荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『キッズ・オールライト』 リサ・チョロデンコ

2011-05-04 01:31:51 | 映画
 サンフランシスコ郊外。レズビアンのカップル(アネット・ベニング、ジュリアン・ムーア)が一男一女をもうけて作りあげた温かい一家が、ある日、匿名の精子ドナー、つまり子どもたちの生物学的な父親の出現によって、波風を立たせる。理想的な配偶者、理想的な母であると自他共に認めあってきた2人にも、中年にさしかかり、性的倦怠がしのび寄ってきたわけである。
 聞けば、女性監督リサ・チョロデンコは、R・W・ファスビンダーへの関心を隠していないとのことだ。となると作中人物は、あたかも鬼気迫るマイノリティの受難と孤立へと突き落とされるかに思えるが、そこはアメリカ映画的にきわめて穏健に扱われ、ユーモアの感覚さえ満ちている。いい作り方をしている。
 ファスビンダー映画にこうしたプロットの元ネタがあったかね、もしくはひょっとすると、2人の母親と2人の子どもが1つ屋根の下に生きるという構図は、ダグラス・サークの『悲しみは空の彼方に』から来ているのかしら、などとさもしく記憶をまさぐりながら本作の画面を見つめてしまったが、じつは、本作のプロットはチョロデンコ自身の人生そのもの──彼女と彼女の長年の伴侶ウェンディには、精子ドナーによって生まれた息子がいる──であるらしい。そして本作は、このウェンディという女性と息子に献辞が捧げられている。
 実直かつユーモラスなシナリオ、メロドラマとしての的確な視線劇がきらりと光る、インディペンデントの佳作。ジュリアン・ムーアという女優は、狂うこともできるし、科学者にもFBI捜査官にもポルノ女優にもなれるし、悲劇のヒロインにもコメディエンヌにもなれる。現代の貴重な人材だろう。


TOHOシネマズシャンテ(東京・日比谷)ほか、全国で上映中
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