだと言わなければなりません。
後日、日本共産党の調査団が現地入りしたとき、対応した千葉製油所所長や会社が設置した事故調査委員会の委員長らは、ロックピンを差し込んだのは、あくまでも現場の判断だったと強調しました。緊急遮断弁が作動しない状況にあることが、係長には報告され、事務所のホワイトボードには書いてあったようだが、課長は知らなかった、というのです。管理者側に責任はない、ということでしょうか。現場への露骨な責任転嫁の姿勢に、辟易とさせられました。
露わになったコンビナートのさまざまな危険
今回の事故は、一歩間違えば、さらに重大・深刻な事態に広がっていた可能性があります。実は、隣接の事業所、チッソ石油化学には、放射性物質である劣化ウランが、765キログラム保管されていました。その保管倉庫が延焼し、焼け落ちていたのです。焼け落ちた屋根が、劣化ウランの入ったドラム缶の上に落ちていたことを県の担当者が確認しています。もし、ドラム缶が破壊されていたら・・・。危機一髪の事態でした。
京葉臨海コンビナートには、他にも、袖ケ浦市の住友化学に65トンという大量の劣化ウランが保管されています。隣接地に、こちらは富士石油の製油所があります。
タンクの耐震化の遅れも深刻です。コスモ石油の事故の陰に隠れてはいますが、今回の大地震でコンビナート全体では、危険物の漏えいなどの異常現象が8件、スロッシングによる浮屋根の破損が1件、報告されています。各特定事業所には、現行耐震基準が示された1982年以前に建設されたいわゆる旧法タンクが、多く残されています。旧法タンクの改修期限は、1千キロリットル以上1万キロリットル未満が2013年12月31日、500キロリットル以上1千キロリットル未満は、2017年12月31日となっています。まだ、5年先の話です。京葉臨海コンビナートには、3180基の石油タンクと397基の高圧ガス等のタンクがあります(2011年4月1日現在)が、そのうちの73%は、1千キロリットル未満のタンクです。1万キロリットル未満が93%を占めています。改修期限の更なる前倒しが、緊急に求められています。
しかも、その中には、液化アンモニア・液化塩素といった毒性ガスのタンクが、約80基含まれています。事故が起これば、より広範囲に深刻な被害をもたらすことは明らかです。しかし、どこにどのような毒性ガスが、どれくらい貯留されているのか、住民には全く知らされていません。したがってもちろん、避難訓練も行われてはいません。可能な範囲での周知といざというときの訓練が必要です。
さらに重大なことは、近年、コンビナート事業所での火災や漏えいなどの事故が激増していることです。03年までは、年間10件程度で推移してきましたが、翌04年には28件と3倍近くに激増、その後も多発の状況が続き、とりわけ昨年は、JFEスチール関連の事故が相次ぐなど、42件を数えるに至っています。
県消防課は、その原因について、物的要因として、「設備の経年劣化及び腐食が際立つ」こと、人的要因としては、「管理不十分」をあげ、とりわけ「社員・社外作業員への管理方法の周知の不十分などが最も多い」と指摘しています。施設の老朽化と同時に、委託や請負が圧倒的な現場での安全管理の技術や知恵の周知、継承に大きな問題のあることが浮かび上がっています。
あまい液状化対策、津波対策はゼロ
しかし、今回の震災で突き付けられた最も重大な課題は、地盤の液状化・側方流動の問題であり、津波対策でした。
震災後、県はコンビナートを形成する72の特定事業所にアンケートを実施しましたが、うち9事業所が、タンクヤード等、危険物施設で液状化が起こったと報告しました。タンクヤードの沈下や噴砂、タンクのコンクリート基礎部分の陥没など、いずれも深刻なものです。その他に、22事業所からは、敷地内の道路や事務棟など、危険物施設以外で液状化の被害があったと報告されました。しかし、そのなかにも、「高圧ガス設備の基礎近傍での液状化」や「危険物施設付近で噴水」「海岸付近の路盤の沈下」など、看過できない事例が含まれています。結果的に、約3割の特定事業所が液状化の被害を受けていたのです。
しかし、その詳細な実態については、県は何もつかめていませんでした。立ち入り調査を求めても、「法的権限がない」の一点張りでした。
濱田政則早大教授がその危険性を指摘する側方流動も1件報告されていました。コンビナート北部の市川市の事業所で、幅60センチ、長さ120~130メートルにわたる側方流動が起こっていたのです。液状化対策が取られていなかった道路部分の護岸が、海にせり出したのです。濱田教授が指摘するように、阪神淡路大震災では、大規模な側方流動が起き、橋脚の基礎が破壊され、橋が落ちています。石油や高圧ガスタンクの破壊につながれば、文字通り、東京湾炎上という事態になりかねません。
液状化が、工学的に問題になったのは、あの新潟地震からといわれています。京葉臨海コンビナートの埋め立て、事業所の創業は、そのはるか以前です。抜本的対策、行政の強力な指導が急務です。
今回の震災は、東京湾岸にも津波対策が必要であることを示しました。これまで、「東京湾には津波は来ない」ということで、対策はまったく取られてきませんでした。
ところが今回、東京湾の一番奥、船橋市で2.4メートルの津波の痕跡が確認されました。木更津市では、2.83メートルが観測されています。東京湾にも、津波は来たのです。委員会での日本共産党の質問に、消防課長は「コンビナートの事業所のなかには、護岸を超えたところがあるかもしれない」と答え、委員会室がざわめく場面もありました。液状化、側方流動によるタンクの倒壊や護岸の崩壊、油の流出や火災に津波が重なる最悪のシナリオを否定することはできません。後日、本会議での日本共産党の質問に、県は、コンビナートで観測された津波の最大波が、2.5メートルだったことを明らかにしましたが、しかし、やはりその詳細な実態については、何もつかんではいませんでした。
県のコンビナート防災計画の見直しと今後
千葉県は今、年度内を目途に「千葉県石油コンビナート等防災計画」の見直し作業中ですが、先般、その「素案」が明らかになりました。
「素案」では、まず、災害想定が全面的に見直されると同時に、大震災を踏まえて、耐震対策が修正されています。
第一に、コスモ石油の事故を踏まえ、高圧ガスタンクについて「定期に行う検査や工事において、通常の運転状態よりも比重の大きい水等の液体を満たそうとする場合、その耐震性能の有無を確認し、有していない場合には、満水期間を必要最低限にとどめるとともに設備の倒壊により破損する可能性のある配管、設備等の保護、縁切り等の措置を行うものとする」と要請しています。しかし肝心の旧法タンクの耐震基準への適合については、「早期実施を指導していく」というにとどまりました。
液状化については、配管等の接続部分に可とう性のある機器の設置を求めるとともに「関係法令により要求されていない敷地部分や護岸等においても地盤改良などの液状化対策に努めるものとする」との新たな文言が盛り込まれました。事業所の敷地全体を視野に入れた液状化対策を求めてはいますが、努力規定では、どの程度の実効性が担保されるのか、甚だ心もとない限りです。
さらに津波対策については、関係市に対し「特別防災区域内の事故情報や津波警報を受けた際の避難情報発令の基準を定めること」とし、「迅速かつ確実な避難勧告等の実施」を求めています。
この見直しと併せ、昨年11月、消防課は「特定事業所等における地震・津波発生時の初動体制の手引き」(以下「手引き」)を発行し、各特定事業所に配布、検討を求めています。そこでは、巻末に参考資料として、すべての事業所の護岸高を地図で明示したうえで、今回の木更津港の津波高が大潮の満潮時と重なった場合には、「津波は護岸を超えて敷地内に流れ込んだことになります」と、警告。護岸や敷地のかさ上げを要請しています。また、初動体制について「避難場所や避難場所までのルートについて社員等に訓練されている」「津波警報発令時の施設の最低限の点検項目は決めてある」など、27項目にわたるチェック項目を示し、点検を求めています。コンビナート事業所に対する津波を想定した初めての指導文書ということになります。
今後、この「手引き」をはじめ、これらの要請がどの程度、実効性を担保できるか、怠りない監視が必要です。
おわりに
この間、県議会には震災対策の特別委員会が設置され、集中的な審議が行われてきました。総務・防災常任委員会の審議も含め、コスモ石油の責任追及や巨大企業が連なるコンビナートの問題では、他党が及び腰になるなか、日本共産党の独壇場でした。
石油・高圧ガスタンクの耐震性の追及では、一般紙も「小規模タンク、半数が未耐震」「石油タンクの47%耐震基準満たさず 容量500~1000キロリットル」と報じるなど、コンビナートの危険な実態を暴露しました。また、県がコンビナート各事業所の護岸高や今回の津波の実態もつかんでいないことを追及、それらを盛り込んだ「手引き」が発行されるなど、その後の改善に結びつけました。液状化問題では、危険物施設を含め対策が取られていない現状を暴露、曲がりなりにも「千葉県石油コンビナート等防災計画」(素案)に努力規定として盛り込ませることになりました。
しかしもちろん、これで十分な対策が講じられたというわけではありません。また、コンビナートが、住民の目も行政の権限も及ばないような特別な地域であっていいはずがありません。コンビナートの問題は、東京湾岸全体にかかわります。引き続き関係都県との連携も進めながら、取り組みを強めたいと思います。
コスモ石油爆発事故から見えてくるコンビナートの危険
日本共産党千葉県議会議員
小松 実
コスモ石油で何が起こったのか
昨年3月11日の大震災で、コスモ石油千葉製油所のガスタンクが炎上し、爆発を繰り返した映像は、その後、テレビやインターネットで繰り返し流され、多くの国民に衝撃を与えました。当日の京葉臨海コンビナート、市原市五井の現場は、震度5弱。倒壊した「364番タンク」(LPG=液化石油ガス、容量2千キロリットル、1969年建設)は、本震で支柱を支える筋交いが破断、その30分後、震度4の余震によって、尻もちをつくように座屈、倒壊しました。
倒壊したタンクは、周辺に張り巡らされた配管を破断、漏れたガスに何らかの原因で引火し火災が発生します。火炎は、隣接する363番タンクを破壊し、一時は、100メートルもの炎を吹き上げ、タンクの破壊による爆発は、5回に及びました。結局、タンクヤード内の出荷用球形タンク17基すべてが全焼、全損。火災は、10日後の3月21日まで続きました。
幸いなことに人的被害は、事業所内で軽傷3名、隣接の丸善石油化学で重傷1名、軽傷2名の計6名と奇跡的に少なくてすみましたが、近隣118軒の民家のガラスが破損、住民約1000人に8時間にわたって避難勧告が出されました。爆発による飛散物も多く、最大では、10メートル四方、厚さ3センチもの鉄板が飛び、また、幅40センチ・長さ180センチの鉄板が6.2キロメートルもの距離を飛んで、幼稚園の直近に落下しています。たまたま子どもたちのいない時間帯でしたが、大惨事につながりかねない背筋の凍る事態でした。
原因は、安全・人命よりも、効率優先の企業の論理
では、なぜ364番タンクは倒壊したのでしょうか。タンクの定期点検後、LPGを充填する際に、空気が入らないようにするため、タンクには水が張られます。当日、364番タンクは、水で満たされていました。タンクの耐震設計は、LPGが満タンの場合を想定しています。水の比重は、LPGの約2倍。つまり、大地震に見舞われたとき、364番タンクには、耐震設計の約2倍の荷重がかかっていたことになります。
通常、点検後のガスの充填作業は、半日から1日で終わります。ところが、364番タンクは、すでに12日間も満水の状態で放置されていました。そこへ、あの大地震がきたのです。安全管理のあまりにもずさんな実態に唖然とさせられます。
しかし、それだけならあれほどの事故にならなかったかも知れません。配管が破断しても、ガスが漏れた場合、緊急にガスの供給を止める「緊急遮断弁」があるからです。法で設置が義務付けられています。しかし当日、それが作動しませんでした。驚くべきことに、ロックピンを差し込んで、弁を開状態で固定し、作動しないようにしていたというのです。明らかな違法行為です。しかも、これは今回だけのことではありませんでした。2006年以来、なんと合計8回、のべ約3ヶ月間にわたってこの違法行為が繰り返されていました。
今回の違法行為を、会社は、緊急遮断弁に不具合があったからだと説明しました。空気圧で作動する緊急遮断弁の配管に空気漏れがあったというのです。しかし、その不具合はすでに2月7日に発見されていました。つまり、発見から1ヶ月以上も修繕せず、放置していたのです。
出荷作業に支障がでることを嫌って、不具合のある安全装置、緊急遮断弁の機能を止めてしまう。しかも、作業効率を優先して、その不具合の修繕を先送りする。何重にも許されない行為です。
結局、今回のコスモ石油の事故は、ずさんな安全管理ということも含め、人命・安全よりも効率・利益を優先する企業の論理が引き起こしたものだと言わなければなりません。
後日、日本共産党の調査団が現地入りしたとき、対応した千葉製油所所長や会社が設置した事故調査委員会の委員長らは、ロックピンを差し込んだのは、あくまでも現場の判断だったと強調しました。緊急遮断弁が作動しない状況にあることが、係長には報告され、事務所のホワイトボードには書いてあったようだが、課長は知らなかった、というのです。管理者側に責任はない、ということでしょうか。現場への露骨な責任転嫁の姿勢に、辟易とさせられました。
露わになったコンビナートのさまざまな危険
今回の事故は、一歩間違えば、さらに重大・深刻な事態に広がっていた可能性があります。実は、隣接の事業所、チッソ石油化学には、放射性物質である劣化ウランが、765キログラム保管されていました。その保管倉庫が延焼し、焼け落ちていたのです。焼け落ちた屋根が、劣化ウランの入ったドラム缶の上に落ちていたことを県の担当者が確認しています。もし、ドラム缶が破壊されていたら・・・。危機一髪の事態でした。
京葉臨海コンビナートには、他にも、袖ケ浦市の住友化学に65トンという大量の劣化ウランが保管されています。隣接地に、こちらは富士石油の製油所があります。
タンクの耐震化の遅れも深刻です。コスモ石油の事故の陰に隠れてはいますが、今回の大地震でコンビナート全体では、危険物の漏えいなどの異常現象が8件、スロッシングによる浮屋根の破損が1件、報告されています。各特定事業所には、現行耐震基準が示された1982年以前に建設されたいわゆる旧法タンクが、多く残されています。旧法タンクの改修期限は、1千キロリットル以上1万キロリットル未満が2013年12月31日、500キロリットル以上1千キロリットル未満は、2017年12月31日となっています。まだ、5年先の話です。京葉臨海コンビナートには、3180基の石油タンクと397基の高圧ガス等のタンクがあります(2011年4月1日現在)が、そのうちの73%は、1千キロリットル未満のタンクです。1万キロリットル未満が93%を占めています。改修期限の更なる前倒しが、緊急に求められています。
しかも、その中には、液化アンモニア・液化塩素といった毒性ガスのタンクが、約80基含まれています。事故が起これば、より広範囲に深刻な被害をもたらすことは明らかです。しかし、どこにどのような毒性ガスが、どれくらい貯留されているのか、住民には全く知らされていません。したがってもちろん、避難訓練も行われてはいません。可能な範囲での周知といざというときの訓練が必要です。
さらに重大なことは、近年、コンビナート事業所での火災や漏えいなどの事故が激増していることです。03年までは、年間10件程度で推移してきましたが、翌04年には28件と3倍近くに激増、その後も多発の状況が続き、とりわけ昨年は、JFEスチール関連の事故が相次ぐなど、42件を数えるに至っています。
県消防課は、その原因について、物的要因として、「設備の経年劣化及び腐食が際立つ」こと、人的要因としては、「管理不十分」をあげ、とりわけ「社員・社外作業員への管理方法の周知の不十分などが最も多い」と指摘しています。施設の老朽化と同時に、委託や請負が圧倒的な現場での安全管理の技術や知恵の周知、継承に大きな問題のあることが浮かび上がっています。
あまい液状化対策、津波対策はゼロ
しかし、今回の震災で突き付けられた最も重大な課題は、地盤の液状化・側方流動の問題であり、津波対策でした。
震災後、県はコンビナートを形成する72の特定事業所にアンケートを実施しましたが、うち9事業所が、タンクヤード等、危険物施設で液状化が起こったと報告しました。タンクヤードの沈下や噴砂、タンクのコンクリート基礎部分の陥没など、いずれも深刻なものです。その他に、22事業所からは、敷地内の道路や事務棟など、危険物施設以外で液状化の被害があったと報告されました。しかし、そのなかにも、「高圧ガス設備の基礎近傍での液状化」や「危険物施設付近で噴水」「海岸付近の路盤の沈下」など、看過できない事例が含まれています。結果的に、約3割の特定事業所が液状化の被害を受けていたのです。
しかし、その詳細な実態については、県は何もつかめていませんでした。立ち入り調査を求めても、「法的権限がない」の一点張りでした。
濱田政則早大教授がその危険性を指摘する側方流動も1件報告されていました。コンビナート北部の市川市の事業所で、幅60センチ、長さ120~130メートルにわたる側方流動が起こっていたのです。液状化対策が取られていなかった道路部分の護岸が、海にせり出したのです。濱田教授が指摘するように、阪神淡路大震災では、大規模な側方流動が起き、橋脚の基礎が破壊され、橋が落ちています。石油や高圧ガスタンクの破壊につながれば、文字通り、東京湾炎上という事態になりかねません。
液状化が、工学的に問題になったのは、あの新潟地震からといわれています。京葉臨海コンビナートの埋め立て、事業所の創業は、そのはるか以前です。抜本的対策、行政の強力な指導が急務です。
今回の震災は、東京湾岸にも津波対策が必要であることを示しました。これまで、「東京湾には津波は来ない」ということで、対策はまったく取られてきませんでした。
ところが今回、東京湾の一番奥、船橋市で2.4メートルの津波の痕跡が確認されました。木更津市では、2.83メートルが観測されています。東京湾にも、津波は来たのです。委員会での日本共産党の質問に、消防課長は「コンビナートの事業所のなかには、護岸を超えたところがあるかもしれない」と答え、委員会室がざわめく場面もありました。液状化、側方流動によるタンクの倒壊や護岸の崩壊、油の流出や火災に津波が重なる最悪のシナリオを否定することはできません。後日、本会議での日本共産党の質問に、県は、コンビナートで観測された津波の最大波が、2.5メートルだったことを明らかにしましたが、しかし、やはりその詳細な実態については、何もつかんではいませんでした。
県のコンビナート防災計画の見直しと今後
千葉県は今、年度内を目途に「千葉県石油コンビナート等防災計画」の見直し作業中ですが、先般、その「素案」が明らかになりました。
「素案」では、まず、災害想定が全面的に見直されると同時に、大震災を踏まえて、耐震対策が修正されています。
第一に、コスモ石油の事故を踏まえ、高圧ガスタンクについて「定期に行う検査や工事において、通常の運転状態よりも比重の大きい水等の液体を満たそうとする場合、その耐震性能の有無を確認し、有していない場合には、満水期間を必要最低限にとどめるとともに設備の倒壊により破損する可能性のある配管、設備等の保護、縁切り等の措置を行うものとする」と要請しています。しかし肝心の旧法タンクの耐震基準への適合については、「早期実施を指導していく」というにとどまりました。
液状化については、配管等の接続部分に可とう性のある機器の設置を求めるとともに「関係法令により要求されていない敷地部分や護岸等においても地盤改良などの液状化対策に努めるものとする」との新たな文言が盛り込まれました。事業所の敷地全体を視野に入れた液状化対策を求めてはいますが、努力規定では、どの程度の実効性が担保されるのか、甚だ心もとない限りです。
さらに津波対策については、関係市に対し「特別防災区域内の事故情報や津波警報を受けた際の避難情報発令の基準を定めること」とし、「迅速かつ確実な避難勧告等の実施」を求めています。
この見直しと併せ、昨年11月、消防課は「特定事業所等における地震・津波発生時の初動体制の手引き」(以下「手引き」)を発行し、各特定事業所に配布、検討を求めています。そこでは、巻末に参考資料として、すべての事業所の護岸高を地図で明示したうえで、今回の木更津港の津波高が大潮の満潮時と重なった場合には、「津波は護岸を超えて敷地内に流れ込んだことになります」と、警告。護岸や敷地のかさ上げを要請しています。また、初動体制について「避難場所や避難場所までのルートについて社員等に訓練されている」「津波警報発令時の施設の最低限の点検項目は決めてある」など、27項目にわたるチェック項目を示し、点検を求めています。コンビナート事業所に対する津波を想定した初めての指導文書ということになります。
今後、この「手引き」をはじめ、これらの要請がどの程度、実効性を担保できるか、怠りない監視が必要です。
おわりに
この間、県議会には震災対策の特別委員会が設置され、集中的な審議が行われてきました。総務・防災常任委員会の審議も含め、コスモ石油の責任追及や巨大企業が連なるコンビナートの問題では、他党が及び腰になるなか、日本共産党の独壇場でした。
石油・高圧ガスタンクの耐震性の追及では、一般紙も「小規模タンク、半数が未耐震」「石油タンクの47%耐震基準満たさず 容量500~1000キロリットル」と報じるなど、コンビナートの危険な実態を暴露しました。また、県がコンビナート各事業所の護岸高や今回の津波の実態もつかんでいないことを追及、それらを盛り込んだ「手引き」が発行されるなど、その後の改善に結びつけました。液状化問題では、危険物施設を含め対策が取られていない現状を暴露、曲がりなりにも「千葉県石油コンビナート等防災計画」(素案)に努力規定として盛り込ませることになりました。
しかしもちろん、これで十分な対策が講じられたというわけではありません。また、コンビナートが、住民の目も行政の権限も及ばないような特別な地域であっていいはずがありません。コンビナートの問題は、東京湾岸全体にかかわります。引き続き関係都県との連携も進めながら、取り組みを強めたいと思います。